書評:選択の自由 自立社会への挑戦その1
M&R・フリードマン 著、 日本経済新聞出版社
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■なぜ国営なのか?
共産主義ファシズムが横行するチャイナや朝鮮半島の国々をはじめとする発展途上国(後進国)などは論外として、米国や日本などの先進国(資本主義・民主主義)において、「国民の自由は保障されている」と多くの人々が信じています。
しかし「本当に国民の自由が保障されているのですか?」ということが、本書の投げかける重要なテーマです。
例えば年金・医療。ほとんどの先進国で、年金・医療は国家が担当するものと相場が決まっていますが、本当に「国営」でなければいけないのでしょうか?年金も医療保険も民間企業が多くの商品を発売しており、その中には少なくとも「国営」よりはるかにましなものがたくさんあります。
それなのになぜ、年金や医療保険が国営(強制加入)なのでしょうか?かつての、郵便局対ヤマト(宅急便)の競争でも明らかなように、国民に安くてより良いサービスを提供できるのは、自由競争の中で淘汰されて生き残った民間企業です。逆に旧社会保険庁のような信じられないほど非効率で腐敗した組織は、その問題のすべてを国民の税金(および保険料)によって負担し、しかも日本年金機構と全国健康保険協会(協会けんぽ)という二つの祖息に分かれ「焼け太り」となりました。
つまり、国営(官僚組織)である限り、どのような失敗をしても、組織自体が民間企業のように「倒産」することなく、すべての失敗の責任は国民(主に税負担)に押し付けられます。逆に、問題が生じると自分たちの無能さはそっちのけで、ほとんど関係が無いような原因を探し出してきて「この問題の原因を解決するためにはもっと人員を増強しないといけない」という主著を行い「焼け太り」します。これが「国営」の標準的な姿です。
わかりやすいのが、今でも毎年3月末になるとよく見かける道路工事をはじめとする公共事業です。民間企業であれば「できる限り少ないコストで、できる限り充実したサービスを提供する」ように努力するのは当然のことです。そうしなければ、民間企業は繁栄しません。ところが「国営」では「一度獲得した予算は、どのようにくだらないことに対してでも使い切った方が良い」というのがルールです。事業を効率良く運営してコストを下げ余剰金でも出そうものなら大変なことになります。翌年から予算をその分減らされ人員もたぶんカ
ットされるでしょう。彼らにとって「効率的な事業運営は悪夢」にしか過ぎないのです。
国営企業(ビジネス)が非効率なのは、官僚(役人あるいは公務員)個々人の能力の問題では無く、「成果をあげると評価されるどころか、むしろ非難される」組織のシステムそのものに大いなる問題があるのです。
■我々は本当に自由なのか?
強制加入の国営ビジネスが、我々国民の選択の自由を奪うだけではなく非効率・腐敗の責任を税負担という形で我々に押し付けるのは明らかです。しかし、我々の自由を奪う国家の政策はそれだけではありません。
フリードマンが指摘するのは「免許制度」です。医師・弁護士・(公共教育の)教師に国家の(公的な)免許が必要なことは誰もが当たり前と思っていますが、これもまったく理由がありません。
まず、免許制度は国民に与えられた職業選択の自由を奪うわけですから、慎重に考えなければなりません。また、ユーザーである国民の側からしても国営の免許制度は極めて不便です。例えば医師免許。免許を与える基準が本当に正しいのかどうかは、国営以外に比較の対象が無いのでわかりません。少なくとも、何十年も前に免許を取得した医師の技量や知識が現在どのようなものであるのかはまったくわかりませんし、外科医の手先が器用であるのかどうかもまったくわかりません。さらには、救急隊員や看護師がただ単純に医師免許を持たないがために、必要な治療を行えなかったことによってどれほどの尊い命が奪われたのかわかりません・・・
それに対して、民間企業が金融における格付け会社のように医師の技量を認定したり、格づけすれば、様相は一変します。命にかかわる医療だから、やはり国の免許が・・・という人には、国営の免許制度を残してもかまいません。郵便事業のように、国営の事業を実質的に残しつつ、民間の参入を促せばよいのです。国営事業と民間事業と、どちらが患者の役に立つ医師の技量の評価(ライセンス付与)や格付けを行うことができるのかは火を見るよりも明らかです。
■特殊利益団体と民主主義
「民主主義は国民の総意を反映する」という話があります。確かに理念あるいはある一面だけを見ればこの意見は正しいでしょう。しかし、米国や日本をはじめとする民主主義国家の運営の実態について述べるとしたら、これはまったく間違った意見です。
民主主義の運営の実態から言えば、「少数派の特殊利益団体が多数集まって国の政治を動かしている」のです。
この「特殊利益団体」は、アダム・スミスが国富論の中で「商工業者」と述べているものと基本的に同じです。ビジネスの世界でいう「業界団体」というものに相当します。
特殊利益団体は、自らの少数の仲間の利益を図るために、大多数の国民の利益を侵害する点に特徴があります。わかりやすいのが「コメ問題」でしょう。
昔に比べればはるかにましになりましたが、日本国民は国際価格に比べて異常に高い値段のコメを売りつけられ、そのコメを買う以外の選択はありません(パンを買う場合も異常に高い小麦を使ったパンを買うしかありません)。
望んでこのような高い商品を買う消費者はいないはずですが、国民の声によってこの制度の改革が行われることはありません。なぜなら、国民が1年間に使う米代はそれほど大きくなく、それぞれの消費者が怒りを募らせて「一般利益」団体を設立しないからです。それどころか、「特殊利益団体」を設立するほどの人数さえ集まらないでしょう。
それに対して、国民の数%以下の農民がこの異常に高いコメ価格から受ける恩恵ははかりしれませんし、農業補助金などすべて合わせれば、農家一戸当たり数百万円から数千万円程度の利益は出るのではないでしょうか?
それだけ儲かるのなら特殊利益団体の活動にも熱が入り、資金力にものを言わせて政治家を思いのまま自由に操り、大多数の国民に害を与える政策を延々と続けさせるのです。
もちろん、国会の審議は最終的に多数決によって決まりますから、あまり露骨な自己利益を主張できません。そのため「食糧自給」など色々な屁理屈を広めるわけです。ちなみに、農産物を自給しても、肥料や農産物を運ぶ流通のための原油輸入がストップすれば国民が食糧を手に入れるのが困難になりますし、有事に農家が国民に「適正価格」で農産物を売ってくれるという保証もありません。
結局、民主主義の運営においては、数限りない特殊利益団体が強い力を持ち、国民全体の利益は尊重されにくいし、「選択の自由」は常に危険にさらされているのです。
(大原浩)
★2018年4月に大蔵省(財務省)OBの有地浩氏と「人間経済科学研究所」
(JKK)を設立しました。HPは<https://j-kk.org/>です。
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(毎週木曜日連載)
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