「果物は糖分だから太りやすい」は誤解
『太らない間食(文響社)』や、『糖質を味方にするズルイ食べ方(ワニブックス)』などの著書で知られる足立先生。果物は甘いので太りやすいというのは誤解であり、どう健康的に食べるかを考えるべきだと話します。
「日本人の果物摂取量は年々減っていて、国が定める摂取目標を大きく下回っています。それなのに“食べ過ぎると太る”という説が、果物不足を招いている。太る原因は糖質の摂取ではなく、食後血糖値の急上昇にあるのです」(足立先生)
怖がるべきは「食後過血糖(血糖値スパイク)」
食事をすれば血糖値が上昇するのは当然のことで、血糖値の上昇自体が悪いわけではありません。問題は、食後の血糖値が急激に上昇する「食後過血糖(血糖値スパイク)」。食後に血糖値が上昇すると、血糖値を下げようとインスリンが分泌されるのですが、「食後過血糖」になると以下の問題が生じます。
インスリンが血液中に大量に分泌され、余分な糖を脂肪として溜め込む働きをする。 血管が炎症を起こし、心疾患などの動脈硬化性疾患の原因になる。 血糖値が急上昇・急降下するとインスリンがうまく作用せず、食事をしていてもお腹が空き、糖質を食べたくなるので太りやすくなる。つまり、「食後過血糖」をコントロールできないことが肥満につながるのです。
「ひと口に糖質といっても、ごはんと果物の糖質の種類は違います。糖質の量ではなく、糖質の種類によって血糖値の上がり方は違ってくるのです。短絡的に糖質カットするのではなく、糖質の種類を知り、どんな糖質を避けるべきなのかを確認しなければいけません」(足立先生)
果物の果糖は血糖値が上がりにくい
足立先生によると、糖質のうち血糖値がもっとも上がりやすいのはぶどう糖。次が砂糖(しょ糖)。もっとも上がりにくいのが、果物に含まれる果糖です。
ただしジュースやスポーツドリンクに入っている果糖ぶどう糖液糖(異性化糖)は、トウモロコシなどからとったでんぷんを原料にした人工的な糖で、果物の果糖とは別物。糖質の急上昇を招きやすく、異性化糖の消費量が多い国は糖尿病率が高いといったデータ(※1)もあるそう。血糖値コントロールのために避けなくてはいけないのは、この異性化糖であると足立先生は指摘します。
足立先生の調査によると、キウイフルーツ、りんご、オレンジ、みかん、パインアップル、バナナなどは、食べると食後30分後の血糖値は上がるものの、どの果物も「食後過血糖」となるほどの値までは上昇しませんでした。そのなかでもキウイとりんごは、特に食後血糖値の上昇が低い果物であることがわかったといいます。
定説を疑え。果物を食べ過ぎるとどうなる?
足立先生のチームはさらに、「果物の食べ過ぎはいけないのか」という疑問を検証するべく、実際に“果物の食べ過ぎ”にチャレンジ。標準的な量の2倍を食べたところ、パイナップルだけは「食後過血糖」の目安である血糖値140を超えたものの、ほかのフルーツは140を超えることはありませんでした。キウイに至っては、1食に4個食べても15%しか血糖値が上昇しなかったそう。
「1食で4個のキウイを食べ続けるのは、やってみるとかなり大変でした」と足立先生。これだけ食べても過血糖にはならないのですから、「果物の食べ過ぎに注意」という説に説得力がないことがわかります。
太らず栄養摂取。果物のズルイ食べ方
足立先生の調査で、食後30分後の血糖値上昇率が特に低いことが判明したキウイフルーツ。30分後の血糖値は果糖と食物繊維が多いほど上昇しにくく、砂糖(しょ糖)が多いほど上昇しやすいとのこと。キウイとりんごは果糖が多く、さらにキウイは砂糖(しょ糖)が少なく食物繊維が多いため、血糖値上昇の抑制につながるのです。
そこで足立先生がすすめるのが、ふだんの食事にキウイをプラスする“ズルイ食べ方”です。
「日常的な食事にキウイ1個をプラスした場合、食後血糖値がもっとも上昇する30分後~1時間後も、キウイの影響による血糖値上昇はほとんどありませんでした。
キウイを1個足すだけで、ビタミンCは1食分の推奨量の2倍以上、ビタミンE、葉酸、銅は1食分以上、食物繊維、カリウムがほぼ1食分の必要量を満たします。キウイは食後過血糖を起こさないだけでなく、栄養面でも優れている。いつもの食事にキウイをプラスするだけで、太りにくい上にマルチビタミン的に栄養を摂取できるのです」(足立先生)
1日あたり約250gの果物摂取が理想
日本人の果物摂取量は、40年以上にわたって目標値を下回っています。海外先進国では年々消費量が上昇しているのに対し、日本はそのまま。その理由のひとつに、果物に対する誤解があると足立先生。
「日本国内では、果物が糖尿病に悪影響を与えるという医療関係者もいます。しかし権威ある医学誌では、1日あたり約250gの果物摂取で、糖尿病リスクがもっとも低いという研究発表もされています(※2)。
糖質は制限するのではなく、質で選択するべき。1日の食事回数とBMIの関係を解析した研究結果では、1日の食事回数が多い人のほうが果物の摂取量が高く、BMIが有意に低いという報告もあります(※3)。1日あたり約250gの推奨量は、食後や間食にプラスするなどして、ぜひ上手に果物を食べてください」(足立先生)
食生活において、“制限”は一生続けることは難しい。食事は引き算ではなく、かしこく足し算したほうがいい——と語る足立先生。理由なく果物を避けず、要領よくプラスすることで、より健康的な食生活に近づくことができそうです。
(※1)Global Public Healthより。
(※2)出典元BMJ Open 4: e005497, 2014より引用。
(※3)J Acad Nutr Diet 115:528, 2015より。
足立香代子(あだち・かよこ)先生
一般社団法人臨床栄養実践協会理事長。せんぽ東京高輪病院名誉栄養管理室長。中京短期大学家政科食物栄養専攻卒業。医療法人病院を経て、長年せんぽ東京高輪病院(現・東京高輪病院)に勤務。医療現場にて〝栄養食〟の面から患者をサポートし、栄養摂取量に基づいた低栄養や生活習慣病患者の栄養診断に基づいた栄養指導法に定評がある。著書に『太らない間食 最新の栄養学がすすめる「3食+おやつ」習慣』(文響社)、『医師が信頼を寄せる栄養士の糖質を味方にするズルイ食べ方 - 人生を守る「足し算食べ」BEST100』( ワニブックス)など。
取材・文/田邉愛理、企画・構成/寺田佳織(マイロハス編集部)、image via shutterstock