<農園プロフィール>

馬場修一郎農園(静岡県富士宮市)
馬場修一郎さん安井拓人さんの共同経営
化学肥料不使用、無農薬。季節を通して年間150品種以上の野菜を栽培

都心から農園までは東名高速を北西へ約2時間。遠くに見えていた富士山がだんだんと大きく見えてくると静岡、富士宮市に到着です。インターを降りると夏にはカヌーやラフティングツアーでにぎわう富士川も見え、自然と深呼吸をしたくなるようなさわやかな空気です。国道沿いの指定された場所に到着するとオーバーオール姿の2人、馬場修一郎さんと安井拓人さんが大きなコンテナハウスの中から迎えてくれました。

「古いコンテナをゆずってもらい自分たちで改装しました。野菜の保管や仕分け、事務の作業場として使っています」

なんだか秘密基地っぽい雰囲気ですが、中はちゃんと作業場、大きな野菜用冷蔵庫があり冷暖房完備、事務スペースもありで快適そうです。

「さっそく収穫に行きましょう」馬場さんの運転する軽トラへ同乗させてもらい標高300メートルほどの山あいにあるという畑へ向かいます。斜面を登ったりくだったり、富士山が見えたり隠れたり。先日降ったという初雪で山頂はうっすらと白くなっています。

「たまたま縁があってこの土地を選びました。土壌がいいとか水がいいとかの理由ではなくて」

借りている畑はもとは田んぼ、今は使われなくなった荒れ地がほとんど。じつは野菜に向いた畑は少ないそう。しかも川沿いの畑、山あいの畑では性質がまったく違ったり。それぞれの畑に合わせて相性のよい野菜を育てているそうです。

「運良く借りられた畑で野菜を作る。育ちが悪かったら翌年は他の野菜を育ててみる。基本的にはあるがままで作るしかないんです」

それでも収穫が終わった野菜の残りや雑草、分けてもらったキノコの菌床などの有機物を畑に漉き込み、少しずつ野菜に向いた畑になってました。

馬場さんは農協へ出荷する一般的な慣行農法の農家や永田農法、有機農法などさまざまな農法の現場で修行をかさねてきました。それぞれの農法の良いところを学び、自分の畑で自分の野菜の味を出そうと独立しました。

「以前より肥料を減らしても野菜がよく育つようになりました。今は必要最低限の肥料で十分。農薬も使わなくても意外とやれています。畑はそれぞれだから教科書どおりじゃないんですね」

畑は無農薬。化学肥料は使わない。むやみに栄養を与えなくても野菜の力でゆっくりおおきくなる、それが野菜のおいしさにつながっているようです。

到着した畑は一面に植えられたニンジン畑。山あいから昇る遅い太陽に朝露がキラキラと光っています。スポスポと次々収穫されるニンジンはよく見るニンジンとはだいぶ違うよう。白く、しかも細い。これはまだ間引きのニンジンでしょうか?

「ウチではこれが出荷サイズなんです。これがお客様から求められたサイズです。レストランの料理にはこのサイズじゃないと」

例えばフレンチレストランのメイン料理、白い皿に盛られた牛ホホ肉の赤ワインの煮込み、そこにそえられるのはソテーされた形の良い葉つきニンジン。品よくストーブ鍋に並べられてオイルをかけて蒸し焼きされたニンジン。シェフが腕をかけて作るひと皿を彩る野菜はこうやって育てられているんですね。洗練されたレストランのテーブルが目に浮かびます。

「密集して植えたり種を蒔く時期をずらしたりしてサイズを調整します」ニンジンだけでも赤、白、黄色、黒など6種類、楽しいひと皿ができそうです。

歩くすきまもないほどびっしりと育つ野菜の中を、大きな体で葉をかきわけながら収穫する馬場さん。気になるのは腰にぶらさげたカゴ。野菜の収穫というよりまるでキノコ狩りや山菜採りのようです。

「今日の朝までに来た注文を今日の午前中に収穫、今日中に出荷するんです。いっぺんに同じ野菜をたくさん収穫、ではなくその日に必要なものを少しずつ。こまかく動き回れるようこのスタイルがちょうどいいんです」旬の野菜を詰め合わせた野菜セットの販売だけでなく、レストラン向けには『白ニンジン200g』など、細かい注文にも対応します。

隙間なく密に植えられたラディッシュ。「空いたスペースがもったいないので種をまいちゃうんです(笑)」

ラディッシュの収穫。赤、白、黄色、丸かったり細長かったりとさまざま。

農園は土曜日の午後以外は年中無休、お正月だって休むのは2日まで。3日に注文が来れば畑に出ます。農園には馬場さんと安井さんの二人だけ、他にスタッフはいません。

「Amazonって便利でしょ。僕らはAmazonをお手本にしています。自分たちが売り手になった時も便利に使ってもらおうと思って」

ぽちっとすればその日中に商品が届く時代。農家もぼんやりはしていられない。注文が来れば雨でも風でも畑へ収穫に、翌朝にはレストランや家庭へ、お客さんは新鮮な野菜を味わうことができる。そんなAmazon的サービスのおかげで、

