歯が痛くなったり、虫歯が心配になったりしたときにはどのように対応すればよいのでしょうか。医療法人メディスタイル理事長で、歯科医師の徳永淳二先生に引き続きお聞きします。
Q1.虫歯ってどうしてできるの?
歯を磨いたり、食生活を変えたりしても、世のなかの虫歯を「ゼロ」にするのは難しいことです。なぜ虫歯ができるかは歯科の世界においても深いテーマになっており、まだわからないところもあります。
例えば、歯を磨かなくても虫歯にならない人もいれば、しっかり歯を磨いているのに虫歯になる人もいます。メカニズムは完全にはわかっていないのです。もっとも、さまざまなメカニズムはあるとはいえ、しっかり歯磨きをして口のなかをきれいにすると、虫歯になりにくくなることは確かです。
image via Shutterstock虫歯につながる要因はいくつかありますが、大きな問題になるのは、酸性になって歯が溶けやすくなること。口のなかが酸性になって歯が溶けやすくなるのは、食べた直後です。ですから、頻繁に口に食べ物を入れてしまう人は、口のなかがいつも酸性で虫歯になりやすいのです。
極端な例でいうと、料理人やパティシエなど職業柄よく味見をする人には虫歯が多く見られます。少し時間が経つと、口のなかは中性に戻り、「再石灰化」といって歯が元に戻っていきます。
歯を溶かす酸は、歯に付着した食べかす中の糖類が細菌によって分解されて作られ、歯の表面のエナメル質と呼ばれる硬い層を徐々に溶かします。唾液はこうした細菌の働きを抑えてくれますので、唾液は多い方がよいのです。ストレスが多いと唾液が減ってしまい、虫歯はできやすくなります。
また、レモンや酢など酸性のものを口に入れたときも、口のなかは酸性になり歯が溶けやすくなるので、虫歯になりやすくなるので注意が必要です。
Q2.銀歯はやっぱりよくないの?
image via Shutterstock結論からいいますと、将来、銀歯はなくなっていきます。銀歯は歯を金属で埋めるものですが、銀歯をどんなに歯に合わせて作ろうとしても歯と金属との間にはどうしても30ミクロン(マイクロメートル、マイクロは100万分の1)ほどのすき間ができてしまいます。また、金属は接着剤で歯と接着させることが難しいという特徴もあるのです。すき間には数ミクロンの大きさの細菌が入り込んでくるので、銀歯の下で細菌が増え、虫歯になるケースが多いのです。銀歯を取ると、その下が真っ黒という人がいるのもこのためです。
先進国で銀歯の治療をやっているところも少なく、日本は数少ない国のひとつです。「アマルガム」と呼ばれる金属が使われていますが、水銀が含まれていることから、日本抗加齢医学会などで、水銀などの重金属汚染が健康に与える影響を問題視するような動きもあります。安いため、米国でも少し使われていますが、減らす方向になっています。
一方で、最近ではレジンやセラミックといった材料で歯を作る方法が出てきています。こうした材料で歯と合わせようとしてもすき間はできるのですが、こうした材料は歯と接着剤で密着させることができるのです。新しい接着剤が登場したことも大きいです。確実に虫歯を治し、再治療を防ぐという観点から大切なことです。
レジンやセラミックなどと歯を密着させることを専門的に研究する「接着歯学」という分野があるほどです。この分野は、日本の歯科医学が世界をリードしている分野でもあります。
Q3.保険でできる詰め物、レジンとお金のかかるセラミックはかなり違うの?
