産業新潮
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6月号連載記事
■その13 世界を支配しているのは方程式ではなく「確率」である。世の中は動画である。写真では無い
●方程式は複雑な社会では役に立たない
方程式を使って、「ズバリ一発」で回答が出てくるのは楽しいものである。
人間の「本能的な美意識」を刺激するのかもしれない。
例えば、宇宙の広大かつ複雑な事象をたった一行で表現する「E=mc2」という特殊相対性理論の方程式は、私も美しいと感じる。
さらに、そのアインシュタイン的広大な宇宙と、微小な粒子の世界の理論である量子論を結びつける「神の方程式」が果たして完成するのかどうか?
あるいは、もし完成するとしたらどのようなものになるのかについては、大いに注目している。
したがって、それらの方程式の素晴らしさに魅せられて、社会や経済を
「ズバリ一発」で表そうという経済学者たちの挑戦が続いてきたことは、理解できる。しかし、それらの試みはまったく無駄である。
経済学、社会学が物理学や数学と同じ学問と言っても、実際には全く違う。
しいて言えば、生物学や医学に近い存在である。
例えば、サルの社会行動の研究に方程式を使う動物学者がいるだろうか?
サルの社会というのは、複雑ではあるけれども人間社会と比べれば極めてシンプルである。そのシンプルなサル社会でさえ方程式で表せないのであるから、人間社会を方程式で表すことなどできるはずが無い。
サル社会を「観察」によって解き明かすように、人間社会も「観察」によってしか理解できないのだ。ピーター・F・ドラッカーは、自らを「傍観者」と呼び「傍観者の時代」という本も出しているが、傍観者とは要するに観察者のことである。
「ファーブル昆虫記」が名著であり続けているように「生き物=人間」を理解するための基礎は「観察」なのである。
●世の中は「確率」で動いている
世の中をじっくり観察すると、方程式では無く「確率」で支配されていることが分かる。
実は、世の中だけでは無く、宇宙もそうなのだ。
「真空」と呼ばれる状態でも、空間から絶えず物質が生まれてはすぐに消えるということが起こっている。まるで般若心経のように「有は無、無は有」という世界だ。また、電子やグルーオンなどの粒子のふるまいも確率で決められる。
有名な話に、「素粒子がA地点にいるのかB地点にいるのかは、人間が観測するまで決まらない」というものがある。要するに、「誰かが私に声をかけるまで、私が東京にいる可能性が50%、ロンドンにいる可能性が50%であり、事前には決めることができない」ということだ。
「そんな馬鹿な!」と思うかもしれないが、量子というものがそのようなふるまいをすることは、多くの科学的実験から明らかになっている。
もちろん、人類誕生に至るまでの進化の道筋も確率に支配されている。進化というと、周りの環境に応じて生物が変化するととらえられがちだが、その考えは間違いとは言えないまでも、次のような説明を加える必要がある。
生物のDNAは、宇宙線を浴びることなどによって傷つく。通常は生物が持つ修復機能によって元通りになる。しかし、ごくまれにうまくいかないことがあり、それが「突然変異」となる。「突然変異」のうち、その時の環境に合わないものは「遺伝病」「障がい」と呼ばれるものを引き起こすが、その時点での環境に適したものは「進化」と呼ばれる。
つまり、進化の最高峰に位置するとされる人類も、「突然変異」という確率の上に成り立っているのだ。
したがって、社会・経済も「確率」をベースにして見渡すと、色々なものが見えてくる。
しかし、「確率論」は、ピタゴラスなどの、由緒正しい「伝統的数学」に比べると、つい最近始まった学問である。
16世紀の数学者ジェロラモ・カルダーノによって、その理論が完成したとされるが、彼がギャンブラーとしても有名であったことから、確率論は「成金の二流学問」扱いされてきた。
しかし、カルダーノが、確率論を活用してギャンブルで稼いだということは、彼の理論の正しさが実社会で証明されたということである。また、実用性満点ということだ。
このように、正しさが実証されているのだが、確率論は人間の「本能・直感」に逆らうので、いまだに広く社会に受け入れらていないのが現実だ。
<人間経済科学と賢人たちの教え>
<続く>
続きは「産業新潮」
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6月号をご参照ください。
(大原 浩)
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