シンプルであたたかく、地に足のついたレシピが人気の料理研究家・飛田和緒さん。

野菜はお鍋につきっきりで、ちょうどいい固さで茹で上げないとおいしくない──そんな先入観を持っていませんか?

『野菜はやわらかく煮るほどおいしい くったり、しっとり、クタクタと。』(グラフィック社)は、“歯応え”とは別の観点から野菜の新しい味わい方を教えてくれる一冊。老若男女すべての人に優しい、心も体もあたたまる野菜料理が学べます。

「茹で過ぎたブロッコリー」のおいしさを発見

茹で過ぎた“失敗”によって、違うおいしさに気づくことができたというブロッコリー。じっくりと火を入れて、ナムル風に(本書24ページより)

「ただ野菜を茹でるだけ」の料理が、昔から苦手でした。彩りよく、歯応えも適度にあるベストタイミングで仕上げようと思うと、お鍋につきっきりでいなくてはいけない。段取りが悪いせいなのですが、ちょっと他のことをしているとすぐに茹で過ぎてしまいます。

そんな苦手意識を、意外な視点から吹き飛ばしてくれたのが本書。歯応えにこだわらず、「くったり、しっとり、クタクタ、むっちり、ねっとり」するまで、じっくりと火を入れて作る野菜料理ばかりが紹介されていたのです。

著者の飛田和緒さんは、ある日ブロッコリーを茹で過ぎてしまったことから、今まで味わったことのないおいしさに気づいたのだそう。噛むと口の中で蕾がほどけて、独特の香りが鼻に抜け、じんわりと甘みがやってくる……。そこから、今まで歯応えを楽しんできたほかの野菜も、さまざまな茹で方、煮方で楽しむようになったといいます。

私にとってブロッコリーといえば、「コリッと歯応えがないとおいしくない」と思い込んでいた野菜の代表選手。さっそく本書のレシピ「ブロッコリーのナムル風」を作ってみました。

思い切ってやわらかめに茹でたブロッコリーは、いつもの青々としたかためのブロッコリーとは別もの。たっぷりのごま油と白炒りごま、塩少々で和えると、ふわふわの蕾からごま油がじゅわっとあふれてきて、茎までねっとりと甘いのです。知らなかったブロッコリーの魅力を見つけた気分になりました。

煮上がりチェックは「舌でつぶしてみる」と確実

あともう少し、あともうひと煮。柔らかく、優しく味を含めた「秋野菜のラタトゥイユ」(本書18〜19ページより)

野菜を茹でるときは、竹串を刺すなどして煮え具合を確認する人が多いと思います。問題は、竹串がスッと刺さっても、食卓で食べると「もう少し煮たほうがおいしかったかな」というときがあること。こんな悩みにも飛田さんが処方箋をくれました。

竹串はあくまでも目安。最後は必ず口に入れて舌でつぶせるほどやわらかいか、噛み砕いたときに滑らかさはあるか、野菜の茹で具合、煮上がりを確かめます。

そろそろいいかなと思っても、あともう少し、あともうひと煮と、余裕をもって料理するようになりました。

そして「煮る」の最後の仕上げは一度冷ますこと。やわらかく煮上がった野菜はさらに味を含み、馴染みます。

(『野菜はやわらかく煮るほどおいしい くったり、しっとり、クタクタと。』はじめに より引用)

本書の「秋野菜のラタトゥイユ」では、ごぼうとれんこんを30分ほど煮て、そこにかぼちゃとホールトマト缶を加え、さらに20分煮て……と、野菜に合わせてじっくりと火を入れていきます。

ラタトゥイユというと夏のイメージがありましたが、ねっとり煮上がったれんこん、ほくほくのごぼうにかぼちゃの甘みとトマトの酸味が溶け込んだアツアツのひと品は、寒い日にぴったり。かなり多めに作ったので、2日目は茹でたマカロニの上にのせ、ピザ用チーズをかけてトースターで焼いてみたところ、家族にも大好評でした。

時間をかけてゆっくり火を入れた野菜には、それぞれの旨みが湧き出してくるような、なんとも言えない滋味があります。たっぷり作れば温め直すごとに野菜にスープが染み込んで、もっとおいしくなるのもうれしいところ。

冷える日は根菜であたたかなひと皿を、春を感じたら菜の花やグリンピースをのんびり煮込んで、心にも体にも優しいひと皿を作れたらと思います。

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写真/邑口京一郎

野菜はやわらかく煮るほどおいしい くったり、しっとり、クタクタと。

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