皆さん、こんばんは。
 あすなろ投資顧問の加藤です。

 前回は銘柄選定する上での「企業の分析」や「相場の需給分析」などを中心にお話しました。
 今回は実戦の取引で買い/売りのタイミングを計ったり、株式投資において最重要なポジション管理に欠かすことの出来ない「リスク指標」について書いていきたいと思います。


 株式投資で儲けることばかりに集中して前のめりで投資することは、即ちノーガードで戦場に仁王立ちしているようなもので、運が悪ければ即死(退場)となります。

 よく「資産運用は敗者のゲーム」と揶揄されますが、敗者のゲームとは【ミスによって勝負が決まる】ことを言います。値上がりする銘柄を見つけることや実際に儲けること自体が難しいわけではありません。ただ、それを継続することや逆にミスして含み損を抱えた時に致命傷を負わないことが重要であることを言い表しています。

 要するに敗け方の論理で、全勝するのは土台ムリな話ですから、いかに損失を抑えて撤退できるかも非常に重要だとなるわけです。そして、損失よりも利益を多くする「損小利大」のためにも、マイナス分はできるだけ小さくすることを心がけたいものです。


 利益を狙う上でも、あくまで資産をリスクに晒すわけですから、前回お話した素性の良い企業や需給の良い銘柄を選んで投資することはもちろんですが、タイミングはやはり慎重に見定めていきたいところです。

 そのような観点から、何と言っても地合いが良い時、自らが勝ちやすい時機を探るためにも、“リスク指標”は日頃から必ずチェックしておかれるとよいでしょう。


■リスク認識とポジション管理の重要性

 足元の相場環境で投資家が考えているリスクと言うと何を思い浮かべるでしょうか?
 米国と中国の対立、トランプ米大統領の弾劾、中国の景気減速、英国ブレグジットとEU迷走、中東の地政学リスク、北朝鮮のミサイル発射、香港デモおよび台湾総統選挙、リーマン・ショック時を超える企業債務、大地震等の天災・・・。

 マーケットにとって仮にこれらのリスクが顕在化した場合のことを考えてみましょう。単発と複合でも違ってくるかもしれませんが、おそらく一過性の下げで済むもの、例えばフラッシュ・ショックのようになる場合と、根本的に世界経済を揺るがしかねない、つまり本格的な暴落を引き起こす場合に分かれるかと思います。

 実際には「どれも起こってみないと分からない」というのが本当のところですが、記憶に新しいところでも米中通商協議や北朝鮮のミサイル発射など、ニュースヘッドラインが流れるだけで即座にアルゴ売りが発動した時もあれば、最近では全く意に介さないといったように「時と場合によって市場反応が異なる」と言えます。


 つまり、【相場の先行きなど考えて答えが出せるものではない】ということです。

 私自身、Yahooファイナンスの『投資の達人』にも掲載させていただいて、株価予想などをしていますが、基本的に自分の予想自体は自分で信用していません(笑)。

 当たるも八卦当たらぬも八卦の株の世界で、どうあっても上がるか下がるかは五分五分の確率です。
 だからこそ、勝ちやすい地合いの時こそポジションサイズを厚めにして積極的にリスクを取っていき、一方で手が合わない、どうも地合いが悪い時にはポジションを縮小して現金化しておく、このポジション管理こそが資産を殖やすための肝になってくるのです。


 あ、ちなみにこれはトレード、モメンタム投資する上での心構えで、ウォーレン・バフェットのような投資家とは全く逆の思考となります。

 “暴落の時こそ株を買うチャンス”なのは頭で理解はしていても、いざ実践となると自分のリスク許容度が分かっていない限り難しいものです。

 しかもそんなチャンスは10年に一度と言われますから、それを今か今かと待ち続けるのは例えばベア型のETFである日経ダブルインバース(1357)を買っている方や日経レバ(1570)を空売りしている方は身に染みてお分かりいただけることでしょう。

 いつか起こる危機に賭けるのも一つの手法ではありますが、やはり投資はできるだけギャンブル的な要素を排除すべきものですし、要所での判断する余地があるところが醍醐味でもあると思います。


 そこで、こうしたリスクへの備えとして主だった“リスク指標”さえおさえておけば、守りを固めることができ、それによって積極的な攻めに打って出ることも可能になってくる・・・
 “攻めは最大の防御”ではなく“守りこそが最強の攻め”につながってくるわけですね。