レジンとセラミックの前に、同じレジンでも保険診療でできるものと、保険診療外でできるものがあります。それぞれ素材は若干異なりますが、大きく異なるのは、虫歯を削ってできた穴をよりきれいに埋め合わせ元通りに復元するという点です。レジンを歯にぴったり合わせるのはとても難しく繊細な技術が必要です。ミクロンの世界の戦いになります。より確実に治療を行うために、保険診療外の治療ではルーペや顕微鏡をつかってすき間や段差をなくすようにしますのでおすすめできます。
保険診療で行う場合は15分から20分ほどであるのに対して、保険診療外ですと同じ大きさの虫歯でも1時間以上かけて精密に行うことが多いです。再治療を防ぐという大きなメリットがあります。
セラミックは丈夫で色が白く、汚れもつきにくい特徴があります。このセラミックのなかでも材質の異なるものがあります。大きくわけるとハイブリッドセラミック、オールセラミックがあります。ハイブリッドセラミックはセラミックに樹脂が入ったもので、比較的安いのですが、劣化しやすく耐久性にやや問題があります。オールセラミックは、100%セラミックで、ハイブリッドセラミックよりも劣化しづらく安定しており、汚れがつきにくいものなのでベストな選択といえます。
このほか、ジルコニアセラミックという硬さが特徴のものがあり、割れにくいので奥歯やインプラントに適しています。やや色が合わせにくいので、奥歯によく使われています。
どの材料でも、正確に型取りをしてピッタリとした歯をつくるのは、とても繊細で難しいことなので、治療に使うルーペや顕微鏡はとても役立ちます。
Q4.虫歯予防には何をしたらよいのか?
虫歯を防ぐ基本となるのは、歯磨きです。前回の記事で強調しましたが、食後の歯磨きが特に大切です。しかも寝る前の歯磨きが重要です。食後、歯に付着した食べかすで、細菌が増えたプラークで、歯を溶かす酸が発生します。ですから、食べた後に、食べかすをきちんと除去することが大切です。
また歯を溶かす酸のもとになる砂糖を必要以上に口にしないようにすることも意味があります。お菓子は控えめにして、食べたときにはやはり歯磨きを習慣にしたいところ。フッ素を定期的に歯に塗ることで、歯を強くして歯の細菌の増殖を防ぐ効果が期待できますから、歯医者さんに相談してみるのもよいと思います。
ただし、虫歯予防にはどれが適しているかは人によって異なっています。唾液の質や量を測ってくれる歯医者さんもありますので、自分の虫歯リスクを知るためにはそうした検査を受けることもよいと思います。
また、虫歯には栄養や全身の健康も影響します。特に、食事を中心とした生活習慣にも注意をするとよいです。
Q5.虫歯になりやすい人となりにくい人は遺伝って本当?
image via Shutterstock昔の人とも食生活は全く異なっており、砂糖を取る量も異なっています。虫歯予防の方法も変わっていますから、遺伝しているかどうかはまだよくわかっていないというのが正直なところです。もっとも虫歯になりやすい人の特徴としては、口呼吸だったり、唾液が出にくかったりする点があります。そのように口が乾く人が虫歯になりやすいといった特徴のほか、免疫や食生活の影響が大きいと考えられるので、はっきりとはいえませんが、遺伝と関係している可能性はあります。
ちなみに、歯周病も遺伝と無関係ではありません。
Q6.虫歯になりやすい人はどんなケアをしたらいい?
image via Shutterstock小さいころから、虫歯になりやすいとお悩みがある方は、食生活に注意して歯磨きを怠らないようにするとよいと思います。それと同時に、歯並びを整えることも大切です。歯が斜めになっていたり、段差があったりすると、虫歯になりやすいものです。矯正治療を受けることで、磨きやすくなり、よく噛めるようになることで唾液が多くなり、虫歯になりにくくすることができます。
また、口で息をするくせのある人は口のなかが乾きやすくなって虫歯になりやすくなります。ですから鼻呼吸をできるようにすることも大切です。口の機能を保つことで唾液が出てきて虫歯になりにくくなる面もあります。舌や口の運動をしたりすることも有効だと思います。もっというと、口の周りの筋肉は全身とつながっているので、適度な全身運動も虫歯予防に効果的です。全身の健康維持が大事なんですね。
Q7.虫歯と口臭って関係ありますか?
