社会人になってから、ペンを持つのはメモや手帳への書き込み程度。文章と呼べるほどのものはほとんどパソコンやケータイを用いることが日常的になりました。このパソコン全盛の時代において、少し長い文章を書くのに「手書き」の選択肢はほとんどないに等しい状態。そしてそれはライターや作家といった文字を扱う職業ほど顕著な気がします。
ところが、「冷静と情熱のあいだ―Rosso」や「号泣する準備はできていた」など女性ファンの多い作家・江國香織さんは、特製の原稿用紙にすべて手書きで執筆しているのだそうです! 3月に発売された新刊「はだかんぼうたち」も例外ではありません。この小説の発売を記念して、20万字、原稿用紙515枚にものぼる原稿をすべて並べた動画が現在公開中です。
原稿用紙515枚は想像以上の厚み! 部屋一面に1枚ずつ並べられた光景は圧巻です。文字を「綴る」という言葉がぴったり当てはまります。
「作家の手書き原稿」という存在自体が珍しくなった昨今で、江國さんの手書き原稿はその感性豊かな作風のイメージ通り。柔らかく自由で、女性らしさが満ち溢れています。江國さんのインタビュー動画と合わせて見ると、やはり文字からはその人の雰囲気が伝わってくるものなのだと関心しました。
手紙やお礼状、ただパソコンの文章に一言を添えるだけでも、手書きの温かみや感謝の気持ちをもっと伝えることができるに違いありません。
[角川書店]
photo by Thinkstock/Getty Images
(松浦松子)