「児童買春・児童ポルノ処罰法」(児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」)の改正案が29日、自民、公明、維新の3党によって提出されました。この問題は、法律ができてからずっと議論されている問題です。論点は2008~09年のときの改正議論とほぼ変わりません。検討事項に、インターネットのブロッキングが入っただけです。そこで、09年に執筆したこの問題についての記事の一部をお見せしたいと思います(ただし、初出メディアがはっきりしません)。

 国会では「児童買春・児童ポルノ処罰法」の改正案が議論中である。特に、インターネットの利用という観点からは、「児童ポルノ」がどのように規制されていくのかは影響が大きい。

 同法による「児童ポルノ」とは、写真や電磁的記憶(電子的方式、磁気的な方式を含む)によるもので、「性交または性的類似行為」や「児童の性器等を触る行為、児童が他人の性器等を触る行為で、性欲を興奮させ刺激するもの」、「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態で、性欲を興奮させまたは刺激するもの」をいう。

●持っているだけで処罰される?

 改正議論の中心テーマは一つは、単純所持(持っているだけ)を処罰化するかどうかがあげられる。

 すでに、提供、製造、不特定多数への提供、公然陳列は処罰対象になっている。また提供を目的とした製造、所持、運搬、輸出入、保管もまた、同じく処罰される。 規制肯定側から見れば、インターネットは、「児童ポルノ」の供給の道具で、 その大元の「所持」まで規制すれば、「児童ポルノ」の拡散をさらに防げる。

 ファイル交換ソフトを使って、拡散される可能性も大きい。

 ファイル交換交換ソフト「うたたね」を利用して不特定多数のインターネット利用者に児童ポルノの画像を提供する目的でパソコン内の保存していたとして、奈良地検は、愛知県豊田市の会社役員(39)を児童買春・児童ポルノ処罰違反(提供目的所持)罪で奈良地裁に起訴した。

 既に執行猶予付きの有罪が確定したユーザーの4人の男性は、昨年2月~11月に奈良地裁や津地裁であった公判で、ファイル交換の実態を供述。中には児童ポルノやアニメなど1万ファイルを交換し、パソコンに保存していた30代の被告もいた。

 「うたたね」はファイル共有ソフト。最も有名なファイル共有ソフトWinnyとは異なる形式で行っている。Winnyが、不特定多数のユーザーとつながるが、「うたたね」は1対1のやりとりになる。

 不特定多数とファイルが共有されるWinnyの場合は、欲しいファイルを選択してダウンロードをすればよい。ファイルを提供する側はダウンロードしたユーザーを知ることはない。

 うたたねの場合は、欲しいファイルを見つけたら、そのファイルの所有者にメッセージを送り、その相手が承諾したり、別のファイルと交換することでやりとりが成立する。

 一方、規制反対側からは、えん罪の可能性が大きくなることを懸念する声がある。かつてアイドルらが18歳未満のときの「児童ポルノ」作品を所有していれば、手放す必要がある。そればかりか、所持となると、サイトでたまたま児童ポルノを見たときに残ったキャッシュ(残像)や、勝手にメールで添付されてきた画像を消去していない場合も処罰対象に含まれるのか、といった懸念が生じてしまう。

 漫画家や翻訳家、評論家、研究者、ジャーナリストでつくるNGO-AMIが作成した資料によると、「当人が存在を知らずに、児童ポルノを所持していた場合」「当人が被写体の人物を児童とは知らずに、所持していた場合」「親族によって撮影された子どもの裸の所持」「現行法下で合法的に流通している、子どもの裸の実写画像を含む作品の所持」「検挙実績をあげるための、強引な摘発」を懸念している。 

 そして、イギリスやアメリカで実際に起きたケースをあげている。

 「裸で浴槽につかる幼児の写真を見たフィルム現像業者が、当局に通報。母親は尋問された」

 「非常に古い違法化される前に撮影された写真の所持を犯罪と見なされた」

 「子ども時代に虐待された経験を自伝執筆するための参考に、児童ポルノサイトにアクセスした結果、逮捕され起訴された」

 「児童ポルノ摘発の大規模捜査の際、社会的地位を失った逮捕者の中から32人の自殺者が出た。多くは妻帯者で、誤認逮捕もあった」

 「FBIがおとり捜査をして、自ら偽装リンクつくり、クリックした人を強制捜査した」

 といった例だ。

●規制対象に漫画、アニメ、ゲームも含める?

 もう一つの論点は、実在しない児童を描いたポルノの漫画やアニメ、ゲームなどの表現を規制するのかどうか。

 日本ユニセフ協会(ユニセフ東京事務所とは別の任意団体)は「なくそう!子どもポルノキャンペーン」を展開。「子どもポルノ問題に関する緊急要望書」を与野党幹部に提出している。

 それによると、単純所持を処罰対象にいれることのほか、「子どもに対する性的虐待を性目的で描写した写真、動画、漫画、アニメーションなどを製造、譲渡、貸与、広告・宣伝する行為に反対」として、「被写体が実在するか否かを問わず、児童の性的な姿態や虐待などを写実的に描写したものを、『準児童ポルノ』として違法化する」と主張。「アニメ、漫画、ゲームソフトおよび18歳以上の人物が児童を演じる場合」も「準児童ポルノ」として、禁止すべき、との内容だった。

 公明党プロジェクトチームの事務局長・丸谷佳織衆議院議員は私が「月刊公明」の執筆のための取材で、

 「“準児童ポルノ”の規制は、性犯罪の抑止力があるという意見もある。ただ、理論的に話を進めたいが、警察に聞いても、表現物と性犯罪の因果関係を示すデータがない、という。海外の研究はあるが、それだけで法律をつくるわけにもいかない。だから調査研究が必要です」

 と話していた。公明党内部には、「準児童ポルノ」も規制すべきという意見も根強いとされるが、現段階では検討課題だった。

 08年5月16日、自民・公明の与党による「児童買春児童ポルノ禁止法見直しプロジェクトチーム」は、改正案を大筋で合意した。インターネットによる児童ポルノの拡散を止めたいという意志が現れてるものの、規制の範囲をどのようにしていくのか、漫画がアニメを規制するのかどうかは保留している格好になっている。

 合意内容は次のようになっている。

一、何人もみだりに児童ポルノを所持し、保管してはならない。

一、自己の性的好奇心を満たす目的で児童ポルノを所持・保管した者は、1年以下の懲役か100万円以下の罰金に処する。

一、インターネットプロバイダー(接続業者)は、児童ポルノ被害がインターネットの利用で容易に拡大することにかんがみ、捜査機関への協力や被害拡大を防止する措置を講ずるよう努める。

一、(付則)児童ポルノに類する漫画やアニメなどの規制と、インターネットを利用した児童ポルノの閲覧を制限する措置は(1)法改正後の施行状況(2)児童の権利擁護に関する国際的動向(3)関連する調査研究と技術開発の状況-などを勘案しつつ検討、その結果に基づいて必要な措置を講ずる。

 もし、漫画やアニメ、ゲームの表現や、18歳以上の人物が児童を演じる場合も含めて、「児童ポルノ」の規制対象になってしまうと、それらを流通しているあるいは、閲覧できるインターネットの多大な影響があることは間違いない。