まず虫歯自体が臭いです。ただ、口臭は胃や鼻に原因がある場合もありますので区別することは大切です。あまりにおいをかいだことはないかもしれませんが、虫歯の親知らずを抜いてにおいをかぐと驚くほど臭いです。触るのも嫌だという人がいるほど。虫歯と口臭は、強く関係しています。ここまでご説明した通り、虫歯は細菌の増殖によって酸が発生して歯が溶かされるものです。
一方で、口臭も、口のなかの細菌の増殖と関係しているのです。口のなかの食べかすが分解されたときに、硫黄を含んだ成分やこのほか脂肪分が分解されて発生する成分など、さまざまな成分が気体として広がると知られています。こうした細菌が接点になっているので、虫歯と口臭には関係があるのです。日ごろからの歯のクリーニングはやはり大切というわけです。また、治療した歯に段差や汚れが溜まる部分があると、そこに細菌が増え、臭いがでます。
Q8.歯痛のあらゆる原因を教えてください。
歯の痛みにつながる代表は虫歯です。虫歯が進むにつれて、歯の中心部にある歯髄に炎症を起こすようになり、そうなると強く歯がズキズキと痛むようになります。このほかにも歯の周囲に炎症が起こる歯周炎も歯の痛みを起こします。歯の周辺が腫れて痛みが出るというものです。炎症が進むと歯肉炎と呼ばれる状態になり、膿が出てきて、歯がぐらつくといったトラブルにもつながります。
このほか歯並びの異常による噛み合わせの問題があることもあります。強く歯が当たっているときに痛くなりやすいので注意するとよいでしょう。親知らずの生え方が正常でなかったりすると、歯に過剰な力がかかって歯の痛みを起こすことにもなります。
ただ、口のなかの痛みはわかりにくいときがあり、本当は下の歯が痛いのに、上の歯が痛いと感じることもあるので、痛みの場所は慎重に判断してください。歯の周囲に傷がついたら、歯が痛むことがあります。例えば、歯と歯の間にものが挟まっているときに、本当は歯肉が痛いのですが、歯が痛いと感じることもあります。子どものころであれば、歯が生えるときにも痛くなります。
Q9.歯が痛かったが何日かして落ち着いたとき、そのまま放っておいていいの? 考えられる痛みの原因は?
image via Shutterstock痛いということは原因がありますから、原因を特定して、治療できるようにするのが賢明です。痛みがあったのに、歯医者さんにいったときには収まっているというケースは時々にありますが、放っておくと状態はますます悪化してしまうことが多いです。
歯の痛みが時間をおいて収まった大きな理由は、炎症が収まったからと考えられます。虫歯や歯周炎などの炎症が原因になっているとすると、身体の免疫の影響で炎症が収まったといったことがありえます。細菌を排除しようとする免疫の反応が強すぎるときに痛みが発生します。ですから、炎症が静まると痛みは軽くなります。根本的な解決にはなっていないわけです。
このほか歯並びや親知らずが原因だったり、歯の傷が原因だったりするときも炎症が静まると痛みは軽くなります。大きな症状がなければよいかもしれませんが、また同じような問題は起こる可能性はありますので、歯医者さんに相談するとよいと思います。
昔は人生50年といわれ、歯も50年もてばいいといわれましたが、いまや80年、90年と歯を使うことになります。歯は消耗品という考え方から、メンテナンスをして大事にするように心がけるのが大切。野生動物は、歯がないと死んでしまうこともあります。メンテナンスは欠かせませんので、信頼できる歯医者さんを見つけられるとよいと思います。
Q10.前歯と奥歯、上の歯と下の歯で虫歯になりやすさは違うの?
image via Shutterstock統計もあるのですが、最も虫歯になりにくいのは下の前歯です。下の前歯だけしか残っていない高齢者を見たことありませんか。一方で、下の前歯は歯石がつきやすい歯であることから、歯石が必ずしも虫歯の原因にならないと知ることもできます。
虫歯のなりやすさはさまざまですが、唾液が不足すると虫歯になりやすいため、口で息をするくせのある人は前歯が虫歯になりやすくなります。舌や頬の圧力の強い人は奥歯が虫歯になりやすいこともあります。歯並びがよくない人でも、斜めに生えた歯の部分が虫歯になりやすくなったりします。
Q11.年齢を重ねると虫歯になる歯の部位が変わると聞いたのですが、30〜40代で特に気をつけたいポイントは?
