ボーデン湖からシュテュットガルトに向かって約30km北上した高原にあるホテルは、そもそもは1712年オープンのパブでした。ユルゲンのお父さんは酪農家で、お母さんが料理を担当していましたが、1968年に火事で建物が焼失、それを期に、部屋数32室のホテルにすることに。食材、建材と徐々に認証を得て、2007年からビオホテルとしてスタートしました。
ユルゲンの料理のポリシーは、フレッシュ、ナチュラル、季節感、そして郷土の味。なんだか、日本料理にも通じる考え方ですね。ディナーのメインにいただいたのは、敷地内で放牧したアンガスビーフを使った〈リンダー・ラマード・ブラーテン〉。4週間熟成させた牛肉を12時間じっくりローストして、この地方名物の鹿のラグーを合わせたもの。うま味がじんわりなじんだお肉のおいしいこと! 手打ちパスタに、フライドオニオンのトッピングをたっぷり載せたお料理〈マルタシェン〉もスペシャリテ。ワインの種類も豊富で、「飲みきれなかったらお部屋でどうぞ」とお持ち帰りできるのもよいですね。
「そもそも、我々のホテルのあるリンパックの町は、ビオディナミ(自然農法の一種)の始祖ルドルフ・シュタイナーを信望する人たちが集まり、一種のムーヴメントが起こったところで、ホリスティックな考え方が自然と受け入れられてきたところ。ドラッグ中毒の人に畑仕事に参加してもらって治療することも行われていたんだよ」とユルゲン。意識の高い生産者が多いため、ユルゲンの料理もどんどんナチュラル志向になっていったのです。
こちらが、昨夜いただいた牛さんの仲間です。
露天風呂やサウナなどのリラクゼーションスペースも部屋には、サービスの蜂蜜ベースのスクラブが。
このホテルのもうひとつのお楽しみはスパ。部屋には、ウエルカムドリンクならぬ、蜂蜜をベースにしたウエルカム・スクラブが置いてあり、まずは、ひとっ風呂浴びるのを薦められます。行ってみると、露天風呂風のオープンなスペースをはじめ、サウナやジャクージ、塩風呂などさまざまな小部屋とリラクゼーションスペースが。そして男性も女性も全裸で闊歩しているのです。勇気がなくて、バスローブ姿でウロウロしている自分が、ちょっと恥ずかしい感じでした......。
夜遅くまでキッチンで働くユルゲンに代わって、朝ご飯を用意してくれるのは、彼の師匠でもあるお母さん。ドイツの朝食は、ハムやソーセージにチーズ、トマトやきゅうりとシンプルなものが多いのですが、いずれも素材のよさが際立っています。
「チーズはとくにユルゲンが信頼している生産者が多いのよ」とのこと。そして昨夜、ユルゲンに一番好きな料理はなに? と聞いたところ、返ってきた答えが「お母さんのアップルケーキ」というわけで、そちらもいただくことに。
民族衣装のディアンドルがキュートなスタッフが持って来てくれました(ついでにチェリーケーキも)。ほんのりすっぱく甘さ控えめでじんわりと美味。
ホテルのおもてなしも、フレンドリーでカジュアルなのに礼儀正しく、南ドイツならではのホスピタリティを感じました。
[Biohotel Mohren (Familie Waizenegger)]
Kirchgasse 1, 88693 Degenhausertal-Limpach, Deutschland
+49 (0)7555 9300
文/中濱潤子、写真/山下郁夫
協力/ビオホテル協会