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少人数組織を運営するための哲学 その1
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少人数組織を運営するための哲学 その1

2016-09-05 15:50
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    わたしが属するヘッジファンドの業界は生き馬の目を抜く業界だ。
    毎日、成績で評価される。そのストレスから、心身ともに疲弊する日々だ。


    事実、毎年のように、ヘッジファンドは消滅する。
    以前の会社では、最後まで残った運用チームは3つだけだった。
    10以上の運用チームが7年間の間に解雇となった。
    そう、ヘッジファンドは、成績が悪いと解約されてしまうのだ。


    だから、わたしたちのチーム6人が、10年以上、ヘッジファンドマネジャーを続けられたことは奇跡に近い。


    この業界に関わらず、
    世間一般に、チーム運営は簡単ではない。

    なぜなら、人間関係が難しいからだ。
    人間関係は、些細なことですぐに壊れてしまう。


    わたしもチームの運営は試行錯誤の連続であったし、
    とくに、メンバー間の関係に苦慮してきた。

    この10年の組織運営において、「組織は、こうしたら上手くいくぞ!!!」
    という経験則を得た。


    その経験から、基本となる組織運営の哲学が生まれた。
    チーム運営に悩むリーダーの方々に、特に、読んでもらいたい。



    ■仕事は必ずプラスをもたらす


    仕事とは何だろうか?
    しなくてはならないこと、であり、業務であるともいえよう。

    チーム運営のために基本となる原則は、
    「どんな仕事も必ずプラスをもたらす」ということだ。


    ■仕事をする人は例外がなくプラス貢献を組織にしている


    仕事をする人は、全員がプラスの貢献を組織にしている。

    たまにはミスもあるだろう。
    例外的に、ひとつのミスから大きな損失を
    会社に対して与えてしまうこともあるだろう。

    また、自らのミスにより、同僚に思わぬ迷惑を
    かけてしまうこともあるだろう。

    しかし、長い月日を通して見るならば、
    すべての働く人々は組織にプラスの貢献をしていると考えてよい。

    メンバーを見るときに、頼り甲斐のあるプラスの存在として見るように、
    リーダーは心がけることが重要だ。


    ■組織を運営するための原則 ~仕事は加算で評価する~


    くどいようだが、仕事とはプラス行為の積み上げである。

    一時間ならば、一時間分のプラスを積み上げる。
    一ヶ月ならば、一ヶ月分のプラスを積み上げる。

    それを、リーダーが暖かく見守る。

    月給も年収も同じ考えだ。
    成功報酬もそうだ。

    マイナスの成功報酬はない。
    マイナスの時給がないのと同様だ。


    ■組織を運営するための原則 ~精神的な猶予、時間的な猶予を与える~


    長い年月をかけなければ成せないような仕事が誰にとっても存在する。

    せっかく働くのだから、簡単なことばかりではなく、
    社員が、長期的に継続してひとつのことに取り組むのを応援する。

    もちろん、簡単な仕事というか、単純作業こそ、重要な仕事である。
    簡単な仕事を、生産的に働けば、プラスを組織にもたらすからだ。

    事実、世の仕事のほとんどは単調なものである。

    だからこそ、メンバーには、簡単な仕事にも、
    簡単ではない仕事にもバランスよく、取り組ませたい。

    長期的に継続して専門性を高めていけば、その人は成長していく。

    長期にわたり成長する社員が長期にわたり、際立った業績を会社にもたらす。

    メンバーには、ざっくり80%は簡単な仕事でも、
    残りの20%は長期的な課題に取り組んでほしいと思っている。


    簡単な仕事は、生産性を上げることで、付加価値は高まる。
    一方、難しい仕事は、専門性を深堀することで、キャパシティが整う。

    どちらも、経験が必要だ。
    そのために、時間的な精神的な余裕をメンバーに与える。


    ■基本原則 ~マイナス思考を排除する。他人を責めない~


    どんな組織にも様々な人間関係がある。
