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美しい神の島と満島ひかり、共鳴しあってた『海辺の生と死』【さぼうる☆シネマ】
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美しい神の島と満島ひかり、共鳴しあってた『海辺の生と死』【さぼうる☆シネマ】

2017-07-29 21:00
    ほぼ、はじめまして(まだ連載3回め)。
    「風味、味わい」のような意味を持つ"savuer"をちょっと和風に発音しての、さぼうる。雑食系映画紹介人、松本典子がお届けします。今回は、奄美の加計呂麻島を舞台にした半ば幻想的な恋愛劇『海辺の生と死』と、もう1 作は打って変わってビジネス業界的エンタテインメント、あのマクドナルドの誕生譚『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』をご紹介いたしましょう。 奄美の島に、あの恋愛の芽生えがあった......『海辺の生と死』

    儚げで、弾けていて、小悪魔のようで、たくましくて......底知れぬ魅力(とド根性!)を秘めた日本を代表する女優、であることは今や誰もが認める満島ひかり。思えば、アイドルから転身して映画『愛のむきだし』のパンチラはっちゃけカンフー女子高生役で映画的頭角を表したのが2009年。

    その後も『川の底からこんにちは』の投げやりヤケクソOL、『駆け込み女と駆け出し男』の艷っぽくも無垢な愛人、ドラマ『トットてれび』のまんま徹子さん、『カルテット』の不思議チェリスト、ミュージカル『百万回生きたネコ』のひとり2ネコ役、最近ではMONDO GROSSO『ラビリンス』を歌い舞うなど、メディアをまたいで次々に新たな表情(これがもうその都度違って、振り幅すごくて、けれど、どれも"ザ・満島"なのがすごい)を見せていますよね。そんな彼女が主演最新作『海辺の生と死』で、女優の階段をさらにひとつ昇った感あり。必見です。

    太平洋戦争末期、国民学校の代用教員である大平トエ(満島ひかり)は、特攻艇での出撃を待つべく島に赴いた朔中尉(永山絢斗)と出会います。近々出征してしまえば確実に戦死することになる朔は、しかし雄々しい軍歌を厭い、「島の歌を教えて欲しい」とトエや彼女の教え子たちに語りかけるような人物で。

    一方のトエは、真っ暗な夜の磯辺を必死に渡り、半ば泳ぎながら朔の待つ浜辺へと急ぎます。トエが口ずさむ島唄には生と愛が滿ち、しかし、島には戦争の死の臭いも近づいて......。

    本作の舞台となった奄美に自らのルーツを持ち沖縄で育った満島ひかりは、もう、他の誰もが演じ得ないだろうなぁと確信できるほどのハマり役。トエのモデルはのちに作家としても活躍する島尾ミホであり、島尾ミホといえば日本文学界で最も強烈な愛憎をつまびらかにした夫婦の私小説『死の棘』のヒロインであるわけです。のちに晴れて結婚したものの、ミホが夫の浮気によって激しく嫉妬心を掻き立てられ狂気へ誘われたことは知る人も多いでしょう。

    若き日の彼女にその狂気の萌芽を自然に漂わせる満島さんの演技力に感服しつつ、同時に、奄美の島を照らす月明かりも彼女の狂気を引き出すのにひと役買っていたのかも......などと思いあぐねながら観ていると、役者の素晴らしさもさることながら"島の空気"を真摯に映し出した越川道夫監督の演出も見逃せないなと実感します。

    「自分のなかのものが振り起こされちゃうぞ。役者としてだけじゃなく『満島ひかり』として関わらなければいけない作品だ、これは大変だぞ」と発言していた彼女が演じるトエと、濃密で静かな空気に包まれた美しい島は見事に共鳴してみせています。

    マクドナルドは飲食業ではなくて......○○○業!?『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』

    食べたことがない、という人を見つける方が難しいかも......なマクドナルドのハンバーガー。毎日、世界人口の1%が彼らの商品を食べているらしいのですが、「ブラックだったりグレーだったりのニュースも少なくないし、私は食べないなあ」という意見はMYLOHAS読者なら多数派かもしれません(私も、ここ十年以上食べてない^^;)。

    しかし、その誕生秘話は、か〜なり面白いのです。その顛末を描いたのが本作『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』。

    冒頭、レイ・クロックというセールスマンがミルクシェイク用ミキサーを熱心かつ自信ありげにセールスするシーンから始まります。演じるはマイケル・キートン、やや劇画タッチな鋭い目つきはマッチョなアメリカのセールスマン役にぴったりで。しかし、だからと言って簡単に受注できるわけでもなく、立て板に水のごとく売り口上を述べては断られ、追い出されては次の店へと転々と。

    高度成長期のゴリゴリな典型的セールスマン像ってこうなのねと半ば呆れながらも妙に納得の主人公です。確かに、そのポジティブさ(打たれ強さ?)がのちのマクドナルド黄金期を築いたことは確かなようですが、しかし、彼が「マクドナルドを始めた」わけじゃない。

    スピーディにハンバーガーを量産する画期的なシステムを発明し、お客を待たせないセルフサービスのショップを大いに繁盛させたのは、レイ・クロックではなく、その名もマクドナルド兄弟でした。兄弟の店からミルクシェイク用ミキサーの大量注文を受けたレイは、そのシステマティックなハンバーガー製造システムと店の繁盛っぷりに大いに感銘を受け、フランチャイズ展開を持ちかけます。最初は渋っていたマクドナルド兄弟も根負けして商談成立。

    さすがゴリ押し得意なセールスマン、レイは次々と新店をオープンしていくわけですが、全世界3万店規模の巨大産業に成長したのは、フランチャイズ事業にある別の産業を紐付けたことからだったのです。ビジネス通には知られた事実かもしれませんが、私なんぞはびっくりするやら恐ろしくなるやら......。

    思い返せば、レイのフランチャイズによる一号店の予定地でのシーンは、のちに紐づけられた産業を予言するかのような見せ方だったかも。そのあたりも劇場で確かめてみていただきたいお楽しみです。一方で、本家マクドナルド兄弟が"スピード・サービス・システム"を開発するまでの人海戦術的試行錯誤などは実に微笑ましくて素直に「見て見てー」と申し上げたいところ。とはいえ、彼らがレイに出会わなければ、この画期的システムも世界のファストフード業界に広がらなかったかも?とも思うわけですよね。

    レイとマクドナルド兄弟、そのどちらが真のファウンダー(創業者)だったのかなぁ?などとやんわり考えながら、この成功譚の光と影を目撃してみてください。鑑賞後に食べたくなるのはグルメバーガーか、ファストフードか、はたまた......(笑)。

    今回の2作品、並べてみたって何の共通点もありませんが......あ、実話に基づくという点だけ一致しています。世界は広い。

    『海辺の生と死』
    出演:満島ひかり、永山絢斗、井之脇海、川瀬陽太、津嘉山正種
    監督:越川道夫
    www.umibenoseitoshi.net
    2017年7月29日(土)よりテアトル新宿ほかにて公開


    『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』
    出演:マイケル・キートン、ニック・オファーマン、ジョン・キャロル・リンチ、ローラ・ダーン
    監督:ジョン・リー・ハンコック
    thefounder.jp
    2017年7月29日(土)より角川シネマ有楽町、角川シネマ新宿、渋谷シネパレスほかにて公開

    RSSブログ情報:https://www.mylohas.net/2017/07/063800savuer_03.html
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