30~40代の特徴として、時代の観点から、比較的に矯正治療を受けていない人が多い世代でもあります。歯並びは虫歯と関係がありますから、気になる方はいまからでも矯正治療を受けてもいいと考えられます。ちょっと脱線しますが、矯正治療は昔であれば12歳~13歳で歯が生えそろってから受けるという考え方だったと思います。ですが、いまは歯が生えてくる段階から、うまく歯が生えてくれるスペースを作るというタイプの矯正治療が注目されています。
アメリカ矯正歯科学会でも、7歳で歯並びのチェックを受けるように勧めています。そうした考え方が子どもの歯医者さんにも広がっており、今後増えてくると思います。咬合育成と呼ばれており、虫歯予防と並んで大事なことだと考えられています。
話を元に戻しますと、30~40代は銀歯をしている人であれば、昔の銀歯の状態が悪くなってくる時期ですから、気をつけるとよいです。また、一般的に年を取るにつれて、唾液の量が減ってくることで、虫歯になりやすくなってきます。
特に注意したいのは、歯の根元の部分です。もともと上の歯と下の歯の合わさる部分や歯と歯の間の虫歯ができやすいのですが、歯の根元の部分については、歯がかわいたときの影響が現れやすいのです。30~40代は歯の根元の虫歯ができやすくなる時期にありますから、歯を磨くときも特に気をつけるとよいと思います。
Q12.虫歯菌を完全に除菌殺菌することはできないの?
虫歯の菌は、乳酸菌の仲間のような細菌も関係しており、あらゆる食品に含まれています。ですので、通常の食事をしている限り、除菌するのは現実的ではありません。食べ物のなかで、こうした細菌が増殖してしまうのが問題になりますので、やはり日々の歯ブラシを怠らないことが最も大切になるのです。口の機能の維持のために舌や口を動かしたり、鼻呼吸をできるようにすることも重要です。口の機能を保つというのは、繰り返しになってしまいますが、注目されています。
また、他の人との接触で伝わってくる細菌にも注意が必要です。虫歯や歯周病の原因になる菌、ヘルペスやインフルエンザも、キスから伝わってきます。
Q13.歯磨き以外に虫歯予防できる毎日の習慣はある?
虫歯を防ぐうえで大切なのは口の機能を保って、唾液が十分に出ている状態にすることと説明をしてきました。身体全体の保湿は大切です。身体が乾燥すると、口が乾いてきます。水分摂取は行うとして、筋肉が身体に水分を保持する働きがありますから、適度な運動も大事です。
食事の後に口のなかは酸性になりますし、砂糖の摂取量が多いと虫歯につながりやすくなりますから、食事と食事の時間を、おやつも含めて3時間は空けるような工夫も大切です。炭酸を含むものや酢っぱいものをよく食べると、歯を溶かしてしまいますので、ほどほどにするとよいでしょう。
ストレスも唾液を増やすことになりますから、ストレスを解消する楽しみを見つけるのも虫歯を遠ざけることにつながると思います。
参考文献『歯科臨床イヤーノート』(家庭の医学.主婦の友社)
徳永淳二(とくなが・じゅんじ)先生
歯科医師。医療法人メディスタイル理事長 。 「美しく健康な生活を医学の力でサポートします」のコンセプトの下で、美容皮膚科と形成外科、歯科の診療を同じクリニックで提供。東京医科歯科大学を卒業後、勤務医などを経て、スウェーデンのイエテボリ大学にてDr.ウィドマークに師事し、神奈川県逗子市にて開業。逗子メディスタイルクリニック