アリスさんの事は、彼女が関わった地元の中学校の敷地に畑を作るプロジェクト、"エディブル・スクールヤード(食育菜園)"について私のスターブログでも以前紹介したことがあります。
幻の料理絵本『シェ・パニースへようこそ』。
ページをめくったら、窓から日差しが差し込み、まるでここを読んだら? と言われたようでした。
以前にスターブログでも紹介した『エディブル・スクールヤード"食育菜園"』についての著書です。
彼女は、新鮮な素材を生かした繊細な料理でアメリカの食に新しい風を吹き込んだ、「カリフォルニア・キュイジーヌ」の創始者と言われるシェフですが、通勤途中、毎日のように見かける中学校の荒廃ぶりに心を痛めていました。
壁には落書き、芝生は黒焦げ、窓ガラスは割れ、すっかり荒れ果てていたのです......。シェフになる前は小学校の先生をしていたということもあり、何とかその荒れた中学校を立て直したいと考えるようになりました。
そのことをある雑誌のインタビューで語ったところ、キング中学校の校長先生から直接連絡があり、意気投合し協力をして共に中学校の再生に取り組むことになったのでした。食べ物を育て、調理し、食べることを通した教育。アリスさんは中学校の駐車場を農園にして食育のプログラムを作り、300人の生徒、十数人の教職員、100人を超える地域ボランティアの人たちと一緒に3年をかけ、豊かな実りをもたらしてくれる農園を誕生させました。彼女の提言で始まったそのプロジェクトは、今では何と全米3000校以上に広がっているそうです。
『シェ・パニースへようこそ』は、そんなアリスがアメリカのバークレーで経営しているレストラン『シェ・パニース』の事を、彼女の愛娘ファニーがナビゲーターを勤めるという設定で書かれた楽しい料理本です。
それにしても、なんてアットホームで気さくで魅力的なレストランでしょうか。ページをめくると素敵な挿絵がたくさんで、彼女のレストランのキッチンやお客さんの音が聴こえてきそうです。私の娘も早速「ナニナニ? なんの本なのー? 」と近寄ってきました!
この本は大人が楽しめるのはもちろん、子供と一緒に楽しめる貴重な料理本だと思います。きっと娘が成長したら、「子供の頃にいい本が家にあったよね。また読みたいな。」と言いそうな、そんな特別な本だと思います。
アリスさんは「食から子供たち、ひいては世界は変えられる」と言っています。私もニューヨークで生活するようになり、彼女のその言葉にますます共感するようになりました。食ほど私達の生活にとって密接したものはありませんが、まさに食のかたちは、私達の世界のかたちなのだと思います。食に対する意識、システムが変われば、世界そのものが大きく変化するはずです。
「彼女の名書、『アート・オブ・シンプルフード』
最近アメリカで出版された新書『アート・オブ・シンプルフードⅡ』。
この出版記念で、我が家の近所の小学校で彼女の講演会が行なわれました。気さくで素敵な方で会場もとってもいい雰囲気でした。
今回、一年振りに日本に帰ってきて、日本人の食に対するきめ細やかさに感動しました。精進料理では「生き物の目を扱うかの如く」食材を大切にするように、と言われていますが、日本人にはその気持が無意識に備わっているように思います。それはアメリカにはない貴重な部分だと、今回しみじみ感じました。
アリスさんはここ15年程、特に有機栽培野菜の地産地消、配合飼料を使わず牧草だけで育てた牛肉の使用など、自然回帰、シンプルの方向を目指してスローフードを提唱しています。
「フランス料理やイタリア料理は存在するが、『アメリカ料理』と呼ぶべきものが無い」、との長年の定説に対して、彼女は「カリフォルニア料理(カリフォルニア・キュイジーヌ)」というべきカテゴリーを打ち立てることに成功しました。アリスの動きはカリフォルニアだけでなく、アメリカじゅうのシェフに影響を与え、また、"エディブル・スクールヤード(食育菜園)"のプロジェクトはホワイトハウスまで巻き込んだ社会現象にまで成長しています。
彼女の佇まいは、私にいつも勇気を与えてくれる、そんな存在なのです。
(カヒミ カリィ)