徒歩移動や階段の上り下り、そして掃除や洗濯など、日常生活の何気ない動作で使われるエネルギー消費、「NEAT(ニート)」。いま、運動生理学の分野で注目されているNEATは、実際どれくらいの運動量があり、どれだけカロリーを消費するのでしょう。
第5回 まとめ
歩くと3倍、階段を駆け上がると8倍ものエネルギーを消費する! ちょこまか運動が習慣になったら、ボディラインは変わる! ふくらはぎを刺激する「かかと上げ下げ」を習慣に歩くと3倍、階段を駆け上がると8倍ものエネルギーを消費する!
――よく運動量が多いといわれる「階段上り」は、どれくらいの運動量があるのでしょうか。
森谷塾長 :
運動量は「重さ×移動距離(kg・m)」で表します。
たとえば、体重50kgの人がエスカレーターに乗ると、自分では何もしていないので、運動量は0kg・m。その人が、階段を3階(10m)まで上ったとすると、50kg×10m=500kg・mの運動量になります。
買い物に車で行くか、歩いて行くか。ロボット掃除機を使うのか、自分で掃除機をかけるのか。ひとつひとつの動作の運動量は小さくても、積もり積もれば大きな差となります。
――森谷塾長は、どんなことを実践されていますか?
森谷塾長 :
通勤時の階段だけでは物足りなくて、大学では昼食の前に、校舎の3階まで上がってそのフロアを横に移動し、階段で1階まで下りてくる、という動きを3セット繰り返してから昼ご飯を食べるようにしています。
10分ほどのエクササイズですが、体温は上がるし、効果も実感できる。運動後すぐに食事をするので、筋肉の合成の面からみても合理的でしょ。
ちょこまか運動が習慣になったら、ボディラインは変わる!
――さすが、キンニク先生(笑)。ちょこまか身体を動かすことが、具体的にどのくらいのエネルギーを消費するのか、教えてください。
森谷塾長 :
身体活動の強さを示す単位、「メッツ」を使って説明しましょう。
じっとイスに座っているときを1メッツとすると、普通の速さで歩くと3メッツ、早く歩くと4.3メッツ。
〈エネルギー消費量(kcal)〉=〈メッツ×体重(kg)×時間(h)×1.05〉で計算できます。
たとえば、体重50kgの人が普通の速さで1時間歩いたとすると、
〈3×50×1×1.05=157.5kcal〉。
約150kcalのエネルギーを消費できるということです。
よくある生活活動のメッツは、次のとおり。
――体重50kgの人が毎日1時間、16km/hの速さで自転車に乗ったとすると、〈4.0×50×1×1.05=210kcal〉。それを1年続けると〈210kcal×365日=76,650kcal〉ですね。
森谷塾長 :
脂肪1kgを減らすために必要なエネルギーは約7,200kcalだから、
〈76,650kcal ÷7,200kcal =10.6〉
1年間続ければ、約10.6kgの脂肪を減らせる、ということです。
――1年で10kgの脂肪がなくなるなんて、すごいです。
森谷塾長 :
意識的に動くか、動かずじっとしているかで、こんなに差が生まれるんです。
最初は「階段を上るの、しんどいな」とか、「1時間歩いても、たった200kcalか」と思うかもしれませんが、ちょこまか動くことが、いつの間にか習慣となり、習慣となった頃にはボディラインはきっと変わっています。
私の望みは、ひとりでも多くの人が、階段を見るたび「ラッキー、筋トレできる!」と思うようになること。元気な間は若々しく活動して、ある日ポックリ。これが理想です。
【今日の宿題】ふくらはぎを刺激する「かかと上げ下げ」
イラスト/高村あゆみじっと立っている状態で、かかとを上げ下げするだけ。ふくらはぎの筋肉が刺激されるので、脚のむくみ解消にもつながりますし、足首のくびれづくりにも効果的。電車やバスを待っている時間や電車のなか、オフィスでの気分転換など、誰にも気づかれずこっそり筋トレしちゃいましょう!
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第3回:「朝食を摂らないと、体脂肪が増えて確実に太ります」筋肉先生が喝!
第4回:「糖質制限なんてする必要ありません」食事制限ダイエットの落とし穴
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『おさぼり筋トレ』森谷敏夫著(毎日新聞出版)
京大で受けたい授業・ナンバーワンに選ばれた講義が待望の書籍化! 最新の科学的知見に基づいた、効率的でラクに続けられる「おサボり筋トレ」。運動が苦手な人でも続けられる究極のシンプルメソッドです。
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森谷敏夫(もりたに・としお)教授
1950年、兵庫県生まれ。1980年、南カリフォルニア大学大学院博士課程修了(スポーツ医学、Ph.D.)。テキサス大学、テキサス農工大学大学院助教授、京都大学教養部助教授、カロリンスカ医学研究所国際研究員(スウェーデン政府給費留学)、米国モンタナ大学生命科学部客員教授等を経て1992年、京都大学大学院人間・環境学研究科助教授、2000年から同科教授。2016年から京都大学名誉教授。専門は応用生理学とスポーツ医学で、生活習慣病の温床になる肥満のメカニズムに関する研究や運動ができない人々のための骨格筋電気刺激研究などを精力的に進めている。
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