イギリスのガールズグループとして一斉を風靡したスパイス・ガールズのシンガー、メルビーは8月26日に、イギリスのタブロイド紙『ザ・サン』に、アルコールの問題と性的な問題でリハビリセンターに入る予定だと話しました。現在はPTSD(心的外傷後ストレス障害)の治療を受けているとのこと。
最初はアルコール依存症とセックス依存症の治療を求めていると報道されましたが、その後彼女は、アメリカのTVトーク番組『エレンの部屋』のインタビューで、「アルコール依存症でもセックス依存症でもないけれども、『痛みを和らげる』ためにそれらに頼ったこともあった」と説明したのです。
本人が言うにはこうです。「この6カ月はすごく大変でした。自分の気持ちをコントロールできないようなときもあったから。でも、問題は決してセックスやアルコールではありません」と。
そのうえで「すべてに共通している問題があるのです。自分が危機的な状態にあるとはよくわかっており、自分についてはよくわかっています。ただし、今のところはうまく対応できつつあると思っています」と話します。
メルビーは、自身の本、『ブルータリー・オネスト(Brutally Honest)』に取り組むうちに、映画プロデューサーのスティーブン・ベラフォンテとの離婚後に、彼女がおさえこんできた「巨大な問題」が浮上したと明かしてくれたのです。
image via Shutterstock彼女の口から出てきたこととは、何年間も元夫から肉体的にも精神的にも虐待を受けていたこと。そうして診断されたのが「PTSD」でした。
そして、賛否がわかれている治療である“EMDR”という心理療法を始めたのです。
「たくさんの治療を試した後に、EMDRを始めました。簡単に言うと、記憶をたどりながら、つらいトラウマ体験に向き合うというものなのです。
アテが外れなければと思っているけれど、これまでのところはホントに助かっています。つらさやPTSDの問題、男女がそうしたことに目をそむけようとしている問題の解決になり得るなら、私はそこに光を当てていきたいと思っています」
EMDRってどんなもの?
image via ShutterstockEMDRでは、まず治療を受ける本人が、セラピストの指が行ったり来たりするのを見つめます(古くからの催眠術みたいに)。そうしながら、心のなかにあるトラウマ体験のイメージや考えに集中していくのです。
セラピストは、「心を空っぽにして、どんな考えや感情、イメージが自然に心に浮かぶかに注意してください」と伝えてきます。本人が抱いているネガティブな思考が、ポジティブなものに移行するように優しく導いていくのです。
アメリカの一般向け科学雑誌『サイエンティフィック・アメリカン』誌によると、この方法は、PTSDに結びついた不安症を治療するために、1980年代に心理学者のフランシーヌ・シャピロが発明しました。
さらに、その後、多くのセラピストがうつ病や統合失調症、摂食障害などほかの症状の治療にも使いはじめました。
「EMDRの効果を理解するには、PTSDを神経学のレベルで理解する必要があります」と、“依存症”と“関係性”を専門とする、ニューヨークシティーとコロラド州テルライドで活躍している心理療法士で博士のポール・ホークマイヤーさん。
image via Shutterstockつまり、トラウマになるような出来事を体験した場合、ほんのわずかでもその出来事に似た状況に遭遇すると、強いストレス反応が脳内で起こってしまうのです(PTSDの例を説明するときに、車のバックファイアの音でパニックになる兵士がよく描かれます)。
そして目を行ったり来たりしてもらうのは、トラウマから離れたもっと反応が少ない状態へと脳の神経が再配線されるようにする目的からなのです。目を動かすことで、トラウマになっている記憶やイメージの鮮明さが失われていき、ストレスも弱まっていくという専門家の見解があります。そうしてPTSDの症状を和らげてくれるというわけです。
「記憶というのは思い出されるたびに前とはほんの少し違った形でしまいこまれて、一部が抜け落ちたり、変化したりするのです」と、EMDRの研究を行ったウエスタン・オーストラリア大学の臨床心理学者で准教授のクリス・リーさんが『サイエンティフィック・アメリカン』誌で述べています。
目の動きをうながすことで、トラウマになっている記憶を変化させるような余地が生み出されるのかもしれません。
EMDRはホントに効く?
image via Shutterstock効果があるかどうかは議論の的です。
これまでの研究によれば、EMDRは“有効性が証明されていないほかの治療”よりも効果があるとも指摘されています。
ほかの治療とは、リラクゼーションやアクティブリスニング(積極的傾聴法と呼ばれる方法で、セラピストは治療を受ける人の話を注意深く聞くものの、思考のプロセスに対してはさえぎったりしない)など。EMDRの方が、ストレスに関連したPTSDを和らげる効果が示されているのです。
EMDRは標準的な認知行動療法と同程度の効果と示す、ほかの研究もあります。何でも否定する人にとって、簡単にニセ科学として片付けるのも簡単ではあるのです。
ただ、研究で確実にわかっているのは、EMDRは、PTSDの治療を全くしないよりもはるかによい選択だということ。
EMDRは十分に有効性が認められるようになっており、専門組織もこの治療法の支持派にまわるようになったのです(アメリカ精神医学会、国際トラウマティック・ストレス学会、アメリカ国防相、退役軍人省)。
ホークマイヤーさんはセラピストとして、EMDRを頻繁にすすめているそう。
「でも、成功するかどうかは、実際にEMDRを行う臨床医、紹介したプライマリ・セラピストの私、そして患者が、どれほどしっかりした治療関係を築けるかにかかっています。EDMRは患者に最初のトラウマを再体験させますから、高度のケアが不可欠なのです」
PTSDのほかの治療法
image via ShutterstockホークマイヤーさんがEMDRをすすめるのはたいてい「愛着障害」と呼ばれる障害のある人です。
この障害は「本人がまだ子どもの頃に、主に養護してくれていた人に捨てられたり、裏切られたりした状況」が原因になっているものです。例えば、生まれてすぐに養子に出された人、病的にナルシストの両親に育てられた人、依存障害の人などが含まれるそう。
でも、すべての患者に対してEMDRが向いているわけではないかもしれません。
ホークマイヤーさんによると、「”境界性人格障害“のある人、あるいは重いトラウマを抱えた人。私との基本的な治療関係からほかに紹介するのが安全ではないようなケースです。そのような人に対してはもっと繊細な治療戦略を適用して、トークセラピーの範囲のなかで、トラウマになっている配線をとめるようにします」
なお、トークセラピーには、認知行動療法(トラウマに焦点を当てて、ネガティブな記憶の処理を助ける方法)、現在中心療法(ネガティブな記憶が日常生活にどのような影響を与えているかを調べ、その影響を減らす助けになるソリューションを探す、トラウマに焦点を当てない方法)など、さまざまなタイプがあります。
気になる症状があるならば、主治医と話し合いを始めてもよいかもしれません。
自分の心に向き合ってみる
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訳/STELLA MEDIX Ltd.