 これは『孫氏の兵法』でいうところの「勝つべからざるは守るなり、勝つべきは攻むるなり」(勝てそうもないなら守るべき、勝てるなら攻めるべき)を地で行く投資戦略なのです。


■今重視しておきたいリスク指標あれこれ

・騰落レシオ

 株式市場でまず代表的なものと言えば、テクニカル分析で相場の過熱感を測る「騰落レシオ」ですね。
 これは市場の値下がり銘柄数に対する値上がり銘柄数の比率から、市場での“買われすぎ”、“売られすぎ”等の状態や、市場参加者の過熱感(強気、弱気)を見る指標とされています。
 100ポイントを大きく上回った場合は買われすぎ、もしくは強気であることを示し、反対に100ポイントを大きく下回った場合は売られすぎ、つまり弱気であることを示していることが判断基準となります。統計・確率論を投資判断に応用したという意味では、他の「ボリンジャーバンド」や「RSI」なんかのテクニカル指標と似ているかもしれません。


・空売り比率

 これも一時期から話題になることが増えましたが、「空売り比率」は東証が発表している1日の売り注文全体に対して、信用売り(空売り)の割合がどれくらいあるかを見る指標です。
 ただし、ヘッジファンドなどがシステマティックにミリ秒単位でHFT(高頻度)取引が行われる現状では空売りされたまま、買い戻されていない売り建ての累計結果を知ったところで、一つの目安となることはあっても暴落を予知するという点ではそれほど重要ではないと言えるでしょう。


 では、そろそろ本題に入っていきたいと思います。

 リスク指標として広く認知されているのが「VIX指数」、あとは聞いたことがある上級者は「スキュー指数」、「Fear&Greed指数」なんかも投資判断に用いられているかもしれませんね。


・VIX指数

 2018年2月、突如として米国のNYダウが前日比1,175ドル安の史上最大の下げ幅を記録したことは「VIXショック」としてあまりにも有名になりました。これは10/9号の『老後資産1億円達成への相場道 ~株式投資において欠かせない基礎知識その2~』でも書きましたが、米長期金利の急上昇が引き金となって株式市場が心臓マヒを起こした事態でした。
 そもそもVIXとはボラティリティー・インデックスの略で、米国のS&P500指数が近い将来、現在の水準から年率で何%上昇もしくは下落し得るのか数値化し、オプション市場の価格から導き出されます。
 投資家の不安心理が高まるとリスク回避行動を取り、プット・オプション(売る権利)を大量に買い込み、VIX指数が上昇することから“恐怖指数”とも呼ばれています。

 このVIXショック時には37ポイント台をつけ2015年のチャイナ・ショック以来の水準に達して、マーケットはまさに売りが売りを呼ぶ負の連鎖となりました。
 記憶に新しい2018年12月25日のブラック・クリスマスと呼ばれた時もこのVIX指数は36ポイント台にまで跳ね上がっており、15ポイント以上は警戒水域、20ポイント以上は避難水域とされています。


・スキュー指数

 “恐怖指数”と呼ばれるVIX指数と同様に投資家の不安心理を測るもう一つの指標が「スキュー指数」です。
 VIX指数よりもテール・リスク(発生する確率はかなり低いとされる一方、起きてしまうと甚大な影響を及ぼすリスク)を意識した指数で、規模的にも数年あるいは数十年に一度の大惨事を察知する指標として、別名“ブラックスワン指数”とも呼ばれています。
 こちらもVIX指数同様にオプション価格から算出されますが、計算式の違いから必ずしも連動するわけではなく、スキュー指数が上昇した最近の例だと2016年6月の英国ブレグジットや2018年8月のトルコ・ショックなどの際に140ポイント台を上回りました。
 これもプット・オプション(売る権利)、いわば掛け捨て保険で万が一の大惨事に備えようとする投資家行動によってその価格が上昇し、ヘッジ(損失回避)ニーズが強いことを表しています。

 これを投資判断に用いる点で重要なのは、必ずしも暴落の予兆としてみることはできないことで、投資家が暴落に身構えているかどうかを表している点をきちんと理解しておく必要があるということです。

