兵庫医科大学 内科学消化管科主任教授の三輪洋人先生は、「日本人の約半数は便秘を病気と思っていないけれど、便秘は治療が必要な病気」と話します。
意外に知られていない便秘の種類や治療法について、前・後編にわけてお届けします。
便秘治療に影を落とす“認識のズレ”
「快食・快眠・快便はクオリティ・オブ・ライフの基本。
それなのに、ある調査(※1)では日本人の28.4%が“自分は便秘である”と認識しているという結果がでました」(三輪先生)
この数字の大きさは、保健衛生上、大きな問題だと三輪先生。
しかし、じつは便秘にはいろいろな定義があり、海外には非常に複雑な「慢性便秘症」の判断基準があるけれど、日本では浸透していないと話します。
「じつは医師と患者の間でも、便秘についての認識の違いがあるのです。
患者さんの悩みの第一位は腹部の膨満感なのに、医師が診断にあたって重視する項目の第一位は排便回数の減少(※2)。これでは治療の満足度を高めることは難しいでしょう」(三輪先生)
なぜ、便秘になるの?
ここで便秘のメカニズムをおさらいしましょう。食べ物を摂取すると、消化管を移動しながら消化と吸収が行われ、残った老廃物が便となって1~3日後に排泄されます。
ところが小腸や大腸の動きが低下すると、老廃物の移動に時間がかかり、通常よりも余計に水分が体内に吸収されて、便が硬くなります。
また、直腸の筋肉がうまく機能せずに便が排出されなかったり、ストレスが便秘の原因になったりすることもあります。
“スッキリ”へのこだわりが強い日本人
便秘の症状は、おおむね「排便回数の減少」と「排便困難」に分けることができます。
「排便回数の減少」にあたるのは、排便がおおむね週3回未満の場合。回数が減って排泄物がたまり、腹部の膨満感や腹痛、不快感を伴います。
いっぽう「排便困難」は、排便時の過度のいきみ、便が硬くてなかなか出ない、排便後も便が残っている感じがしてスッキリしない(残便感)などの症状があること。
「日本人はとくに、スッキリと質のいい便が出ることへのこだわりが強いんです。
ただ出るだけではダメで、“残便感のない自発的排便”であること。それが日本人の便秘治療の目標となります」(三輪先生)
便秘は4種類にわけられる
次に、便秘のバリエーションを見ていきましょう。便秘はその原因から、4種類にわけることができます。
1.機能性便秘
便が作られる過程や排便の仕組みに障害があって起こる。慢性便秘症もここに分類される。
2.器質性・症候性便秘
消化官の病気(大腸がん、炎症性腸疾患、腸閉塞など)により、腸管内が狭くなったり、腸の働きが低下することで起こる。糖尿病やうつ病など、ほかの病気に伴って二次的に便秘になることもある。
3.薬剤性便秘
腸管の運動を抑制する作用を持つ薬剤(オピオイド系薬、抗コリン薬、抗パーキンソン病薬など)が原因で起こる。
4.便秘型過敏性腸症候群(便秘型IBS)
上記1~3に当てはまらない便秘。ストレスなどで便秘や腹痛が起こり、それらの症状によりストレスが増大する「脳腸相関」が起こりやすく、便通異常、腹痛、不安感などの出現・増悪がみられる。
後編では、便秘の人が食生活と生活習慣で見直したい6つのポイントや、便秘薬の選び方についてお伝えします。
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※2 三輪洋人 他:Ther Res.38:1101,2017.Dept of Gastroenterol, Hyogo College of Med
取材・文/田邉愛理、image via shutterstock