不謹慎ですが、お寺の本堂なるものは、夏の昼寝に最適の場だと思いませんか。
広くて、風通しが良い、静かで片付いている。ときには読経という眠りを誘う音楽も聞こえ、センコー・アロマも漂う。もっとも、夏でなくとも読経は睡眠薬ですけれど。
居眠りで失敗した人に御利益のあるお寺
で、お寺と言えば、なんと本当に観音様が眠ってしまったという話があるんです。それは、泉流寺(兵庫県宝塚市)というお寺にいらっしゃった観音様。
「和尚様も 仏様も 仲良くお昼寝」
ねむりのイロハカルタより 切り絵:ナカニシカオリ ©ナカニシカオリ スタジオ・ソムニナ
奈良時代、徳道上人というお坊様が、三十三観音霊場を定める寺選びのため諸国を行脚されていたときのこと。観音様は、上人様のお着きを首を長くして待っていたそうです。ところが、23番札所が決まり、いよいよ自分が次の24番にと思ったとたん、とても眠くなって寝入ってしまいました。
泉流寺にお着きになった上人は観音様を起こそうと、声をかけたり、体をゆすったりしましたが起きません。上人は「居眠りをしているということは選ばれたくないのだろう」と解釈して、次の中山寺の十一面観音を24番札所と決めてしまわれた、という話。
緊張が続くと、眠くなる!?
「そんな大事なときに眠ってしまうなんて、なんて間抜けな!」と思うでしょうが、あながちないことではないのです。緊張すると、普通は眠れないものですが、その緊張があまりに長く続くと、急に眠くなると言う事例は多々あるんです。
生物の体には恒常性といって、常にバランスを保つシステムが組み込まれています。緊張して交感神経が強まりすぎると、今度は副交感神経を強めてバランスをとろうとします。副交感神経が強まると眠気が起きてくるわけです。さらに緊張による疲労はますます、眠気を呼び込みます。
観音様が上人を待っている間「この寺には来ないかもしれない」とか「来たらどう応待しよう......」とか「ぜひとも選ばれなくては!」といった不安や期待や緊張に見舞われて、上人がいよいよお着きになり、とりあえず第一関門突破! と思ったとたん、プッツン! スットン! と眠りの国へ。
この逸話がもとで、人々はこの観音様を「眠り観音」「居眠り観音」と呼んで、眠りを授けてもらうために、泉流寺へお参りに訪れるようになったということです。
みなさんも肝心の時の眠気にはご注意を!
そんな眠気を覚ますには、ストレッチをしたり、外へ出てみたり、冷水で顔を洗ったりしますが、おせんべいなどの硬いおやつを食べて、顎を動かすのも一手です。目が覚めるような濃い煎茶も一緒にどうですか。
【今月のねむまめ】
居眠りのおかげで札所の栄誉を賜った24番霊場の中山寺には、三十三霊場の観音様たちが降りてくる日があり、その様がまるで星が下るように見える、と伝えられています。この夏、中山寺の星下り大会式ぜひ見に行ってみませんか。 今年の開催は、8月9日予定です。
[中山寺]
住所:兵庫県宝塚市中山寺2-11-1
TEL:0797-87-0024
拝観料:無料
拝観時間 : 無し
納経時間 : 9:00~17:00
※星下り大会式の詳細はこちら>>
※現在、泉流寺の「眠り観音」は開帳しておりません。
photo by Thinkstock/Getty Images
(橋爪明子)