    プラスのはずの仕事が他人からマイナスの評価を受けてしまうことがある。

    遅刻してばかりの人がいれば、ちゃんと会社に来る人は不満を持つ。

    遊んでばかりに見えるような人がいれば、
    ランチに行く時間もなく集中して働いている人が不満を持つ。

    他人と自分。
    他人と他人とを、ある尺度で比べるならば、
    優劣が人間の間につき、劣っている方が問題になる。

    劣っている方が、もっと頑張れば、もっと生産的に仕事をすれば、
    会社全体はもっとプラスになるのだ。
    これは、いわゆる、「マイナス思考」である。

    あいつはダメだ。もっと、ましなやつがほしい、と。

    そういうマイナス思考を持つと、
    本来比べる必要のない事柄を比べる羽目になる。

    本来はいないはずの「出来損ない」な社員をわざわざクリエイトしてしまう。
    問題のないところで、あえて問題をつくってしまうのだ。


    これは人の性なのかもしれない。
    嫉妬もあるだろう。
    平等意識もあるだろう。

    人は、自分を評価する一方で、他人のことは評価しないものだ。


    わたしたちは、感情あふれる動物でもある。
    なぜあいつだけが・・・という思いはどうしても持ってしまう。

    だが、他者が劣っていることが問題になるとき、
    必ず、チームのムードは悪くなる。
    悪いムードで働いても、つまらない。

    だから、マイナス思考を乗り越えて、自身の矮小さを乗り越えてほしい。
    誰でも、自分に厳しく、他人に優しくできるはずだ。

    あるべき真の人格に一歩でも近づくようにと
    各人が「プラス思考」をもってほしい。
    (リーダーは結果責任を負うから、短期的成果に協力的ではないメンバーを
    叱咤激励することがあると思う。
    締め切り前に、プロジェクトの出来が悪くとも、そのことで、
    顧客や会社経営者に頭をさげるのもリーダーの役目である。)

    (リーダーはつらいものである。でも、リーダーがメンバーを責めないなら、不思議と、チームは一体になるものだ。)


    ■チームメンバー同士が尊敬する


    仕事は、各人が、すこしづつのプラスを持ち寄ることで成る。

    特に、運用は、各人が得意なことを持ち寄ることで成り立つ。
    あえて不得手なことをする必要はないのである。

    得意な分野で得意なことをすればよいのだ。

    運用には、学歴も、年も、男女の差もない。

    テキパキと動ける人は、生産的な側面で貢献すればよい。

    感受性が豊かな人は感じたままを述べればよい。

    技術が詳しい人はそれを武器に製品や理論の評価をすればよい。

    優しい人は、他人を認めてあげればよい。

    理屈っぽい人は理屈の通ったレポートを書けばよい。

    度量がある人は、他人のミスをそっとカバーしてくれればよい。

    人を育てることができる人は、人を育てればよいのだ。


    ■基本原則 ~他者への尊敬。他人を評価しない~


    そのために、チームの運営においては、
    「まず、他人を敬うこと」
    が最低限のマナーであるといってよい。


    他者を尊敬すること。

    それができないのは、マイナス思考であり、マイナス思考は他人に伝染する。

    だから、チームにいる限り、マイナス思考に成る傾向のある人は、
    その思考から脱却してほしい。


    わたしがよく思うことがある。
    この世が誕生して137億年だかの年月であり、
    いま、一緒にこの時代を共にメンバーと生きていることは、奇跡である。

    ほんの一瞬の人生なのだ。

    そのほんの一瞬の人生をプラス思考で生きるか、マイナス思考で生きるか、
    の問題なのだ。


    ■最も難しいのが「チームの和」を保つこと


    人間はとても愚かである。

    チームには、成績が個人に付きまとうので、
    成績が悪いメンバーは居心地が悪くなる。

    そんなとき、自己アピールすることが、
    成績の悪い他のメンバーへの批判に至ることもある。


    人間は愚かだから、自分の価値観で他人を評価して、
    他人より自分を守ろうとする。

    組織は、リストラするとき、一番、成績が悪いものを切ろうとする。
    もしくは、一番、チームの和を乱すものを切ろうとする。
    あるいは、年齢や給料が高いものを切ろうとする場合もあるだろう。

