「世界でもっとも蔓延している病気」として、2001年にギネスブックに登録された歯周病。その新たな要因として、口内の細菌の集団「口内フローラ」の乱れが注目されています。

全身の健康と口内フローラの関係や、新たな歯周病対策として期待される「バクテリアセラピー」について、歯周病の専門医・指導医である若林健史先生(日本大学客員教授、若林歯科医院/オーラルケアクリニック青山 院長)のレクチャーからご紹介します。

「フローラ」があるのは腸内だけじゃない

フローラと聞くと「腸内」をイメージするかもしれませんが、無数の細菌が棲むのはおなかの中だけではありません。じつは口の中にも300~700種類もの細菌がいると若林先生。細菌は常在菌(善玉菌)、日和見菌、悪玉菌に分かれており、人それぞれ固有のバランスを形成しています。

「悪玉菌のうち、2大ヒールがむし歯菌と歯周病菌です。むし歯菌は歯垢と糖から酸を作り、歯を溶かして穴をあけます。いっぽう、歯を支える骨を溶かすのが歯周病。口臭や歯肉の腫れ、歯磨き時の出血も歯周病の症状のひとつです」(若林先生)

むし歯と歯周病は、残念ながら“うつる病気”。むし歯は親子間、歯周病は夫婦間の感染が多いといいます。口内環境の悪化は自分ひとりの問題ではなく、家族やパートナーにも影響を及ぼすのです。

メタボより怖い? ペリオドンタルシンドローム

口内でむし歯や歯周病などの悪玉菌が増殖すると、日和見菌も悪玉化し、口内フローラは悪化の一途をたどります。しかも歯周病の恐ろしさは、歯が溶けて抜け落ちてしまうことだけではありません。

歯周病は血液を通じて全身に重大な疾病をもたらします。この恐ろしさを多くの方に知っていただきたくて、ペリオドンタルシンドローム(歯周病と同時に、歯周病に関連されるとされる全身疾患がある状態)という言葉を提唱しています」(若林先生)

歯周病が全身の疾患の引き金に

若林先生によると、歯周病が引き金となる疾病は次の6つ。

アルツハイマー:最新の研究で、アルツハイマー患者の脳内で歯周病菌が発見された。歯周病で発生し、口臭の原因のひとつとなる「酪酸」も、脳細胞を破壊している可能性がある。 脳梗塞・心筋梗塞:歯周病菌が血管に付着し、動脈硬化→脳梗塞・心筋梗塞を発症。 誤嚥性肺炎:歯周病菌が、直接的に肺炎を発症させることがわかっている。 糖尿病:歯周病菌と最も密接。インスリンのはたらきを阻害し、2型糖尿病を発症させる。歯周病を治療すると糖尿病が改善することも確認されている。 早産・低体重出産:歯周病菌により発生するサイトカインが子宮を収縮させてしまい、早産・低体重出産のリスクが7.5倍に関節リウマチ:歯周病菌の毒素により、関節に炎症が起こる。

現代人を悩ませる病気の多くに、歯周病菌が関わっていたとは驚きです。

2011年の東日本大震災後、気仙沼市では肺炎による死者が多数発生しましたが、口腔内ケアを徹底した特別養護老人ホームでは肺炎発症者がゼロだったそう。口腔ケアの重要性がよくわかる事例です。

善玉菌によるバクテリアセラピーで歯周病対策

ペリオドンタルシンドロームを防ぐには、口内フローラを良好に保たなければなりません。歯磨きなどの口腔ケアのほかにも、ストレスを避けること(活性酸素により唾液の質が低下する)、糖質を過剰摂取しないこと口内の乾燥を防ぐことなども大切。そのうえで新たな一手として若林先生が注目するのが「バクテリアセラピー」です。

バクテリアセラピーとは、プロバイオティクスに代表される“体に有益な善玉菌”を摂取することで、体内の菌のバランスを整え、健康を維持する方法。予防医療大国スウェーデンで研究・実践され、世界で取り入れられています。

善玉菌のなかでも、ノーベル生理学・医学賞の選定機関であるスウェーデンのカロリンスカ研究所・医科大学が研究を主導しているのがロイテリ菌です。

ロイテリ菌には歯周病菌の増殖を抑制するはたらきが認められています。もともとヒト由来の善玉菌なので体に定着しやすく、安心して摂取できるのがメリット。日本でもサプリや「ロイテリヨーグルト(オハヨー乳業)」などで、手軽に補給できるようになってきました。

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若林先生いわく、バクテリアテラピーの3大特徴は「効果持続性、耐性フリー、安全性」。毎日の歯磨きと歯科での定期健診、そしてバクテリアテラピーが、今後の口腔ケアのスタンダードになるかもしれません。

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若林 健史(わかばやし・けんじ)先生
歯科医師。医療法人社団真健会(若林歯科医院、オーラルケアクリニック青山)理事長。1982年、日本大学松戸歯学部卒業。日本大学客員教授、日本歯周病学会理事を務める。歯周病専門医・指導医として、歯科医師向けや一般市民向けの講演多数。

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