コスパやタイパがブームである。映画を早送りで見たり、小説の結末をあらかじめ読んで、無駄を排除する若者の姿勢を嘆く人もいるが、わたしはまだ生ぬるいと思う。
 わたしのまわりには何十年も前からその傾向は存在していた。はるかに徹底した形で。
 イギリスに滞在していたとき、妻は個人教師に英語を教わっていた。毎回、問題集のレッスン一回分の問題を解くことが宿題だった。あるとき、妻が問題を一つおきにしか解いていないことに先生が気づいた。そのときのやり取りは次のようだったと思われる。
「なぜ一問おきに解いているのですか?」
「二問おきの方がよかったんですか?」
「違う! なぜ問題を全部やらないのですか?」
「間引きを知ってますか?大根を育てるときに間引かないといい大根がとれません」 
週刊文春デジタル