 実際に上記のVIXショック時にはこのスキュー指数は遅れて上昇し始め、暴落を受けた投資家が後手に回ってプット・オプションの買いに走ったことを表しています。
 このプット・オプションを買うということは、裁定取引を通じて先物売りを呼び込むため相場の下落圧力に拍車をかけることとなります。

 足元では再びこのスキュー指数が不気味な上昇を見せていると日経新聞の記事にもありましたが、今の相場が強いことの裏返しとして投資家のヘッジニーズも高まっていることを示唆しているとも言えるでしょう。

 つまり、ヘッジの手当てを怠っていた投資が後手に回ることで相場の一段安を招く恐れがあると言える反面、現在は投資家も高値警戒感から攻めと守りの両方を意識して半身で構えていると読み解くことができます。


・有事の金

 昔から株式市場はじめ資本市場でリスクが顕在化した場合には投資マネーはより安全なものへと逃避します。その逃げ場の行き着く先とされるのが実物資産の金(ゴールド)です。

 この金(ゴールド)には安全資産と呼ばれる代わりに金利もつかないため、債券<REIT<株式のようにリスク選好の動きの中では投資価値は見劣りしてしまいます。実際のマーケットにおいても、株式市場が下落すると逆相関で金先物価格が上昇し、株式市場が再び上昇し始めると金先物価格には下落圧力がかかりやすくなります。

 ただし、もう一つ重要なこととして、この金(ゴールド)には通貨的な側面と商品的な側面の二面性があり、景気が過熱することによってインフレ(お金の価値が下がり、モノの価値が上がる)となる場合には、株式同様に上昇することとなります。日本はデフレだから、金投資は金利がつかないから、と言って甘くみることはできません。

 いつの日かお金や株式をはじめとする有価証券、いわばペーパー資産ではなく、実物資産こそ本当の価値がある、とされる日が来るやもしれませんので、時々にでもチェックしておくに越したことはないでしょう。


・ハイ・イールド債(高利回り社債)

 数ある金融商品と呼ばれるものの中で株式はリスクが高いとされていますが、それ以上にリスク性の高い投資対象をご存知でしょうか?それがこのハイ・イールド債、別名:ジャンクボンドと呼ばれる社債です。

 これは取引所における一定の審査基準を満たして上場している企業が資金調達の手段として株式を発行しているのに対し、一般的な銀行融資も受けられないような企業が資金調達する手段として発行する社債のことです。
 企業自体の信用度が低いために当然ながら高い金利が設定されますので、例えば日本のように先進国債券がマイナス金利となっている現状においては、カネ余りの中で利回りを求める投資家にとって重要な投資対象の一つになっています。

 しかし、市場が何らかの危険を察知してリスクに敏感になった場合、真っ先に売られるのがこのジャンクボンドであり、反対にリスクを積極的に選好する場合に急騰するのもまたこのジャンクボンドです。現在はこのジャンクボンドが今年の6月、そして9月それぞれの高値を上回り年初来高値の水準に達しています。

 あれもこれもと全てを絶えず監視するのは大変だと思いますので、最低限チェックするリスク指標としてこのジャンクボンドの動きをみながら投資機会を捉えていくのが最善策かと思います。



 最後までお読みいただきまして感謝の念に堪えません。

 今、日経平均株価は今年の年初来高値水準に位置し、1990年のバブル後最高値まであと一歩のところまで回復してきています。残りわずかとなった2019年、そして節目となる2020年の相場においても、攻めと守りの両方の視点からメリハリの効いた投資スタンスを持って億越えの資産形成を実現していきたいですね。

 次回もまた投資家の皆様に参考としていただける情報をお届けしてまいりたいと思います。

 お楽しみに!


(あすなろ産業調査部 加藤あきら)


[加藤あきら氏の過去コラム]
 老後資産1億円達成への相場道#1 http://okuchika.net/?eid=8729
 老後資産1億円達成への相場道#2 http://okuchika.net/?eid=8746
 老後資産1億円達成への相場道#3 http://okuchika.net/?eid=8815

[加藤あきら氏プロフィール]
 国内・外資の大手金融機関で経験を積んだのち、あすなろ投資顧問に在籍。
 市場動向分析、市場心理分析、チャートだけでは語らない「大局的な視野」を持ち日々銘柄を分析する。顧客に寄り添うアドバイスに定評がある。


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株式会社あすなろ/関東財務局長(金商)第686号/加入協会 一般社団法人日本投資顧問業協会

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