我が家で愛用している、西本良太さんの木工雑貨。四角い木皿、ポテトチップス型豆皿、アイスの棒マドラー、三角コースター。
木工作家の西本良太さんは、その反対の経験をしたことが、新たな作品のきっかけに。友人が撮影したカットリンゴが、木のかたまりに見えたそう。「リンゴが木に見えるということは......木でリンゴのようなものもつくれるだろう」と逆転の発想で、木でできた食べものと日用品のシリーズが誕生しました。
7月10日から27日まで、国立市谷保に所在する「gallery&books circle」で開催の「GROCERY STORE」展では、西本さんが青梅のアトリエで製作した、木製の食べものや日用品が並びます。そしてそれらのパッケージを手がけたのが葉田いづみさん。葉田さんは、ざまざまな本のブックデザインをおこなうデザイナー。私もこれまで数々の著書を葉田さんに担当していただきました。
葉田いづみさんにデザインしていただいた私の著書。ずらりと。
カジュアル過ぎず手頃過ぎず、中身がどんなものであるか一目で分かるように。内側・外側ともに、素材やかたちを考慮しながら、パッケージをつくったという葉田さん。西本さんと葉田さん、2人の作品のバランスの妙は、ご夫婦だからこそのあうんの呼吸もあるのでしょうか。
国立市谷保の「やぼろじ」は、旧家を改装して、カフェ、工房、シェアオフィスなどを運営するプロジェクト。蔵を利用した「gallery&books circle」も、やぼろじ内に。
「gallery&books circle」は、1階が国内外のアートブック・リトルプレスなど、新書と古書をともに扱う本屋さん。2階がギャラリーで、企画展やワークショップがおこなわれる。
数年前に、ポテトチップスやアイスの棒をモチーフにした西本さんの作品を目にしたとき、むずむずそわそわ落ち着きなく、私の中の「子ども心」が揺り動きました。食べもののような食べものでないもの、食べもののようにおいしそうな気配をまとったもの。それらを好み救われた、幼い日を思い出したのです。
今回の展示で私が購入した西本さんの作品。プリン。
救われたというのは、こういうこと。両親に連れられおとなの集いにたびたび参加していたのですが、そのうちいつも退屈や空腹なときがやってきました。そんなとき車のトランクから、カステラのようなスポンジや、ビスケットサンドを思わせるワックスケースを出してもらい、想像力を働かせながらままごと遊びをして乗り切りました。
食べものや雑貨が実際に店頭に並んでいるように、パッケージに包まれた西本さんの作品。パッケージデザインは葉田さん。右上から時計回りに、スティック菓子、アイスキャンディー、石鹸、ポテトチップス、ガム。
子どもの頃によく食べたロール菓子。本物と見間違うけれど、もちろん西本さんの作品のひとつ。
今でもまち中を歩きながら心が落ち着かないとき、らくがんのような立体看板や、チョコレートのようなベンチ、食べものに似たなにかを見つけると、胸を打たれたり、不思議と安心できるのです。そんな体験にも通じるエッセイを「GROCERY STORE」展に合わせて葉田さんのデザインでつくられた冊子に寄稿しています。
展覧会のためにつくられた冊子。木でできた食べものや日用品、そのパッケージの写真を掲載。私もエッセイを寄稿させていただきました。子どもの頃、"食べもののような食べものでないもの"の魅力に目覚めたはなしなど。
「GROCERY STORE」展は今週末も開催しています。circleがある一帯はちょうど今「昔ながらの夏休みの時間」を彷彿させる気持ちのよいところ。子ども連れでも、ひとりでも、楽しめる展示です。
レセプションパーティーでは、ごはん屋ヒバリさんの色鮮やかな料理が。テーマは、まる、さんかく、しかく。
展示会場でおみやげに求めた、桑原奈津子さんのクッキー。