たくさんのストレスにさらされている現代は、誰もがうつ症状と隣り合わせなのかもしれません。病院に行けばいいとはいえ、やはり投薬治療の副作用が心配なところ。

西洋医学の治療にあまり効果が出なかったり、医師との対話があまりに少なすぎたりする場合は、東洋医学の治療を視野に入れていきたいものです。

漢方を求める患者が増えている

『うつ消し漢方』の著者である森下克也先生は、医学博士であり、もりしたクリニック院長を務めています。久留米大学医学部卒業後は多くの大学病院等に勤務し、漢方と心療内科の研鑽を積んできました。現在も、心療内科医として、うつや睡眠障害などを抱える患者へのきめ細やかな治療を重ねています。

私は、三十年近く、うつ病の治療にかかわっています。漢方薬を治療の主流としていますが、もちろん西洋薬も必要に応じて使い分けます。しかし、私のもとを訪れる患者さんは、圧倒的に漢方薬を望まれます。

『うつ消し漢方』3ページより引用

そもそも患者側からしたら、うつ病を医師に相談すること自体ハードルが高いもの。著者を訪れる患者のほとんどは、複数のクリニックを転々とした挙句、門を叩くのだそう。

東洋医学では、うつ病を脳だけの問題ととらえるのではなく、心と体のバランスの崩れとし、詳細な問診と舌や脈、お腹の診察とともに、話す、聴く、触れるということを丹念に行います。また、漢方薬は種類が豊富なので、経過や症状に応じた使い分けができ、副作用や依存の心配をあまりしなくてすむのです。

もちろん、漢方は万能というわけではありませんが、心と体の両面からアプローチして自然治癒力を高めることができるという特性があり、うつ病の治療に適しているといえるでしょう。

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症状とは違う「証(しょう)」って何?

漢方薬の最大の特徴は、症状あるいは病名と方剤(複数の生薬を組み合わせた漢方薬)とが一対一の対応をなしていないということです。

『うつ消し漢方』54ページより引用

西洋医学の場合は、高血圧には降圧剤、発熱には解熱剤などと、病名が決まれば薬が自動的に決まります。しかし、漢方は「証(しょう)」という概念に基づいて薬が決められているのだといいます。

頭痛や肩こりといった自覚症状だけではなく、体格、体質、性格、顔色などに現れている病的な変化も視野に入れる。さらに、疲れやすい、怒りっぽくなったなどの所見を総合的に見ながら証を組み立てて、正しい漢方薬へ導くのが漢方医の見立てになります。

そのため、自己判断で病名や症状だけで漢方薬を飲んでいると、証が違っている場合は見当違いであるだけではなく害になることもあり得るでしょう。

東洋医学も西洋医学同様に、診察の第一歩は「問診」です。ふまえて舌診、脈診などで舌の状態や脈の症状を見ながら正確な証を打ち立てていきます。

特に、腹診は日本の漢方において重要視されています。たとえば、左の下腹部に圧痛や抵抗が触れる便秘がちの人は桃核承気湯(とうかくじょうきとう)が、みぞおちに圧痛や抵抗がある人は人参や枳実を含んだ処方がよいのだとか。

これだけでも、漢方がいかにひとりひとりの状態に合わせた医療であるかがわかりますね。

頑張りすぎは「発火」している

仕事が忙しすぎたり、人間関係に疲れたりすると、大きなストレスを感じることがあります。こんなときにおこるイヤな感情に反応するのが「肝」であると、著者はいいます。そして、ストレス状態が長引くと肝の機能が破綻してしまい、この状態を「肝気鬱結(かんきうっけつ)」と呼びます。

肝気鬱結では気の流れが滞っているので、治療はこれを通さなくてはなりません。このことを「疏肝解鬱(そかんげうつ)」といいます。「疏(そ)」の字には「滞っているものを通す」という意味があります。

『うつ消し漢方』77〜78ページより引用

ストレスにさらされて抑うつ状態にあった人が、肝気鬱結の効能を持つ生薬が入った芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)エキスと四逆散(しぎゃくさん)エキスを服用。すると、頑固だった抑うつやお腹の症状、肩こりや頭痛が3か月ほどで改善していったのだとか。

また、頑張りすぎてイライラと感情の起伏が激しくなっている情緒の不安定は、うつ病の初期であると著者はいいます。この状態を東洋医学では「発火」といい、心や肝が燃えている「心肝火旺(しんかんかおう)」と呼びます。

その患者の体格や体の状態を鑑みて、燃えている状態を冷ますということから、柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)を処方したところ、4か月ほどの服用で情緒不安が改善されたといいます。

とはいえ、東洋医学も決して万能ではありません。現代人は実にさまざまなストレスにさらされています。東洋医学と西洋医学の良いところを上手に利用しながら、健康なメンタルをキープしていきたいものです。

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