    年配は、和を乱す若輩が嫌いであり、
    若輩はフットワークの鈍った年配が我慢できない。


    「他人のことは語らない。自分のことを語ろう」

    他人を評価しない。自分を評価する。
    それを何回言い続けても、チームには必ず不協和音が生じる。

    そのときは、同じことを言い続けるしかない。
    チーム運営は我慢の連続である。


    チームを運営するなら、

    「他人のことをとやかくいうのは愚かで卑しいことである」
    という認識をチームに定着させたい。

    だが、会社組織というものは、毎日のように、
    他人をとやかくいう人が出てくる。(ため息)

    人は言われたら言い返すから、争いとなる。
    結果として、チームは大きなダメージを負うことになる。


    原則は、チームメンバー同士を比べることは愚かである、ということだ。
    リーダーは、チームメンバーを批評してはいけない。
    比べてもいけない。


    ■基本原則 ~今だけを見ずに、その人の過去や将来を評価する~


    人事の評価で、世間一般では通ることも、
    わたしには、おかしいと思うことがある。

    組織を管理しようとする人は、ほぼ全員、「今」だけしか見てない。

    今日、遅刻すれば、今日遅刻したことを問題視する。


    例がある。

    わたしは、経歴や学歴にこだわらないから、
    比較的、低い賃金でアナリストを新人で採用した。
    新卒で、年収はx00万円程度で採用した。
    証券アナリストとしては、安い部類だろう。

    その安い給料が3年続き、その後は、毎年のように、給料を上げていったが、
    会社が厳しいときに、安く働いてくれたことを感謝している。

    安い給料で3年働いた人が、有給を3ヶ月とったとしても、十分におつりがくる。

    だが、いま、その人が3ヶ月間、休んだら、必ず文句をいう人が出てくる。

    文句をいう人は、過去の事情が見えていないのだ。


    あるアナリストが体調不良になり、週に3日の勤務となったが、年収は下げなかった。

    「いままで十分に安い給料で働いてくれたから、この1年、働かなくても、会社にはおつりがくるよ」

    と会社は社員に伝えるのがよい。


    会社が「今」しか見なければ、いつも全力で働くことを強いることになる。

    うちのチームはよく勉強するから、土日や夜間の大学へ行ったり、
    語学を勉強したりしているが、意味のある仕事をなすためには、
    どれも必要なことだ。


    「今」しか見なければ、毎日、夕方から大学へ行くメンバーは、
    深夜まで働くメンバーと比べて、「サボっている」と見なされてしまう。

    しかし、その人の将来まで含めて考えれば、大学で身につけた専門性は、
    将来の会社の利益に還元されるはずである。


    運用業務でいえば、
    いつも、理解できるような文書ばかり読んでいるなら、
    意味のある仕事ができるはずがない。

    素人が全く理解できない論文を「なるほど、面白い」
    と感動する専門性を身につけてほしい。

    そして、そのアナリストが書いたレポートが
    素人に全く理解できないものであっても、わたしは構わない。

    理解できないのは、個人の学力や知識量の差であり、
    猿でもわかるようには物事は説明できるものではない。

    だから、一般人が読んでもさっぱり意味がわからないようなレポートでいいとわたしは思っている。


    「今」しかみない管理者は、
    いつからいつまで働いたとか、
    何時に会社に来たとか、
    他人を一律に「その日を基準に」評価しようとする。

    その人の過去と将来を評価し、
    今、その人が苦境にあるなら、
    寛容さを持って、接しよう。


    いま、たとえ、サボっている人がいても、
    それは将来への栄養であると、ドンと構えよう。


    (つづく)

    日本株ファンドマネージャ
    山本 潤


    (情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。万が一、事実と異なる内容により、読者の皆様が損失を被っても筆者および発行者は一切の責任を負いません。)
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