ボーイング787、ドリームライナーが就航して5年以上が経過し、初期に導入された機体から順に大規模整備を迎えている。
787が低燃費であることは広く知られており、我々素人から見れば炭素繊維を使った機体は軽い、つまり自動車同様に軽ければ燃費がいいと考えがちです。
しかし787に関する調査をしているとどうも違うらしい。
787はボディなど一次構造材の約50%を炭素繊維が占め相当軽いと思われがちです。
しかし樹脂を含浸、縦横方向に接着剤を使って積層させ、部位にもよるが厚いところで2~3cmと、アルミ合金の2~3mmと比較すると分厚い機体であるとウェブ上で記載している方がいる。
いくら軽い炭素繊維でも積層させれば重くなる訳で、実際は軽くない様だ。
離陸重量ばかり記載され機体重量が公表されていないが、従来機の767より重いのが事実のようだ。
今月に入り頭の片隅で787を考える生活が続く日々でしたが、証券界の先輩が日系エアラインのベテラン整備士を呼んで下さいまして、先週金曜日に空港近くで飲み会となった訳です。
一般に787の燃費は従来機より約20%優れているとの発表されていますが、約半分が新しいエンジンによる効果です。
エンジンはロールス・ロイスのトレントまたはGEのGEnxから選択でき、JALはGE製を選びました。ところがこのエンジン、上空の積乱雲を通過すると氷結するケースありと、2013年には3万フィート以上では積乱雲など活発な雲の周囲90kmの飛行禁止とボーイングが飛行規程を変更しました。
JALさんついてませんね。
3~4年前にIHI工場見学の際、このエンジンの対策を聞きましたところ、ソフトウエアでの修正と聞いておりましたが、ベテラン整備士の方によりますとヒーターを付けたとか。上空1万メートルの気温はマイナス50度で、コンプレッサ後段側は300度以上ですが、前段は冷えるんですね。
ちなみに積乱雲はレーダーに映るものの、左右どちらから回避した方がいいか、やはり経験と勘により優れたパイロットがいる訳です。
着陸の時、スッとうまく降りる機長とドカーンと突き上げの来るケースがありますよね。
乗客が多少ドスーンと突き上げを感じる程度に摩擦を考えながら着陸することで、特に悪天候では有効だとか。
さて787の燃費ですが、ボーイング、エアライン側とも約20%改善と発表してますが、比較対象がわかりません。しかしベテラン整備士によると、787の燃費は767より20%を大きく超えているそうです。
あまりの高燃費に私は自分の耳を疑い2度も聞き直してしまいましたが、何でも乗客1人当たり燃費では自動車に追いついたと。しかも灯油成分に近いケロシンはガソリンよりも安い。767は速度が遅く到着までに時間がかかるが、787は足が速いと。あのギザギザのカウリングも燃費に貢献しているとか。
エンジンに次ぐ燃費低減効果は主翼だそうです。炭素繊維複合材の特徴である剛性を利用し大きく“しなり”、後退翼とし抵抗が少ないのがポイントかと考えてましたが、単純にそんなことではないと。自分で今まで思っていた主翼の理論が完全に崩れてしまい理解不能に陥ってしまいましたが、簡単に言えばボーイングの設計力がポイントだとか。
結局、エンジンと主翼の効果が燃費低減の大半だという訳ですよ。
では炭素繊維を使用したメリットは?
2020年頃登場する次期777Xは主翼を炭素繊維複合材で作り、胴体はアルミ合金に戻した、これが答えです。
炭素繊維複合材をほぼ全ての部位に使用した787のデビューで、炭素繊維は今後も広く採用されていくとの認識が証券界にあったと思いますが、航空業界ではアルミ回帰なんだそうだ。
次期737Xは一次構造材全てがアルミ合金という。
しかし737MAXのアルミ機体と777Xのアルミ回帰は理由が異なるらしい。
炭素繊維を使うと機体価格が上昇し国内線で飛ばすとはコストメリットがなくなるという。LCCはローコストの機体を欲しがるし、国内線で使われる通路一本のナローボディでは、炭素繊維複合材を多用した機体ニーズがないそうだ。つまり高い機体だが遠方まで高度を高く飛ぶとコストメリットが出てくるようだ。
しかしワイドボディでは様相が異なる。787の性能向上が素晴らしいなら777Xも全て炭素繊維にすればいいハズだが、なぜか胴体をアルミに戻してしまった。
787のうたい文句の一つがメンテナンスフリーの方向。実際に就航してみると、これが厄介だったと。整備が大変らしい。
自動車の様に電装化を進めた787は革新的だが、今でも大変なのが落雷問題。
飛行中はスタティック・ディスチャージャー(細い管または針金のようなもの)を通じて空気中に放電させている。導電性の高いアルミでも無傷ではない様だが、炭素繊維は銅やアルミの様に高い導電性を示さないため、電気の逃げ場が少なく繊維を痛めるとの技術報告が古くから見受けられる。
そのため787では導電性を高めるため炭素繊維複合材と塗料の間に薄い銅が敷かれている。銅のラップまたはメッシュのイメージらしい。
この銅を通じて雷の電流を大気に逃しているが万全ではなく、落雷によって接着剤が高温になり炭素繊維が剥がれてしまうという。落雷と言っても上空だから横から、下から雷が飛んでくるんだろう。
日本は落雷が多いことが有名で、季節的には夏場、地域では日本海を飛行するとやられることが多いとか。修理では炭素繊維専門のチームが活躍する。
落雷による頻度こそ教えて頂けなかったが、頭を痛めている様だ。
あのデカい機体だから修理箇所の特定も大変そうで、そのうえ修理費用はアルミ合金の○割増しだとか。正確には○○割増しかな?
