岡田斗司夫プレミアムブロマガ 2019/03/12

おはよう! 岡田斗司夫です。

今回は、2019/02/17配信「『ファースト・マン』は後々評価されるが、今は当たらない理由」の内容をご紹介します。
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2019/02/17の内容一覧


「ニュー・ナイン」への選出

 娘が死んで、自分だけがX-15の事故で生き残ってすぐ、ニールはジェミニ計画のパイロットに志願します。
 娘が病気になってからも、毎週毎週、5日間シアトルに通って続けていたX-20ダイナソア計画は、マーキュリー計画が成功しちゃって以降、打ち切りが決まったんですね。
 つまり、「空軍はもう宇宙に行けない」というのが、はっきりわかっちゃったんです。もはやジェット・パイロットとしては、これ以上のキャリアアップ・出世は望めない。時代は「宇宙飛行士こそ真のヒーロー、真のパイロットだ!」と言い始めていた。そして、ジョン・グレンが地球を周ることによって、それが証明されちゃったんですね。

 なので、4月になってニールは、ジェミニ計画の願書募集に応募します。
 この願書の到着は、ちょっと遅れて5月に届いちゃったんですけど、NASAはそれを大目に見て受領してくれました。
 しかし、願書を出しても返事が来ないんですね。すると、ある日、いきなり「ニューメキシコに行け」という指示が届きました。
 アルバカーキという、『ブレーキング・バッド』でお馴染みの、ニューメキシコの街に、ラブレースクリニックという病院があります。これ、僕も偶然、去年行ってきたんですけど。「そこで検査を受けろ」と言われるんですね。
 「でも、それは極秘だ。誰にも言うな」と。「ジェミニ計画に関係があるのか?」と聞いても答えてくれないんです。
 何のことかもわからずに、ラブレースクリニックに行ったニールは、ものすごく精密な身体検査を受けさせられました。ここで「あ、これ、ジェミニ計画の一環じゃないかな?」と思ったそうなんですけど。

 それが終わったら、またモハーベ砂漠に戻って、今度はF104で何回かテスト飛行をする仕事を受けます。これはまあ、幸運にも事故がまったくなかったんですけど。
 その次は「フランスの会議に行け」と言われて、フランスまで行って帰って来たら、今度はまたX-15のテスト飛行です。このX-15のテストでは「マッハ7.5にまで持っていけ」と言われます。これはもうX-15の最大速度に近いんですよ。
 このテスト中に操縦席中に煙が溢れ出しました。つまり「どこかが燃えてるんだけど、それがどこかはわからない」と(笑)。そんな燃え続けているX-15を、なんとか着陸させて、またニールは死にかけたわけですね。

 そしたら、今度は「サン・アントニオというカリフォルニアの街で心理テストを受けろ」というふうに言われたんですよ。

 この、コックピットが燃える中、ガーッと着陸させてすぐに受けた心理テストというのは、なかなか厳しくて。
 中でも、全員が「これはツラかった」と言っていたのが「隔離テスト」と呼ばれるものなんですね。

 隔離テストというのは、『ライト・スタッフ』の映画でも出てきたんですけど、実際は窓も何にもない鉄の小部屋みたいなところで、音も光もまったくない一切の感覚が途絶されてしまった場所に長時間隔離されるというテストです。
 人間はそこで、自分が立ってるのか座っているのか横になっているのかもわからないし、何分経ったのか、何時間経ったのかすらまったくわからないという、ものすごい不安に数分で陥ると言われています。
 そういった完全に途絶された場所に隔離されて「2時間経ったら出て来い」と言われるんですね。
 この2時間というのがまったくわからなくて、みんな30分くらいで出てきちゃうんですよ。「もう、いくらなんでも2時間経っただろう」と。しかし、「いや、俺は丸1日くらい過ごした」と思って出てきたら、「まだ30分とか45分しか経ってない」と言われてビックリするんですけど。

 ニール・アームストロングは、この2時間経ったら自分でドアを開けて出て来るという隔離テストで、きっちり2時間で出て来たんですね。
 「お前、どうやったんだ?」と聞かれたニールは、「いや、「下宿のベッドに男が15人」を歌ってた」と答えたんですよ。
 この下宿のベッドに男が15人というのについて、僕も調べてみてなんとかわかったんですけど。これはアメリカの数え歌の「ボーイスカウトがベッドに10人」という歌の替え歌だそうです。
 「アブラハムには11人の子、1人はのっぽであとはチビ~♪」みたいな数え歌というのがアメリカにはよくあるんですけども。その1つに、ボーイスカウトがベッドに10人寝てて「ロールアウト、ロールアウト~♪」というふうに、「1人がちょっと向こうに詰めて、ちょっと向こうに詰めてって言ったら、一番奥で1人で落ちちゃった」みたいな数え歌があったそうなんです。
 これが、どうも当時のアメリカの大学生の間では「下宿のベッドに男が15人寝てると、向こうへ行ってくれ、向こうへ行ってくれ、1人落ちた」という替え歌になってたらしいんですね。
 ニールがこの歌を自分のペースで歌うと、ちょうど3分くらいかに収まったそうなんです。で、それをキッチリ何十回か歌ったら、ちゃんと2時間になったので出てきたら、ほぼ2時間ピッタリだったそうなんですけど。

 ニールという男には、こういうふうに自分を見失わないところがあったんですね。
 みんな「どうやって自分が冷静なところを見せようか?」みたいに、自分が感覚途絶テストみたいなのを受けても平気なところを見せようとしていたのに対して、ニールは「要するに2時間ピッタリで出てきたらいいんだな。でも、正確に数を数えようとしてもペースが狂っちゃうから、じゃあ、俺はよく知っている歌を何十回も続けて歌おう」とだけ考えて、2時間で出てきたと。
 この辺のクソ度胸というか、落ち着きっぷりというのが認められて、彼は最終選考に残ります。

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