米国ではマダニによって媒介される病気がよく起こりますが、最近では、さほど厄介ではないことがわかってきました。ライム病、ロッキー山紅斑熱、アナプラズマ病、バベシア病など。
しかし、そうした中に赤身肉アレルギーと呼ばれる病気があり、米国で増えているそう。
赤身肉アレルギーとは?
赤身肉アレルギーというのは、マダニに刺された後、赤身の肉を食べるとアレルギーを引き起こすことがあるのです。
「まるで遠い国の物語のようですが、私たちはマダニに刺されることで、この『アルファガル症候群』というアレルギーになりうると考えています」と、ノースカロライナ大学チャペルヒル校医学部で、リウマチ学、アレルギー学、免疫学部門の准教授、博士のスコット・P・コミンズ医師。
米国疾病対策センター(CDC)によると、アルファガルは赤身の肉に含まれる糖の一種で、主にアメリカ南部および東部で見られる攻撃的なマダニである「ローン・スター・ティック」(中西部ですと北はアイオワ、イリノイ州まで、メーン州の一部から南はメキシコ湾岸諸州に至るまで生息しています)に刺された後にアレルギー反応を起こすことがあります。
コミンズ医師によると、人々がマダニによく刺されている地理的領域は、アルファガルアレルギーのホットスポットなのだそうです。
「コホート調査を行っている中で、患者にアウトドア歴について尋ねると、90%以上が、過去2〜3年間でマダニに刺されているのです。他の虫、例えば、アリ、マダニの幼虫、ノミなどに刺されたと報告する患者もおり、これらもアルファガルアレルギーの潜在的原因とされます。
アルファガルアレルギーになる仕組み
image via shutterstock「これには2つの仕組みが考えられます。マダニの唾液自体がアレルギー反応の十分な引き金になっている可能性と、もしくはマダニがイヌやシカのような他の動物を刺した後に人を刺して起きる可能性があります」とコミンズ医師。
これらの動物はアルファガルの大元であり、マダニがこうした動物の後に人を刺すと(そしてその唾液に糖の痕跡が残っている場合に)、赤身肉を食べた後に免疫反応が働く準備をさせるようです。糖分が一度血液を通過すると、それに反応してヒスタミンが分泌され、アレルギー反応が増進します。
このアレルギー反応は発症するのに数週間かかります。「赤身の肉をめったに食べない人ならマダニに刺されてから、ステーキを食べて体調が変化する間に数週間かかるでしょう」(コミンズ医師)。
おいしいハンバーガーにありつけないなんて冗談に聞こえそうですが、このアレルギーは冗談じゃ済まないかも。「最初の反応は、アナフィラキーショックになる可能性があります」とコミンズ医師は解説します。呼吸困難や低血圧など生死に関わる症状が起き得るのです。「我々は最初の反応で救急治療室に搬送される患者を見てきました」(コミンズ医師)。
信じられないかもしれませんが、よくある話なのです。『Annals of Allergy, Asthma & Immunology』誌に掲載された2018年のある研究でわかったのですが、アナフィラキシーの85ケースのうちアルファガルが原因だったのは28件でした。この研究の中では、アナフィラキシー反応の最大の理由はアルファガルでした。
気をつけるべきアルファガルアレルギーの症状
image via shutterstock普通の“肉好き”の場合は、わずかな肉(ベーコン片など)を食べると、軽度のかゆみ、手のひらの赤み、またはじんましんが発生する可能性があります。実際、コミンズ医師によるとこのような患者は、アレルギー診断がより単純になるのでラッキーな患者だそうです。
他の患者は、腹部のけいれんのように消化管の痛みを訴えるでしょう。これは厄介で、胃の問題がマダニ刺されに関係があると思わない人がほとんどで、症状は食物不耐症、あるいは食中毒にさえ誤解される可能性も。もしアルファガルアレルギーなら、こちらのような他の重度の食物アレルギーに似た症状を経験するはず。
のど、唇、舌の腫れ けん怠感 吐き気と嘔吐 頭痛 皮膚の発疹注意すべきことが、もうひとつ。アルファガル症候群の人は夕食時に赤身の肉を食べ、数時間後にじんましんが発症することがあります。
実際、コミンズ医師が共同執筆した新たな研究では、赤身の肉を食べてから2時間以上経って症状が現れたのは、研究参加者の81%。特に消化に時間がかかる脂肪分の多い肉では反応の遅れとアレルギーの強さが見られます。また、研究者たちは、アルファガルがこれらの動物の脂肪(筋肉とは対照的に)に蓄積される可能性があると考えています。
アルファガルアレルギーを検査する方法
image via shutterstock赤身の肉を食べた後、真夜中に胃が痛い、マダニに刺されたことがある(またマダニが生息する地域に住んだ、あるいは旅行した)など、通常とは違った症状を経験し、アルファガルが疑われるなら医師に相談を。
医師はマダニに刺された経験、関連する徴候や症状、そして赤身肉を食べた後、問題が現れるのにどれくらい時間がかかるかについて尋ねるはず。アルファガルアレルギーが疑われる場合は、医師は血液中のアルファガル抗体の量を測定するために血液検査を行います。メイヨー診療所によると、皮膚テストでは、医師かアレルギー専門家はあなたの皮膚のわずかな一部に赤身肉を接触させて、じんましんができるかどうかを調べます。
治療法は? アルファガルアレルギーは消える?
image via shutterstock食物アレルギーを「治療」する唯一の方法は、避けること。診断された場合は、あらゆる種類の哺乳類の肉を避ける必要が。「単にハンバーガーとステーキを避けることを考えがちですが、牛、豚、子羊、羊、シカ、ヤギの肉を食べることができません」とコミンズ医師。バターやチーズのような乳製品は、問題ではありません。
自宅で赤身肉を避けるのは簡単ですが、レストランに行く際は二次汚染(調理中の食品が、まな板や調理器具類、あるいは調理する人の手を経由することで細菌やウイルスに汚染されること)の可能性があり、医師はエピネフリン自動注射器を携帯することをすすめることになります。「ピーナッツアレルギーのある子どもと同じようにそうするのです」と、コミンズ医師は解説します。
幸いなことに、アルファガルアレルギーでも生涯ハンバーガー抜きを宣告されるわけではありません。最終的には、アルファガルアレルギーを克服している人は多いようです。『JAMA』誌で発表された2018年のある研究では、18か月から3年の肉抜きの食事療法で克服すると報告されています。
その後はマダニに刺されないようにベストを尽くします。除虫剤、イカリジン、レモンオイル、ユーカリなどが役に立つでしょう。
思わぬアレルギー症状に注意
春先だけじゃない花粉症。自分が持つアレルゲンの見つけ方とは?
Jessica Migala/What Is Alpha-Gal Allergy? How a Tick Bite Can Make You Allergic to Red Meat/STELLA MEDIX Ltd.(翻訳)