つらい生理痛の治療には低用量ピル
日常生活に支障が出るほどのつらい生理痛は、「月経困難症」という病名がつく可能性があります。
つらい生理痛の背後に、病気が隠れている場合もありますから、つらいと感じる生理痛は、我慢せずに婦人科へ受診することをおすすめしたいです。
婦人科での治療は、鎮痛剤や漢方薬なども処方されますが、「低用量ピル」が治療の大事な選択肢になります。
低用量ピルというと避妊薬というイメージがありますが、なぜ低用量ピルで生理痛がやわらぐのでしょうか。
避妊の状態にすると生理痛がやわらぐ理由
低用量ピルは「経口避妊薬」とも呼ばれていて、正しく使用すれば、避妊効果はコンドームよりもはるかに高いことがわかっています。
では、低用量ピルで生理痛の痛みが軽減することと、避妊のメカニズムと、どう関係しているのでしょうか。
実は、避妊のメカニズムそのものが、生理痛を抑えるメカニズムでもあるのです。
妊娠しない状態を作りだす仕組みは?
まず、低用量ピルが「妊娠しない避妊状態」をつくり出す仕組みから説明していきます。
低用量ピルは、卵巣から分泌される女性ホルモンである、エストロゲン(卵胞ホルモン/妊娠するための体をつくるホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン/妊娠を継続させるホルモン)と同じ働きをもつ成分を合成した薬です。
低用量ピルを服用すると、この2つのホルモンが排卵後、妊娠中と同じ状態をつくり出します。
低用量ピルを服用していない通常の場合は、毎月、脳の下垂体から、卵巣に向けて卵を育て、排卵させるための司令が出ています。
しかし、低用量ピルを服用すると、脳が「もう排卵は必要ない」と判断して、卵巣への司令をストップします。妊娠中に、排卵が止まるのと同じ仕組みです。
結果として卵巣では、排卵が起こらないので、当然、妊娠しないという状態がつくり出されるのです。
また、低用量ピルは、子宮内膜を変化させる働きもあります。万が一、排卵して受精したとしても、受精卵を子宮に着床させにくくします。
さらに、低用量ピルには、子宮頸管粘液を変化させるので、セックスしても精子を子宮に入りにくくする作用もあるのです。
生理痛が起こる仕組みと低用量ピルの関係
もうひとつ、生理痛の起こる仕組みと低用量ピルの関係を見てみましょう。
女性の体は、排卵後、妊娠が成立しないと、受精卵を着床させるために厚くなっていた子宮内膜が不要になります。
不要になった子宮内膜は、血液と一緒に子宮外に押し出されます。
そのために、子宮を収縮させる必要がありますが、そこにプロスタグランジンというホルモンに似た物質が分泌されます。
プロスタグランジンは、痛みの原因となる物質でもあるため、子宮が収縮するとともに、生理痛が起こるのです。
低用量ピルを服用すると、排卵が起こりません。そのため、子宮内膜が厚くなることを抑制します。
その結果、痛みの原因となるプロスタグラジンの産生が減少し、生理痛が弱まるのです。
このように、妊娠しにくい避妊状態をつくることは、月経困難症のつらい痛みを緩和することと、表裏一体なのです。
低用量ピルには2種類ある
低用量ピルには、避妊目的で使用される経口避妊薬(OC)と治療目的で使用される保険適用のある低用量エストロゲン・プロゲスチン製剤(LEP剤)の2種類があります。
今、日本で処方されている低用量ピルには、経口避妊薬であるOC(Oral contraceptive)がありますが、それだけではなく、「月経困難症(日常生活に支障が出るほどつらい生理痛)」の治療薬として、厚生労働省に認められているものがあります。それがLEP( Low dose estrogen progestin)剤です。
実は、OCもLEP剤も、どちらもエストロゲンとプロゲステロンが配合されている薬で、ほとんど成分は同じです。どちらも“排卵を抑える”働きが基本です。
OCは、避妊目的の場合に処方される薬とされています。避妊は、治療目的ではないため、保険適用外で、自費となります。自費のため、医療機関によって若干の金額の違いがあります。
LEP剤は、月経困難症や子宮内膜症などと診断されたときに、その治療を目的として処方される薬として承認されています。LEP剤は、治療目的のため、健康保険が適用されます。
OCとLEP剤のいちばんの違いは何かと言えば、OCは保険適用外の薬ですが、LEP剤は月経困難症の治療薬や、子宮内膜症にともなう痛みの改善のために保険適用されている点です。
OCとLEP剤、どちらを選ぶべきか
ただし、保険適用のLEP剤であっても、自費のOCであっても、窓口で支払う金額は大きくは変わらないのが現状です。どちらも月3000円程度が目安です。
いずれも“排卵を抑える”働きがあり、期待される生理痛の改善、避妊効果などはほぼ同じです。
ですから、女性によっては、つらい生理痛、月経困難症の緩和目的でOCを使いたいと希望する人もいます。
医療者と相談の上、生理痛の改善目的でOCを使うことは個人の選択で構いませんが、もしも目的とは異なる使い方で薬剤を服薬していた場合、万が一、副作用が起こったときに、医薬品副作用被害救済制度が使えないということがあります。
そのあたりを医療者からよく説明を聞き、相談して、自分の目的や使いやすさに合った薬を選ぶことが大切です。
初めての人は、まず婦人科を受診して相談を
現在、日本で認可されている低用量ピルのLEP剤とOCはあわせて、11種類あります。すべて「処方箋医薬品」(医師の処方箋が必要で、薬剤師による調剤によって処方される医薬品)なので、医療機関を受診して、処方されて初めて手にすることができます。
日本で承認されていない海外の輸入品を服用するのは、危険です。婦人科を受診して、医療者に相談のうえ、処方された低用量ピルを服用してください。最近では、オンライン診療で処方する婦人科もあります。
【OCとLEP剤とは?】
OC(Oral contraceptive)
・経口避妊薬
・避妊を目的とした女性ホルモン剤
・保険適用外
LEP( Low dose estrogen progestin)剤
・月経困難症や子宮内膜症に伴う痛みの治療を目的に用いる薬剤
・保険適用あり
女性の悩みに正しいケアを
増田美加・女性医療ジャーナリスト
予防医療の視点から女性のヘルスケア、エイジングケアの執筆、講演を行う。乳がんサバイバーでもあり、さまざまながん啓発活動を展開。 新刊『もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択』(オークラ出版)ほか、『医者に手抜きされて死なないための 患者力』(講談社)、『女性ホルモンパワー』(だいわ文庫)など著書多数。 NPO法人みんなの漢方理事長。NPO法人乳がん画像診断ネットワーク副理事長。NPO法人女性医療ネットワーク理事。NPO法人日本医学ジャーナリスト協会会員。公式ホームページ