同じ年齢なのに、シワやシミが多くて老けて見える人と、そうでない人がいるのは「酸化」が大きくかかわっているようです。見た目の老化だけでなく、ガンや認知症などさまざまな病気のリスクを高めてしまう酸化とは、どのようなもので、どうすれば防げるのでしょうか。

抗酸化食品や酸化ストレス研究のエキスパートである名古屋大学名誉教授で愛知学院大学心身科学部特任教授・人間総合科学大学教授の大澤俊彦先生に、3回にわたって教えていただきましょう。

「活性酸素」は、よいはたらきも悪いはたらきも

ヒトの遺伝子は生まれてから55回くらい細胞分裂をして、だいたい125歳で死に至るようプログラムされています。でも、ほとんどの人はプログラムよりも早く亡くなってしまう。老化を進めて病気を引き起こす原因のひとつ、それが「酸化」だと考えられています。

ヒトは毎日500リットル以上の酸素を吸い、そのうち約2%=10リットルが「活性酸素」になります。活性酸素は細胞や遺伝子を傷つけ、老化を促進するので悪いものだと思われがちですが、実は人間の身体になくてはならないもの。細胞内のミトコンドリアを介して身体を動かすために必要なエネルギーやホルモンをつくったり、体内に侵入した悪い菌やウィルスを退治したり……と大切な役割があるのです。

つまり、活性酸素はよいはたらきも悪いはたらきもする“諸刃の刃”。レドックス(酸化還元)のバランスが崩れないようにすることが大事で、必要以上に増えてしまうと問題になる、ということです。

「活性酸素」が増えすぎて、自分自身を酸化させようとする力のことを「酸化ストレス」といいます。酸化ストレスが蓄積すると自らの細胞を傷つけてしまうので、老化が進行してさまざまな病気につながっていくのです。

酸化と糖化を進める「フリーラジカル」

近年、老化のキーワードとして注目されている「酸化」と「糖化」は、互いに影響を及ぼす困った関係にあります。

タンパク質が糖と結びついて老化の原因物質AGEを生み出すことを「糖化」といいますが、糖化する過程で「フリーラジカル」という不安定な電子が発生して酸化を促進してしまいます。また、活性酸素のなかにもフリーラジカルが存在するので、酸化が糖化を進める原因にもなるのです。

ここで、「フリーラジカル」について説明しておきましょう。電子や分子は対をなすことによって安定して存在する“夫婦のようなもの”。

仮に、何らかの理由で夫婦が別居状態になったとします。ペアの状態だと安定していたものが、別々に住むと不安定になって、つい別の相手を求めてフラフラしてしまう。よその奥さんや他人の彼女でもお構いなしに奪い取ってしまい、今度は奥さんや彼女をとられた人が不安定になって……と、悪い連鎖がどんどん広がっていく。フリーラジカルとは、“別居中の夫婦”のようなものだと考えるとわかりやすいと思います。

フリーラジカルによって、「糖化によるAGE」と「酸化による活性酸素」が、互いにちょっかいを出して増やし合ってしまうのですが、フリーラジカルも一概に悪いものとは言えません。実は、精子と卵子が受精するためにはフリーラジカルが必要なように、要するにこれもバランスの問題です。

糖尿病や白内障などさまざまな病気は、糖化タンパクが作り出すフリーラジカルや活性酸素が悪さをするからだといわれていますし、紫外線を受けてシミやシワになる「光老化」を起こすのもフリーラジカル、活性酸素です。だから、「酸化」と「糖化」は切っても切れない関係で、複雑に絡み合っていると考えられます。

では、なぜ活性酸素やフリーラジカルが必要以上に増えてしまうのか。それは「抗酸化力」が低下するからです。

「抗酸化力」は20代から年々衰えていく

「抗酸化力」とは、もともと人間の身体に備わっている活性酸素のパワーを抑える仕組みのことで、20歳くらいをピークに年々衰えていきます。抗酸化力が落ちると体内の活性酸素が増えすぎてしまい、「酸化ストレス」が蓄積されていくことになるのです。

誰しも年をとると抗酸化力が落ちますが、栄養の偏った食事や過食、運動不足、睡眠不足など不摂生な生活を送ること、そしてアルコールの飲み過ぎや喫煙、精神的ストレスでさらに抗酸化力の低下に拍車がかかります。

一般的に抗酸化力は男性より女性のほうが高いといわれています。それは、女性ホルモンに抗酸化作用があることに加え、男性のほうが不摂生をしていることが多いからです。

遺伝子を介して起こる老化はいかんともしがたい問題ですが、「酸化」と「糖化」による老化は生活習慣や食生活を見直すことで予防できます

次回は、「酸化を防ぐ食事」についてお話ししましょう。

大澤俊彦(おおさわ としひこ)先生
1946年兵庫県生まれ。名古屋大学名誉教授で愛知学院大学心身科学部特任教授・人間総合科学大学教授。農学博士。1974年東京大学大学院農学系研究科博士課程修了後、1977年までオーストラリア国立大学理学部化学科リサーチフェロー。1978年名古屋大学農学部助手、1988年同大学農学部助教授、1995年同大学農学部教授を経て名誉教授に。2010年より愛知学院大学心身科学部教授、学部長を経て現在特任教授。2019年4月より人間総合科学大学教授も兼任。その間、1990年より1年間、カリフォルニア大学デービス校環境毒性学部客員教授。機能性食品研究、とくに抗酸化食品研究の第一人者。食品と生命機能の関わりをテーマとして、食事が要因となる生活習慣病誘発メカニズムの解明・予防に関する研究を行う。食品の抗酸化成分の生体内での作用解明のほか、生体内での酸化障害に関する未病バイオマーカーの研究開発など、その研究対象は多岐にわたる。

酸化に影響を及ぼす「糖化」にも要注意!

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