「ありがたいことに野菜が足りないんです。もっと送ってっていわれちゃう。僕たちももったいなくてほとんど食べられないんです」

紫ミニダイコンの収穫。

収穫が終わると作業小屋へ戻り野菜をひとつひとつ手洗いして土汚れを落とします。

「ドロドロ野菜が届いたら困るでしょ。直接キッチンに運ばれるので土は落とします。でも皮がむけるほどピカピカにするのも違う、そうすると手洗いに。でもこれが一番大変で」

もうひとりの農園主、安井さんもゴボウやサトイモを抱えて畑から戻ってきました。休むことなく野菜の選別、計量が始まります。お昼時はとっくにすぎていますが休む様子はありません。

「16時に出荷のトラックが来るのでそれまでに発送の準備をします」肉体労働なのにお昼休憩ナシですか!「もちろんハラ減りますよ。でもあと2,3時間だからがんばっちゃいます」

農園は馬場さんと安井さんの共同経営。馬場さんが立ち上げた農園に、研修先から独立した安井さんも数ヶ月後に参加。どちらかが社長ではなく共同経営。売り上げも半分だし責任も労働も半分。

「すべて対等の関係。そのスタイルが二人とも気に入っていて。洗う作業でも人まかせにはできない、なるべく自分たちで責任を持ってやりたいんです」

大浦ゴボウの収穫。川沿いの畑はゴボウやサトイモに向いた粘土質のねばりのある土。

二人は月に一度、代々木公園で開かれる東京朝市・アースディマーケットへ出店のため都心へ。直接お客さんに会って売る、ことを大事にしています。野菜の販売が終わるとその足で得意先のレストランへ食事に行きます。

「東京に出ることで自分たちを客観視できるし、レストランへ行くことで料理、客層、スタッフ人数、席数、雰囲気が見える。そうすると電話だけじゃわからない『求められること、やるべきこと』がよく解るんです」

作業小屋に貼られたタネの袋。レストランの要望に答えられるようにいろいろな野菜を試して育てる。

「そうやってなるべく『こうしたらいいんじゃないか』って思うことはひとつずつやるようにしています。やるだけで僕たちの個性が出せるし、評価もあがる。やれば次への新しい発想も出てくるから」

安井さんお手製の農園野菜を使ったレシピカード。レシピからデザインまですべて手作り。レシピは100種以上。

馬場さんはひとりひとりに手書きのメッセージを。悩みながら筆を走らせる様子は締め切りに追われた文筆家のよう。

やりたいことを実現しながらも常に目標を持ち続ける二人、冗談もまじえながらもまじめな話をする様子にこちらもワクワクしてきます。

「僕たちみたいに若い人が楽しそうであれば、これから農業をやりたい人も出てくるのかなって。ここも熱意がある人が来れば歓迎しますよ。そのときは雇う、雇われる、の関係ではなく新人でも同じ責任を持ってもらって対等の関係に」

そろそろ時刻は16時、急にあわただしくなってきます。おしゃべりもなくなりもくもくと作業に専念、緊張感が伝わってきます。発送用のダンボールを組み立て野菜を入れ、馬場さん手書きのメッセージ、安井さんのオリジナルレシピカードを入れ、テープを貼れば荷造り完了、今日一日の仕事が終わりです。「あとは配達業者に渡すだけ。終わったら安心しますね。あー、今日も間に合ってよかったー、って」二人笑顔が戻りました。

フライドポテトのレシピ

アースディマーケットでの屋台販売でも人気だったフライドポテト。フランス生まれのジャガイモ『サッシー』を使って作ってもらいました。油との相性がよくフライドポテトにはぴったり、農園イチオシのジャガイモです。

◆材料

ジャガイモ、揚げ油、塩、ローズマリー

◆作り方

1. ジャガイモをまるごとやわらかくなるまで30分ほど蒸す。時間が無ければゆでる。

2. やわらかくなったジャガイモを取り出し、熱いうちにゴルフボールくらいの大きさになるよう手で割る。

3. 油を熱し、温まったところにジャガイモを入れ焼き色がつくまで揚げる。

4. 香りづけにローズマリーも油で揚げ、器に盛ったジャガイモに添え、塩をふる。

取材を終えて

包丁を使わずに手でジャガイモを割ることで外がカリっと中はホクホク、ジャガイモのおいしさがよくわかる最高のフライドポテトでした。最高の味を出すってきっと偶然じゃない。工夫して手間をかけることでぐっと美味しくなる、農園の野菜もそうやって育てられているんだろうな、と思えるようなうまみが感じられました。

[馬場修一郎農園]

撮影・文/柳原久子

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