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ツチヤの口車 第1417回 土屋賢二「答えに窮する質問」
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週刊文春デジタル
3日前
わたしが入居している老人ホームで、入居者から答えに窮する質問をされることがある。質問は2つある。(1)老人ホームの中には、コーヒーを自動で挽いて淹れてくれる自販機があり、それを利用していると、こう言われることがある。「コーヒー、お好きなんですね」「いえ、そうでもないんです。苦い物が苦手で」 正直...
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ツチヤの口車 第1416回 土屋賢二「感じが悪い3人の女」
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週刊文春デジタル
1週間前
秋が年々短くなっている。秋が残っているうちに味わい尽くそうと思って、木々の紅葉を凝視する。桜の木は、ほとんどの葉が虫に食われている。不思議なことに、葉の1枚1枚がほぼもれなく食べられているのに、虫は1匹も見あたらない。 そこで気づいた。葉を1枚1枚観察すれば、秋を味わい尽くしたことになるのか。むしろ...
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ツチヤの口車 第1415回 土屋賢二「図太い人々」
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週刊文春デジタル
2週間前
喫茶店で80代ぐらいの女性が2人で話しているのが聞こえた。「わたしら死ぬ気がしないよね」と言って大笑いしていた。 テレビで見たが、人里離れた山の中で一人暮らしをしている高齢女性がいるらしい。わたしならコンビニも病院も近くにないというだけで不安で病気になりそうだ(スマホの電池残量が80パーセントになる...
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ツチヤの口車 第1414回 土屋賢二「デタラメ野球解説」
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週刊文春デジタル
3週間前
こんな野球の解説があったらどうだろう。実況アナ「解説は長年メジャーリーグで球拾いをしてきた土野犬慈さんです。この試合どうなりますか?」土野犬慈「断言します。79.26パーセント、ドジャースが勝ちます」「えっ、そこまで細かく断言できるんですか?」「断言できます。下50桁でも言えますよ。勝利の確率が気に入...
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ツチヤの口車 第1413回 土屋賢二「ヘン・ワイドショー」
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週刊文春デジタル
4週間前
テレビのワイドショーには司会とコメンテーターがいる。取り上げる問題には専門外の芸能人もいるし、どんな話題でも専門家として解説する人もいる。 司会とコメンテーターの関係は微妙である。次のようなワイドショーがあったらどうだろうか。コメンテーターは「評論家A」(どんな話題でも専門家として解説する)、「...
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ツチヤの口車 第1412回 土屋賢二「60年の変化」
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週刊文春デジタル
1ヶ月前
60年前、毎日のように喫茶店に通っていた。通い始めて1年後、店主が「この店を買わないか」ともちかけたほどだ。だが、なぜ喫茶店に通ったのか、いま考えると不可解でならない。 当時のわたしが入る喫茶店には条件があった。絶対条件は薄暗さだ。明るい店は、自分のやましさが暴かれるような気がして落ち着かないのだ...
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ツチヤの口車 第1411回 土屋賢二「舌の問題」
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週刊文春デジタル
1ヶ月前
だいぶ前からテレビをつけると料理番組を放送している。知らないうちに料理チャンネルと契約したのかと思うほどだ。 そういう番組は見ない。出演者がいくらおいしくても、わたしはおいしくないからだ。ルックスに恵まれた男がおいしそうにしている番組を見て何が面白いのか? 非の打ち所がない女と結婚した男を見せ...
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ツチヤの口車 第1410回 土屋賢二「ほぼキリストの余生」
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週刊文春デジタル
1ヶ月前
異常な人間になったのだろうか。子どもが異常にかわいいと感じるのだ。子どもの声を聞き、姿を見るだけで、いとおしさがつのり、テレビを見ていて感極まって涙ぐむことさえある。 かつて幼児の泣き声をうるさいと感じたのが嘘のようだ。いまではいつまでも聞いていたいと思う(一緒に暮らしたらノイローゼになるだろ...
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ツチヤの口車 第1409回 土屋賢二「ダイエットと罪の意識」
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週刊文春デジタル
2ヶ月前
教え子に電話した。「はい」 それを聞くと、わたしはあわてて切った。 3分後、再び電話した。「先生、さっき電話をいただきましたよね」「実は電話をかけるまで用事を覚えていたんだけど、つながったとたんに用件を忘れたんだ」「だんだん顕著になってきたんですね。残念です。では失礼します」 そのまま電話が切れ...
