体のゆがみを整え、代謝もあがる「ラジオ体操」
中村先生が「多くの人にラジオ体操のすばらしさを伝えたい!」と強く思うきっかけとなったのは、新体操ナショナルチームのチームドクターとして、世界各地の大会に帯同されていたときのこと。かねてよりラジオ体操は短時間で全身運動ができるとてもよい運動だと考えていた中村先生ですが、秋山エリカさんの指導でトップアスリートたちが練習をする際、準備運動としてラジオ体操をとりいれているのを見て、その思いが確信に変わったそうです。一流のスポーツ選手も実践する「ラジオ体操」には、どのような効果があるのでしょうか。
「ラジオ体操の動きはとくに上半身、体幹を鍛える動きが数多くとりいれられています。左右均等に行うことができるので、体のゆがみを整えてくれますし、普段の生活ではあまり動かさない全身の筋肉と関節を動かすので、代謝もあがります。さらに音楽に合わせてリズムよく動くことで心肺機能を高める効果もあります」(中村先生、以下同)
「ラジオ体操第1」は、昭和26年に老若男女を対象として、すべての国民の健康を目指し制定されました。対して「ラジオ体操第2」は翌年の昭和27年、働く大人を対象にアクティブで疲れにくい体を作ることを目標に制定されたもので、第1と比べると高度な動きで構成されています。ラジオ体操にはストレッチの要素も組み込まれていて、第1はダイナミックストレッチ(動的なストレッチ)、第2はバリスティックストレッチ(反動をつけたストレッチ)が多く含まれているようです。では、大人の女性は第1と第2、どちらをやればいいのでしょう。
「日頃運動をしていない人は、まず第1だけをやってみてください。第2は反動をつけて行う動きが多いので、自分で制御できる筋力や体幹の力がないと、関節などを痛めてしまう可能性があります。第1で基礎的な筋力をつけてから、第2に挑戦するのがよいでしょう。第1だけで約3分、続けて第2をやっても約6分。1日1回、毎日続けていけば、どんどん体が整っていくことを実感できると思います」
小さな不快感を放置すると、やがて大きな痛みになる
最近は、運動不足や悪い姿勢が原因で、どこも悪くないように見えても体のどこかに不調を感じている人が多いのだとか。整形外科で受診しても「様子をみましょう」「もうちょっと悪くなったら来てください」と言われるのが目に見えていて、肩や股関節、腰などに不快感があっても、そのまま放置してしまいがちです。ところが、その不快感を蓄積させていくと、やがて大きな痛みになりかねないそうです。
「たとえば、『ぎっくり腰』は重い荷物を持ちあげたときだけでなく、紙一枚を拾おうとしたり、くしゃみをしただけでも起こります。ほんの小さな外力なのに大きな症状が出るのは、小さな不調を長い間対処せずに放置していたということ。体の不快感や不調が積み重なると、何か些細なことが引き金となり、急激な痛みとなって現れるのです。体が発するサインを都度対処しておけば、急に激しい痛みに襲われることを回避できますし、何より快適に過ごせます。軽い痛みが続いている状態って、それだけでかなり憂鬱で、日常生活から気力を奪いとってしまいますから」
小さな不調をため込まないためにも、毎日ラジオ体操をすることは効果的です。実際にやるときは、音に合わせて約3分間通しでやるといいのですが、今回は「肩こり&腰痛」対策として、とくに効果的な運動をラジオ体操第1のなかからピックアップ。ストレッチ、正しい立ち方とともに中村先生に解説していただきます。 ラジオ体操、ストレッチともに動きと呼吸を連動させるとさらに効果が上がります。体操は「伸びるときに吸う、曲げるときに吐く」、ストレッチは「伸ばすときに吐く」が基本となるので覚えておきましょう。
肩こり&腰痛予防に効く
【ラジオ体操】
●肩こり(第1-3番目:腕を回す運動)
平面を意識しながら外回し、内回し。遠心力を利用して腕をリズムよく動かすことで、肩甲骨の周りの筋肉が活性化されます。
1.腕を胸の前で交差させた状態から、横に振りだすイメージで外回し。かかとは上げない。 2.両腕をクロスするときは、体から離さず鼻の近くを通す。振り下ろす手は力を抜いて。 3.肩の高さまで上げたら、次は腕を内側に振り下ろして胸の前で交差させる。内回しも同様。●腰痛(第1-5番目:体を横に曲げる運動)
体側を左右交互に伸ばすことにより、体のバランスを整えます。倒すときは前のめりにならないよう、わき腹が伸びていることを意識して。
1/息を吸いながら、腕を上にぐーっと伸ばす。かかとは上げず、肩の力は抜くこと。 2.息を吐きながら、腕を伸ばしたまま上半身だけを曲げて、体側をぐぐっと伸ばす。【ストレッチ】
●肩こり(肩甲骨回し)
ひじで円を描くように後ろ回し前回し、各5回。肩甲骨周りの筋肉がほぐれてコリを解消することができます。
1. 背筋を伸ばして、指先を肩に添えてひじを回す。 2. 肩から指先が離れないよう注意しながらリズムよく。 3. 肩甲骨が動いていることを意識して、ひじを大きく後ろへ回す。前回しも同様。●腰痛(ハムストリングスのストレッチ)
太ももの裏にあるハムストリングスが硬くなると、腰痛の原因に。長時間座ったあとは、意識的に伸ばしましょう。
前脚のひざを伸ばしてつま先を上げ、体が「く」の字になるようお尻を引く。背筋は伸ばしたまま、太ももの裏をじわっと伸ばす。【正しい姿勢(立ち方)】
あごを引いて、耳、肩、ウエストの真ん中、くるぶしが一直線になるように立つ。お尻をキュッとしめるイメージ。腰を反りすぎて「でっ尻」になったり、肋骨が出すぎたりするのはダメ。呼吸をして、1番空気を吸い込める姿勢が正しい姿勢です。
呼吸と正しい動きを意識してやってみると、たった3分のラジオ体操がこんなにハードだったのかと驚かれることでしょう。初日は前屈をしても床に届かなかった指先が、毎日やっているとだんだん届くようになっていくなど、小さな変化を感じられるので楽しくなっていきます。会社に行く前や家事の合間にもできるラジオ体操。毎日3分の積み重ねがあなたの体を変えていきます。
中村格子(なかむら・かくこ)
整形外科医師、医学博士・スポーツドクター、Dr. KAKUKO スポーツクリニック院長、横浜市立大学客員教授、よこはま健康づくり広報大使。「健康であることは美しい」をモットーに整形外科医・スポーツドクターとして各種競技の日本代表選手をはじめとしたトップアスリートを支える傍ら、スポーツと医療の架け橋としてより多くの人の健康で美しい人生をサポートすべく自身のクリニックのほか、テレビ・雑誌などのメディアでも多数活動。
『DVD付き もっとスゴイ!大人のラジオ体操 決定版』(講談社)
美しい動きの第1とダイナミックな動きの第2。続けるほど体が整い、若々しく疲れにくい体になるラジオ体操をわかりやすく紹介。正しい動きと呼吸で行えば、さらに効果はアップします!
写真 / 内山めぐみ 取材・文 / 山本千尋