疲れた現代人の心に効く言葉ーーそれは時に小説の中に隠れていることもあります。
即効性のあるマニュアル本とは違った、
じわじわと自分の心に効く言葉ご紹介していきます。
今回は、綿矢りささんの著書『しょうがの味は熱い』から。

「あともう少しがんばれば幸せになれるかもしれない。でも愛や結婚は、あともう少し、と努力するものでしょうか」

――綿矢りさ著『しょうがの味は熱い』

結婚に焦る26歳の女性・奈世と、結婚願望のうすい彼氏・弦。同棲して半年になるのに、ふたりの関係は結婚に向かうどころか冷え切っていた……。そんなごく普通のカップルを描いた小説『しょうがの味は熱い』からの、心に突き刺さる一節です。

それほどドラマチックな展開はないけれど、結婚に焦ってハイになるアラサー女子の空回りぶりがリアルで思わず苦笑いしてしまいます。

愛や幸せを得るためには、たしかにある程度は努力や忍耐が必要です。でも、自分らしさや本音を捻じ曲げるのはちょっと違う。“自分そのもの”をないがしろにしているのに、愛も幸せも手に入るわけがありません。

価値観のまったく異なるふたりの人間が、相手をなんとかして獲得しようと「あともう少し」と頑張って一方的に尽くしたりへりくだったとしても、いつか限界がやってくるのではないでしょうか?

『星の王子さま』のサン=テグジュペリは「愛するということは、おたがいに顔を見あうことではなくて、いっしょに同じ方向を見ることだ」という名言を残しています。

まず、自分というひとりの人間がどう生きるべきかを確立させてから、価値観の合うパートナーを探した方が、二人で一緒に幸せな人生を歩むことができそうです。

参考:綿矢りさ著『しょうがの味は熱い』

文/吉野潤子

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