北島秀一・山路力也・山本剛志 共同責任編集
【目次】
□クロスレビュー「必食の一杯」
【北島秀一】
【山路力也】
渡なべ@高田馬場「らーめん」
麺やまらぁ@人形町「船橋ソースラーメン」
拉麺阿修羅@船橋「船橋ソースラーメン」
中華料理 大輦@船橋「船橋ソースラーメン+ハムカツ」
好友軒@庄内通「チャーシューメン」
□拉麺人インタビュー
■クロスコラム
□異論激論!
■告知/スケジュール
□編集後記
■巻頭コラム
「お役所仕事じゃラーメンは創れない」山本剛志
評論家でコラムニストの常見陽平さんのブログエントリ「ゆるキャラとB級グルメが地方をダメにする 地元を安売りするのはやめなさい 」を見ていて、時にB級グルメとして創作されることもある「ご当地ラーメン」について補足できれば、と思った。当「ラーマガ」でも、007号の山路さんからのクロスコラム「ご当地ラーメンとB級グルメ」でも取り上げているが、私の思い出も含めて語りたい。
常見さんのブログを読んだのが、ちょうど勝浦タンタンメンの発祥店「江ざわ」でラーメンを待っている時。早春の勝浦はツーリングを楽しむ壮年バイク集団が来ていて、この店にも多く入店。先頭は自転車で来ていた地元の中学生だった。近年ご当地ラーメンとして知名度を上げ、ラーメン店が観光地になるような事もありながら、地元の人達にも馴染まれている味という事であり、ご当地ラーメンの成功例と一例と言える状況であった。
「ご当地ラーメンで町おこし」という話を聞くと、「わが町もでラーメンで町おこしを!」という話になる。しかし、そんなにうまくいかないという事はご存じの通り。特に自治体が主導したケースでは、残念な結果になる事の方が多い。
10年ほど前、あるタウン誌の取材でとある町を訪問した事が思い出される。周辺の町がご当地ラーメンで観光客を集める中、「うちの町も人を呼びたい」と計画を練ったそうが、これといったラーメン専門店がなく、市内の中華屋さんと定食屋さんが参加することに。
取材に行く店は、会長に就任した中華屋さんかと思いきや、副会長の定食屋さんとの事。「取材が会長の店ばかりで不満の声が出ているので」という理由を聞いて心配になってしまった。定食屋さんに着くと、開店時刻になっても店に鍵がかかっている。しばらくしたらご主人がやってきてドアを開けたが「あれ、取材今日だったの?」と悪びれた様子もなかった。そこから1時間もかからずに作られるラーメンに、共通の具を乗せただけというご当地ラーメンには、コメントで苦労させられた。ちなみに、当初21店舗あった参加店は、4年前には4店舗まで減ったとのこと。
自治体がラーメンづくりに関わると、二つの問題が発生する。一つは「公平性」。役所としては「特定の店を支援しただけ」と思われたくはないので、なるべく公平にやろうとする。逆に参加する店は現在も営業しているわけで、「面倒な事はしたくないけど、プロジェクトには名を連ねたい」という思惑の店があったり、「アイデアは出せないけど、街の為に手は動かしたい」という考えの店もある。「ご当地グルメは無理に作らずに、その土地に広まっている味を取り上げるべき」というのが正論。とはいえ、特定店舗の人気メニューを「ご当地の味」として役所がプッシュしようとすれば、その店を支援する事になってしまうので簡単にはいかない。
問題のもう一つは「地産地消」。どうせご当地ラーメンを作るならと、地元農家にウケのいい事を言ってしまうのがお役所仕事。特定産地で作った味だから「ご当地の味」になるわけではない。そんな事をすれば他の地域にその味が広まる事はないし、そもそもご当地にだってその味が広まる事はない。地元客も観光客も「その土地で作った食材」ではなく「その土地に育った味」を食べに来ている事を忘れてはいけない。脱原発デモに「護憲」の旗を持ち込むような「この際せっかくだから問題」は、日本社会共通の課題にも思える。
冒頭に紹介した「勝浦タンタンメン」は、店の側から盛り上がり、大手企業のサイトで紹介された事もあってブームが広がり、「B-1グランプリ」でも上位入賞するほどになった。その理由は、ラー油を使った勝タンの味が現地で長年馴染まれているからであって、勝浦産の素材を使っているからというわけではない。自治体で働いている方にこそ、ご当地グルメを役所が「創る」のは無理があると、認識してほしいものである。
□クロスレビュー「必食の一杯」
一杯のラーメンを三人が食べて語る。北島、山路、山本の三人が、今最も注目しているラーメン店の同じ一杯をクロスレビュー。それぞれの経験、それぞれの舌、それぞれの視点から浮かび上がる立体的なラーメンの姿。今回は2月末、西新宿にオープンした『らーめん こんどる屋』の「塩こんどる」を三人が食べて、語ります。
「塩こんどる」750円