臨床心理士としてアメリカでキャリアを積み、EAP(働く人のメンタルヘルスケア)のパイオニアとしても知られる市川佳居さんに、いま行うべきメンタルケアについて聞きました。
全員がストレスで倒れてもおかしくない
臨床心理士・ 公認心理師であり、予防医学と疫学の専門家でもある市川さん。現在は健康・メンタルヘルスのカウンセリングだけでなく、新型コロナウイルスの感染経路の調査も行っており、すべての人が大変な状況にさらされていることを実感していると話します。
市川さん :
人と一定の距離を保たねばならず、離れて暮らす家族や友人にも会えない。これまでも働く人の6割は、人間関係や仕事上の大きなストレスを抱えているといわれてきたのに、プラスアルファでコロナにも対処しなければならならないわけですから。
私からすると、全員がストレスで倒れてもおかしくない状況です。
ステイホームで頑張りすぎる人が増えている
いま市川さんが危惧するのは、自分の限界を超えて頑張ってしまうこと。在宅時間とともに家事が増え、ストレスにつながるケースも増えているといいます。
市川さん :
みなさん本当に頑張っているなかで、心配なのは、もうこれ以上無理ということに気づけないうちに、ふっと倒れてしまうケース。それがだんだんと出てきています。
大切なのは、心身に異常をきたす前に、自分のちょっとした変化に気づくこと。そのためには「体のサイン」に敏感になる必要があると市川さんは語ります。
メンタル崩壊のサインは“おなじみの症状”
100年に1度ともいわれる現在のコロナ禍。かつてない状況のなかで、自分のメンタルや体調にも、思いがけない症状があらわれる……。コロナとストレスについて、そんなイメージを持つ方もいるかもしれません。
しかし市川さんによると、それは誤解。変化は、むしろ「自分がもともと持っている弱いところ、弱点が出やすくなる」という形で表れます。つまり症状自体はおなじみのものなのです。
ストレスのサイン
眠れなくなる 胃が痛くなる 腰痛、肩こり、首こりが悪化する アトピーが出る 食べすぎる 食欲がなくなる 酒量が増える 間食が増える クセの頻度が増える(爪を噛む、貧乏揺すりなど)市川さん :
ストレスのサインは人によって異なりますが、出る症状はその人によってだいたい決まっています。心理的な変化としては、不安と鬱的な傾向の2つが大きいです。しかし、これは体と違って目に見えず、兆候としてわかりにくいのが問題です。
ネット上にもストレスチェックなどが出ていますが、「チェックリストをやってみようかな」と思ったころにはもう遅い、というのが私の意見。その前に、自分の体と行動の変化を振り返ってみてください。
「あれっ?」と思ったら「頑張りすぎ」をやめて、仕事や家事の量を調整してほしいと市川さん。それだけで心身の健康の維持につながるといいます。
「コロナに感染するかも……」不安への対処法
感染の広がりにともなって、SNSではコロナと負の感情を示す言葉が急増しているといわれます。感染を防ごうと新しい情報を検索したり、ニュース番組を見続けたりして、大きなストレスを感じることもしばしばです。
市川さん :
コロナに関しては、信頼に足る情報が新しく更新されるのは2~3日に1回くらいのペースです。ニュースを見るのは1日1時間、むしろ1日の終わりに15分程度でも充分かもしれません。
「コロナに感染するかもしれない」という不安に対しては、「自分が今できることをやる」ということにフォーカスしてみてください。
市川さん :
こうした基本的な感染予防策をしっかりすれば、科学的見地に基づいて、感染の危険は低いだろうという予測がたてられます。
頑張りすぎずに体のサインに気づくこと、自分が今できることにフォーカスすることで、早めのストレス対策が可能になると市川さん。次回は在宅勤務によるストレスの対処法や、パートナーとの関係のなかで注意すべきことについて、さらに詳しくうかがっていきます。
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市川佳居(いちかわ・かおる)さん
臨床心理士・公認心理師。医学博士。一般社団法人 国際EAP協会 日本支部 理事長。大学卒業後、米国メリーランド州立大学大学院に留学、米国ソーシャルワークの資格を取得後帰国し、モトローラ社にてEAPの普及に努め、日本を含むアジア12か国に立ち上げる。2017年レジリエ研究所開設。国内初のCEAP(国際EAP協会認定EAPコンサルタント)として、日本およびアジア地域おけるEAP、働く人のメンタルヘルスのパイオニア。
取材・文/田邉愛理、企画・構成/寺田佳織(マイロハス編集部)、image via shutterstock