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ツチヤの口車 第1408回 土屋賢二「生活の異変を感知しました」
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週刊文春デジタル
2ヶ月前
あれほど気になっていた冷蔵庫のランプの点滅が気にならなくなった。慣れるのだ。赤ん坊が初めてガラガラを見たときの、目を見開いて驚喜する感性は失われるが、その代わり苦しいことは慣れによって軽減されるのだ。慣れを極めれば、部屋の中でビルの解体工事をしていても気にならなくなるのではないかと思う。 冷蔵...
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ツチヤの口車 第1407回 土屋賢二「消費期限切れの魚」
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週刊文春デジタル
2ヶ月前
3日前からどうも落ち着かない。もともと落ち着きがない性分だが、自分の家にいても落ち着かない。むしろ家を出た方が落ち着ける。原因は冷蔵庫だ。 3日前に突然、冷蔵庫のランプが点滅し始めたのだ。これは異常を訴えているサインだ。そのまま放置しておけないよう、神経を逆なでし続け、住人をいたたまれない気持ち...
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ツチヤの口車 第1406回 土屋賢二「誤情報に気をつけろ」
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週刊文春デジタル
2ヶ月前
最近、SNSの誤情報の拡散が問題になっているが、大手メディアの誤報もなくならない。極端に誤報の多い新聞を想像してみた。【9月1日朝刊】昨日、小田川路朗氏が逮捕されたと報じましたが、その際、ふりがなが間違っていました。正しくは「おだ・かわじろう」ではなく、「おだがわじ・あきら」でした。訂正し、お詫びし...
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ツチヤの口車 第1405回 土屋賢二「何を望んでいるのか」
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週刊文春デジタル
3ヶ月前
片づけができない一因は捨てられないことにある。なぜ捨てられないかを考えれば、何を望んでいるかが分かり、それが分かれば自分がどんな人間かを知ることができる。 たいていの問題は、哲学的問題に通じる。わたしは哲学者のはしくれである。何の考えもなしに行動することはない。 ラーメン屋に行くと、脂身たっぷ...
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ツチヤの口車 第1404回 土屋賢二「独身がつらかったころ」
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週刊文春デジタル
3ヶ月前
少子化が止まらない。独身生活が楽しくなったことが一因ではないかと思う。必要な物は年中無休のコンビニで手に入るし、娯楽も充実している。趣味嗜好が違う自己主張の強い者が1人増えても厄介なだけだ。 大学生だったころは一人暮らしが不便だった。正月にはどの店も閉まる。大晦日の夕方、論文に区切りをつけて買い...
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ツチヤの口車 第1403回 土屋賢二「人生を浪費する方法」
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週刊文春デジタル
3ヶ月前
サハラ砂漠を歩き続け、オアシスまであと10メートルまで来たところで何者かが現れ、いきなりわたしを殴った。男か女かは分からないが、こういうことをする人物は1人だけ心当たりがある。 とにかくそれで目が覚めた。口の中がカラカラだ。ロクに声も出せない。あ行はまだしも、さ行になるとまともに発音することもでき...
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ツチヤの口車 第1402回 土屋賢二「花柄のワンピース」
コメ0
週刊文春デジタル
4ヶ月前
30年前、イギリスのケンブリッジ大学に行った。10カ月間だ。 そのころはこれまでになく気負っていた。日本の名誉を一身に背負ったつもりで、国籍を偽ることも辞さない覚悟だった。たいていは「中国人か?」と聞かれることが多く、「そうだ」と答えていたが、あるとき、「そうだ」と答えると、「おお、おれは中国で暮...
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ツチヤの口車 第1401回 土屋賢二「夢は破れる」
コメ0
週刊文春デジタル
4ヶ月前
だれにでも夢はある。特別に魅力を感じ、あこがれ、いずれはああなりたいと夢見たのは、記憶をたどると小学生のときにさかのぼる。 大相撲のテレビ中継が始まったころ、テレビをもっている近所の家に中継を見に行った。横綱の意味もロクに知らないにもかかわらず、数日見ただけで「これだ!」とあこがれるにふさわし...
