週刊 石のスープ
定期号[2012年4月12日号/通巻No.34]
今号の執筆担当:三宅勝久
※この記事は、2012年4月に「まぐまぐ」で配信されたものを、「ニコニコ・チャンネル」用に2012年3月分として再配信したものです。
■裁判結果の格差
法の番人であり、法の下の平等を守るのが仕事であるはずの裁判所が、法の破壊者であり差別の主人公になっている……
東京地裁・高裁の入り口検査のあり方を観察してきた結果、筆者はそうした確信をますます深めている。法の番人が差別するということは、日本が法治国家でないという恐ろしい事態を意味する。なぜ恐ろしいと感じるのか。
たとえば腹が減ってソーセージを盗むという犯罪を二人の人間が犯したとしよう。ひとりは失業したホームレス、もうひとりは酔っ払って終電を逃した大企業の社員。ホームレスは被害者に弁償するカネもなければ腕利きの弁護士を雇うカネもない。懲役1年執行猶予2年。大企業の社員のほうはすぐに弁償して不起訴。こういうことは日常的にある。
2年ほど前だったが京都地裁でたまたま入った法廷で、ホームレスの男性がハム工場の冷蔵庫に入ってサラミ を盗んだという事件の公判を傍聴した。もともとそこの冷蔵庫で派遣社員として働いていたのが首切りにあって失業し、ホームレスとなった。車で寝泊りしていたがやがて持ち金が底をついた。公園の水を飲んで飢えをしのぐこと3日、空腹に耐え切れなくなった挙句に思いついたのが元の職場だったハム工場の冷蔵庫である。勝手知った冷蔵庫からサラミハムの箱ひとつを盗み出すことに成功した。といってもそんなに苦労した形跡はないので、簡単に入れたのであろう。男性はサラミを食いつなぎながら3日をすごした。そして食料が尽きた後に再び冷蔵庫へ向かったところを警戒していたハム工場の社員によって通報され警察に突き出 されたのであった。
『ああ無常』(レミゼラブル)の主人公・ジャンバルジャンを彷彿させるような切ない事件である。しかし、あきれたのは公判の進め方だった。被告人の男よりはるかに若い女検事がこう言った。
「被告人は現在にいたるまで被害弁償をしておらず、情状酌量の余地はない。懲役2年を求刑します」
サラミの被害額は3000円だった。窃盗・住居不法侵入・窃盗未遂。男性に前科はなかったが、あっという間に重大犯罪者になってしまった。