田齋忍さんの「ちんころ屋」に並ぶチンコロ。こちらは「ねこたい(猫×鯛)」。おばあちゃんに教えてもらった昔ながらの色やかたちを受け継ぐ。
開催されるのは、毎年、1月10日、15日、20日、25日の4日間。十日町駅から徒歩10分ほどの諏訪町通りが会場となります。通りには、かご、乾物、漬物、お菓子、野菜、魚などを販売する露店が50軒ほど連なり、朝9時のはじまりからにぎやか。子どもから年配者まで、雪降るなかでも晴ればれと楽しげな表情を浮かべています。
「ちんころ屋」で選んだチンコロ。田齋さんが使う基本の色は、赤・緑・黄色の3色。白は米粉そのものの色。
節季市は通称「チンコロ市」とも呼ばれています。チンコロとは「小さな犬」という意味で、米粉を練って蒸して形づくる、縁起ものの飾り。明治のころから節季市で販売されるようになり、いまでは市でいちばんの人気。チンコロを売る店のまえには開店前から長い列ができるほど。市は16時頃までですが、チンコロにかぎり午前中には売りきれてしまいます。
田齋さんのおばあさまがつくり方を指導した「エンゼル妻有」のチンコロ。干支の羊、雪だるま、雪国のこどもと、かたちもいろいろ。
昔は焼いて食べていたそうですが、こんにちでは部屋に飾って鑑賞用に楽しみます。米粉でできているので、次第にひびが入り割れてくるけれど、ひび割れが多いほど幸せを呼びこむと言われているので、悲しむことはありません。地元の人はまた翌年、あらたなチンコロを求めるため市に足を運びます。
公民会活動として地元の人が集まりつくっているという「中条ちんころ伝承会」のチンコロ。子どももおじいちゃんも真剣。
今年、市に並んだチンコロ屋は全部で4軒。明治時代からチンコロをつくっていた家系に育ち、おばあさまからつくり方を教えてもらった田齋忍さんの「ちんころ屋」の他は、同好会・伝承会としてグループでチンコロづくりをしています。「ねこ×たい」「いぬ×まり」「もちつきうさぎ」「花」などが伝統的なモチーフで、白・赤・緑・黄色の3食が基本の色、次第に、干支や雪国の子どもをかたどった、カラフルなチンコロもつくられるようになりました。
「つまりちんころ同好会」のチンコロはカラフル。装飾にビーズも使う。
4軒すべてを巡り、いろいろな種類のチンコロを買うことができたところで、新潟独特の屋台菓子「ポッポ焼き」を食べあるきしたり、手づくりかごを選んだり。午後からは、チンコロのつくり手・田齋忍さんに話を伺い、チンコロつくりを体験させていただきました。
田齋さんに指導いただきながら、私がつくったチンコロ。「まりいぬ(鞠×犬)」。
チンコロの詳しいつくり方や歴史は、3月にグラフィック社から上梓予定の著書をぜひご覧くださいませ。日本各地に根付く、郷土玩具を紹介する本。郷土玩具にゆかりのあるお菓子もいろいろ紹介しています。
チンコロ市はこの1月、まだ数回開催されるので、ひとつとして同じものはない愛嬌たっぷりの縁起ものを求めに、雪国へどうぞ。
にわとりをかたどった「トットッコ」は、こしあん入りの、しんこ餅。昔は、チンコロのように、立体的なかたちをしていたけれど、つくれる人がいなくなり、平面的にアレンジして復活させたそう。「中条ちんころ伝承会」の露店にて購入。
手編みのかご、ざる、カンジキ、笠を並べる店は、女性客がひっきりなし。
蒸気をあげる特別な焼き器でつくるため「蒸気パン」とも呼ばれる「ポッポ焼き」。薄力粉、ミョウバン。炭酸、黒糖をつかった生地で、新潟ならではの屋台のおやつ。
「節季市」の露店は、野菜、魚、乾物など、食材も豊富。
十日町市の積雪。道の両脇に雪の壁が。雪国で生まれた、暮らしのための市。また来年も、再訪できたらいいなあ。