中長期の支持線である200日移動平均線の崖っぷちで何度もこらえて、ドル円相場は保ち合いを上方にブレーク、100円台に上昇してきました。本日午前 に発表された日本の10月の貿易統計は事前予想の上限を上回り1兆900億円の赤字となり、19か月連続の貿易赤字を計上しました。輸出の増え方 (+18.6%)に比べて、原油を中心とした輸入の増加(+26.1%)が上回り、予想以上の赤字に寄与したと見られます。

 11月のドル・円相場は、月初に発表された米国の注目経済指標である第3四半期GDP速報値、10月の雇用統計が予想を越えた数字を示したことから、遠 のいたと思われていたテーパリング(量的緩和の縮小)が近くなるかもしれないという憶測が生まれました。10月の政府機関の閉鎖の影響で弱い数字も予想さ れていたことから意外な驚きに、債券市場では利回りは反発、通貨市場ではドルが上昇しました。

 これをひっくり返したのが次期FRB議長に指名されたイエレン氏でした。議会での指名公聴会での証言原稿は事前に公表され、緩和が長期化することが分か ると債券利回り反落、そして、通貨市場はドル売りに傾きました。また、高値更新中の米国の株式市場についてもバブルとは思わないという見方を示したことか ら株式市場も続伸。『イエレン・トレード』と名付けられたようです。日米欧三役そろい踏みの未曾有金融緩和。最短と思われていた米国の出口が予想以上に遠 のいた影響は為替相場ではドル安要因として働き、100円台乗せしてきたドル円相場の頭を重くしています。ちなみに、イエレン発言後にドル・円も売られま したが、麻生財務相の(為替介入に関する)発言を材料に100円台乗せとなりました。これは少々無理やりの材料という感もあります。

 イエレン氏は元々雇用状況に政策の軸足を置くことで有名です。失業率が改善しつつあるとはいえ歴史的な労働参加率の低さも指摘され、未だ足取りは重いと 判断されているのでしょう。また、一部では、量的緩和縮小条件としていた従来のハードルを上げるのではないかと推測する向きもあります。縮小条件が上がる ことで、時期は更に遅くなる可能性もあります。現在の議長バーナンキ氏もイエレン氏も指摘しているように、今後の経済状況次第での判断となるでしょうが、 そのハードル水準はどの辺りなのか今後の注目となります。また、今朝がた流れた来たバーナンキ議長のコメントでは、量的緩和が終了しても低金利は長期間続 くとの見方を示しています。

 先進国の産業は人を以前より必要としなくなっていますので、以前と同じ尺度で雇用を判断するのは難しいのだろうと個人的には思います。また、低インフレ も続いており、縮小時期の決断はかなり難しいのかもしれません。一度踏み出した一連の非伝統的金融緩和を元に戻すリスクは予想以上に難しい決断を伴うので しょう。

 低インフレによるデフレを懸念して、利下げに踏み切ったユーロ圏。量的緩和政策でマイナス金利も導入する可能性も一部で囁かれますが、直近では欧州中銀 幹部が否定的発言をしています。通貨ユーロは利下げ直後には対ドル1.33台、対円131円台まで売られましたが、イエレン氏コメントによるドル売り地合 いにもサポートされ、対ドル1.35台、対円135円台まで戻してきました。

 ユーロ圏では、多くの国で貿易収支の黒字化(緊縮財政で輸出が減ったことも背景)や、問題の元凶と一時言われたPIIGSの中のスペインやアイルランド は回復していると言われます。ただ、多くの国では回復途上であり、ドイツだけが一人勝ちして貿易黒字は過去最大となっています。ドイツだけを考えればユー ロは安過ぎるということになるでしょうが、他の国々にとってはユーロが高い水準。共通通貨を判断するのは難しいです。欧州中銀のさらなる緩和予想が出るた びにユーロは売られる場面があると思いますが、ドル安傾向、デフレ通貨は買われることを考えると、ユーロは底堅く推移するのではないかと個人的には考えて います。

 年末も近づいたので、年初来の対米ドル各通貨パフォーマンスを見てみましょう。
 上昇した主要通貨はデンマーク・クローネ、ユーロ、ニュージーランド・ドル、スイス・フラン、韓国ウオンです。
 一方、大きく下落したのは、南アフリカ・ランドの17%をトップに、日本円の13.37%が続きます。豪ドルも9%の下落でした。
 この背景には、豪ドルの利下げと中銀による豪ドル高牽制発言がありましたが、このところ利下げ観測は後退して豪ドル相場も底固めする可能性が出てきたよ うに思われます。ただ、豪ドルは中国経済との関連性が強いので中国リスクのポジションとの兼ね合いには要注意だと思います。

 やっと100円台に乗せてきたドル円相場。米緩和の長期化の見込みからドルが安い基調にあり上値の重さを感じます。一方で、日本の貿易赤字額が過去最大を更新しているという円安要因に加えて、公的年金機関を含めた海外投資が増える可能性も聞こえています。
 11月は海外筋の決算がらみの動きに加えて、海外では感謝祭からクリスマスにかけてホリデームードになり市場が薄くなる時期に入りますので大きな動きは 期待できないかもしれません。ただ、予想外に良い米経済指標発表などでドルの支援材料が出た場合などでは、タフな抵抗エリアである今年7月高値101円半 ばを試す可能性はあるのではないかと思います。

 早いもので来週末には師走に入ります。年末とはいえ、今年のマーケットは波乱もありそうです。気を抜かず、欲を張り過ぎずに参りたいと思います。

 寒くなりました。読者の皆さまには風邪など召されませんようにご自愛ください。

最後までお読み頂きまして、ありがとうございました。

*11月20日11時執筆。本号の情報は11月19日のニューヨーク市場の終値レベルを基本的に引用、記載内容は参考情報として記しています。

式町 みどり拝

(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。)