成田空港から直行便で9時間あまり。
米国北西部ポートランド(Portland)は、透き通るような空と水の「ブルー」、生い茂る葉の「グリーン」、大地に根を張る樹木の「ブラウン」で鮮やかに彩られ、カラっとさわやかな空気に、ゆったりと包まれています。
ここには、高さや斬新なデザインを競うランドマークも、 刺激と興奮いっぱいのアミューズメントパークもありません。
ガイドブックを片手に、スケジュールを気にしながら、クタクタになるまで忙しく動きまわる観光客にとっては、いささか拍子抜けするほど「ふつう」の街です。
だから、予定は未定。
気の向くままに歩き、疲れたら立ち止まって、周りの風景をぼんやりながめ、ピリっと冷たい水に触れたり、さわやかな空気を深く吸い込んでみるのです。
「あそこの公園に行ってごらん。緑がきれいなんだ。」
「地ビールなら、そこの醸造所が一番! きっと美味しいから、飲んでみて。」
「街の東側にある、サードウェーブで有名なカフェ、知ってる?」
ポートランドの人々は、誇らしげな表情で、おらが街のおすすめを、たたみかけんばかりに教えてくれます。
半信半疑のまま、彼らの言葉に導かれるように、とりあえず進んでみると、一見、特別なものは何もなさそうにみえる街で、たくさんの輝きに出会いました。
バリスタさんが時間をかけて丁寧に淹れてくれる、「Coava Coffee Roasters」のフィルターコーヒー。
緑と水にあふれる街の公園で、じっくりと語り合う仲間たち。
ダウンタウンを自転車で駆け抜ける、颯爽とした後ろ姿。
街路樹に実る、ブラックベリー。
悠々自適に散歩する、地元のネコ。
ポートランドにあるのは、豊かな自然と寄り添い、何気ない日常にたくさんの輝きを見つけ、自分らしく楽しみながら生きる人々の姿。
ふつうの生活にこそ、たくさんの特別があることを、ポートランドは教えてくれます。
Photographed by Yukiko Matsuoka