週刊 石のスープ
増刊号[2011年11月1日号/通巻No.9]
今号の執筆担当:三宅勝久
■連作コラム【東京アパルトヘイト観察記】vol.1
月額か日額か 〜杉並区から非常勤行政委員の報酬問題を考える
※この記事は、2011年11月に「まぐまぐ」で配信されたものを、「ニコニコ・チャンネル」用に再配信したものです。
■「月額」制は違法
10月30日の東京新聞に「行政委員報酬 月額から日額制、加速」という記事が掲載された。それを読んで複雑な思いにとらわれた。特に司法の状況に疑問が深まった。日額で当然のはずが、月額で合法という最高裁の司法判断が出るかもしれないというのだ。
この手の話はややこしくて一般の人にはわかりくい。それゆえに見落とされがちである。筆者は東京都杉並区に住んでいて、区の税金の使い方についてここ数年首を突っ込んでいる。行政委員の報酬に関して住民訴訟を3件起こした。その経験からみれば、なぜい
ま だに月額だの日額だのでもめているのか不思議でならない。法律によれば原則は日額支給である。常勤と変わらない働き方をしているなど月額で払ったほうが明 らかに合理的な場合を除けば、日額支給でなんら不都合はない。それでも月額にこだわるのは、そのほうがオイシイからだ。非常勤行政委員の報酬を月額制で払 うというのは税金泥棒の手口といってよい。
税金泥棒をやっていいか、悪いかといえば、悪いにきまっている。そんな当たり前のことで延々ともめているのがこの国の現実である。
記事を知ったのは、筆者の裁判を支援してくれている地元の知人からの連絡がきっかけだった。ちなみに非常勤行政委員というのは、選挙管理委員、農業委員、監査委員という地方自治体の特別職のことである。
記事はこうはじまっている。
選挙管理委員長を除く行政委員の月額報酬について、大津地裁判決は勤務日が少ないなど実態に合わないとして初めて違法と判断。月額報酬を疑問視する声が高まった。
調査によると、判決後に日額制を導入したのは二十九道府県あり、このうち静岡など四県がすべての行政委員会委員の報酬を日額制に変えた。神奈川、茨城、群 馬など十七道府県は、一部の行政委員会の報酬を日額制にした。残る愛知など八県は月額報酬を低く抑え、勤務日数に応じ日額報酬を加算する月額・日額併用制 とした。
一部を日額制とした十七道府県のうち、勤務日数を基準に日額制に改めるかどうかを判断したのは神奈川など五県。神奈川の場合、拘束時間が長いなどの理由で、公安委員と、監査委員の一部は月額制を維持した。他の十二道府県は、勤務日数に業務の特性を加味して判断した。〉
月額制は違法だとした大津地裁の判決を受けて、すでに29の道府県で日額制に変更したというものだ。しごく当然の動きだろう。ここまで読んで筆者はそう思った。税金泥棒はやめさせなければならない。
月額で非常勤行政委員の報酬を払うことがなぜ税金泥棒なのか。
非常勤行政委員の報酬支給を定めた根拠法は、地方自治法203条の2第2項と呼ばれる法律で、1956年に成立した。当時は203条第2項と呼ばれていたものだ。
2項 前項の職員に対する報酬は、その勤務日数に応じてこれを支給する。ただし、条例で特別の定めをした場合は、この限りでない
その勤務日数に応じてこれを支給する……つまり、非常勤行政委員の報酬は日額支給が原則だと法律には書いている。ただし「条例で特別の定めをした場合」に限って月額でもよいというきまりである。このただし書きは当初の改正案には入っていなかった。それが全国の自治体からの強力な圧力によってつけ加えられた。「ただし書き」の規定はあくまで日額では払いにくいような特別な理由がある場合にだけ使うべきで、乱用してはならない。当時の自治省幹部の解説はそう釘をさしている。
自治省幹部の解説によれば、常勤職員に払う「給料」と、非常勤職員の「報酬」との違いもはっきりわけている。給料には「生活給」としての意味があるのに対して、報酬にはないというものだ。つまり、給料は仕事に対する対価に加えて、その職員の生活を維持するという目的がある。だから、たとえば病気で休んだ場合にも給料を払う必要がある。ところが「報酬」にはこの「生活給」的な趣旨がいささかもない。純粋に仕事をした実績に対してのみ払うというのだ。