いまから5年以上前に東レの名古屋研究所を見学した。
その前に化学企業の研究員に炭素繊維の長所と短所を聞いていたので、自動車用途を前提に寿命の面で満足できる接着剤は世の中にないとの話は本当かと質問しましたら、研究員の方があっさり認めたのには驚きました。
落雷の場合、寿命とは関係ありませんが、落雷対策で新しい接着剤が開発されては試すことを繰り返していても、雷の超高圧だと温度は300度を軽く超えるそうで、その温度は教えて頂けなかった。ただ雷に耐える接着剤の目処は立っていないという。
そうしたことから2020年頃就航予定の777Xが胴体をアルミに戻すのは、落雷の影響が大きいらしい。
燃費低減効果も機体の軽量化ではなく、エンジンと抵抗の低い主翼の効果ですからね。
私は787の搭乗経験がないからわかりませんが、炭素繊維は腐食に強いため湿度を高く、剛性が高く窓枠が大きく取れるためキャビン内は快適だそうですね。アルミ機体だと腐食防止で砂漠の湿度状態でしたから、乗客にとっては願ってもないことです。
次期777Xの胴体に使われるアルミ合金では従来品よりリチウム含有量を増加させ、軽量化と腐蝕性を向上させメンテナンス性に優れるとボーイング副社長が言及しています。別の幹部はReturn to metalとの表現を使っています
し、上述のベテラン整備士の方は、この10年はアルミ回帰と言っておりました。
一次構造材はやはり金属への回帰の様です。
一方、キャビン内では落雷電流の心配はありませんから、軽量化が見込める炭素繊維の役割は増えそうです。但し焼成時間の問題がありますが。
日本カーボンという企業があります。炭化珪素繊維(炭素繊維ではありません)の製造に成功したのは世界で宇部興産と日本カーボンの2社のみで、日本カーボンの同製品が737MAXと777Xに搭載されるエンジンで使用されます(宇部製は777XのGE9Xエンジンで使用されると聞いている)。
日本カーボンの製品はニカロン、ハイニカロン及びタイプSで、このハイニカロンとタイプSでは熱に加えて放射線による架橋が行われています。
特許ではγ線やβ線など放射線によりと記載されていますが、前駆体であるポリカルボシランの架橋、つまりゾル化からゲル化への進行では真空またはHe雰囲気でも5MGy以上の線量でないとゲル化が開始されず、15MGyで完了するとも特許が原研から出されています。
しかしコバルト線源でもKGy/hであり不融化終了まで1か月以上の日数が必要となる。ならば電圧をガンガンかければ大量の線量を放つベータ線が有効だ。β線の数KGyを使うが、こちらは秒あたりの線量だから威力は凄く、約2時間の架橋で1500度まで昇華しSiC繊維に変異するとか。でも冷却は大変そうですね。
熱伝導を考えると水素がベストだけど危険だから、入手し難いHeなんでしょう。
ホギメディカルさんも医療キットでは梱包してから段ボール丸ごとβ線で照射殺菌しています(かつて見学した筑波工場がそうでした)。
β線の強い線量を利用し、コスト面で焼成時間が勝負となる炭素繊維でも活用しようとの特許や技術資料が散見されます。今月某企業での取材で、ゲル化を図りプリプレグを放射線で焼く特許が御社にあるとの話をしましたところ、後日特許番号を教えて欲しいとの連絡が来ました。何かありそうですね。
航空業界での炭素繊維は一次構造材では使用範囲の減少、反対に2次構造材やキャビン内では広がりですかね。
リチウム?航空機で増加すると相場は更に上昇かな?
考えると銘柄が浮かんできますね!
(億近産業調査部係長)
(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。また、当該情報は執筆時点での取材及び調査に基づいております。配信時点と状況が変化している可能性があります。)