「おばさん」をキーワードに、揺らぐ年齢観や女性の価値観の変化を、歴史社会学者の田中ひかるさんがつづる連載第2回目は、今でも人気の“オバサンパーマ”について。

なぜわざわざ“オバサンパーマ”なのか

前回書いたように、かつて女性たちは結婚して家庭に入り、子どもを産めば一丁上がりとばかりに、“オバサンパーマ”の「おばさん」になりました。

なぜわざわざ“オバサンパーマ”をかけて「おばさん」らしくしていたのかと謎に思うかもしれませんが、当時はとりあえずパーマをかけることが大人の女性の身だしなみだったのです。そして、現在のようにパーマのバリエーションが多くはありませんでした。

ちなみに“オバサンパーマ”の正式名称は「オールパーパス」。つまり「多目的」「万能」。髪全体をロッドで平巻きにすると「オールパーパス」ができあがります。応用が利くため、美容学校ではカットマネキン(練習用の頭部のみのマネキン)を使って繰り返し練習させられるそうです。

名前のとおり「万能」

現在でも、わざわざ“オバサンパーマ”をかける人がいるのか気になり、「オバサンパーマ」でネット検索したところ、意外にも根強い人気を保っていることがわかりました。

個人差もありますが、髪は年齢とともに少なくなります。細くなり、コシもなくなるため、パーマがかかりづらい。その点、“オバサンパーマ”はキツいパーマであるため、どんな髪にもかかり、手入れが簡単なわりに長持ちするのです。そしてもちろんボリュームも出ます。名前のとおり「万能」で、高齢女性に優しい髪型と言えます。

そういえば、“オバサンパーマ”を紫やブルーに染めた上品な高齢女性をときどき見かけますよね。かつての“おばさんパーマ”は、上品な「おばあさんパーマ」に進化したようです。

薄毛のダブルスタンダード

最近では、毛量を解決する手段として、パーマではなくウィッグを選ぶ女性も増えています。

「かつら」というと男性用を思い浮かべる人が多いと思いますが、日本では女性用が先に商品化されました。薄毛人口は男性のほうが多いのですが、切実にウィッグを求めたのは、女性たちだったのです。そして現在も、かつら(ウィッグ)のトップメーカーであるアデランス、アートネイチャーともに、女性用ウィッグの売上げのほうが大きいのです。

「ハゲは成人男性の問題」と見なされている社会にあって、女性の薄毛はよりデリケートな問題です。だからこそ、女性用ウィッグは静かに進化を遂げてきたのでしょう。性能が良くなれば良くなるほど、存在感が薄れる。それがウィッグなのです。

薄毛になっても、男性は自然に任せたり、思い切って丸刈りにしたりする人が少なくありませんが、女性はほとんどが何らかの対策を講じます。これは、女性の容貌に対する視線の方が、男性のそれよりも厳しいためでしょう。ルッキズム(容貌差別)にも、性のダブルスタンダード(二重基準)があるのです。

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田中ひかる(たなか・ひかる)さん
歴史社会学者。1970年、東京都生まれ。女性に関するテーマを中心に、執筆・講演活動を行っている。近著『明治を生きた男装の女医―高橋瑞物語』(中央公論新社)ほか、『「オバサン」はなぜ嫌われるか』(集英社新書)、『生理用品の社会史』(角川ソフィア文庫)など著書多数。公式サイト

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