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ツチヤの口車 第1400回 土屋賢二「違いが分かる男」
コメ0
週刊文春デジタル
4ヶ月前
最近、若者の顔が見分けられない。テレビに出るアイドルもみんな同じに見える。見分けのつかないアイドルをなぜ48人もそろえてグループにするのか理解できない。動きも同じだから、カメラの故障で48重写しになっているのかと思うほどだ。 先日など、今日は人数が少ないと思ったら、韓国のグループだった。 芸能人だ...
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ツチヤの口車 第1399回 土屋賢二「われ思う、ゆえにわれ動かず」
コメ0
週刊文春デジタル
4ヶ月前
5秒ルールを提唱している人がいる。朝起きたら「5・4・3・2・1」のカウントダウンでベッドから出る、次の5秒のカウントダウンでベッドを整え、次の5秒で水を飲み、次の5秒で日光を浴びるなど。 これでストレスが軽減されるという。ふつう目が覚めると、いろいろ考える。
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ツチヤの口車 第1398回 土屋賢二「ガッカリばかりの人生」
コメ0
週刊文春デジタル
4ヶ月前
外見でダマされてはいけない。わたしは見た目が上品であるばっかりに、無欲な人間だと思われているが、実際には物欲が強い人間である。幼少期からほしい物があると買ってくれるまで絶対に妥協しなかった。 家族旅行でデパートに行ったとき、ほしい物があると床に寝転んで力の限り泣き叫んだ。これが親にもっとも大き...
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ツチヤの口車 第1397回 土屋賢二「記憶にありません。記憶力もありません。」
コメ0
週刊文春デジタル
5ヶ月前
待望のツチヤ本の新刊が出る。『記憶にありません。記憶力もありません。』だ。 売れる方法を熟考した。 最初に考えたのは、有害図書に指定されることだ。有害図書になれば、いまよりも読む人は増えるに違いない。発禁になると読みたがる人がいるのだ。読みたがるのはわたしのようにロクでもない人かもしれないが、...
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ツチヤの口車 第1396回 土屋賢二「片づけとダイエット」
コメ0
週刊文春デジタル
5ヶ月前
教え子に電話した。「君の家の食卓か机かサイドテーブルか、平らな台には何か載っている?」「載っています。平らな台って載せるための道具ですから当然です」「その台には食事をするスペースが残っている?」「いえ、もう1つテーブルを買おうかと思ってます」「買わない方がいい。わたしはワゴンを買い、テーブルの下...
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ツチヤの口車 第1395回 土屋賢二「食卓のスペース」
コメ0
週刊文春デジタル
5ヶ月前
ついに立ち上がるときが来た。いまどうにかしないと餓死するおそれもある。「大哲学者餓死! 食卓に食べるスペースがなく」という新聞の見出しが出て、あちこちから「どんな死に方なのか想像もできない」「知らなかった! ツチヤは大哲学者だったのか!」「本の売れ行き不振を苦に自殺したのではないか」といった声...
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ツチヤの口車 第1394回 土屋賢二「ピカピカのフライパン」
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週刊文春デジタル
5ヶ月前
ピカピカに光るフライパンがある。新品としか思えない。わが家にある物のうち、最もきれいな物だ。 それにもかかわらず、知り合いの中年女性(教え子ではないが、向こうが「先生」と呼ぶから教え子扱いしている)に気前よくプレゼントすることにした。「いいフライパンがあるんだが、いらないか?」「間に合ってます...
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ツチヤの口車 第1393回 土屋賢二「そば屋のカツ丼」
コメ0
週刊文春デジタル
6ヶ月前
大学に入学して上京したとき、わたしはセミが地上に出たときのようだった。見るもの聞くものすべて新しく、驚きの連続だった。 セミは地上に出るともっぱら生殖のために短い生涯を捧げるが、わたしはセミよりもキヨラカだった。授業に出て(1週間だけだったが)、部活動にいそしみ(1週間で終わったが)、英字新聞を1...
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ツチヤの口車 第1392回 土屋賢二「イギリスの理容店」
コメ0
週刊文春デジタル
6ヶ月前
時間がたつのは早い。イギリスのケンブリッジに滞在したときから早いもので20年になる。と思ってよく数えたら30年もたっていた。 ケンブリッジは大学町だ。町に住んでいるのは、大学関係者か、その家族か、それらの人々相手の商人か、その家族か、路上生活者か、そのどれでもないかだ。 そこの理容店の多くはイギリ...
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ツチヤの口車 第1391回 土屋賢二「あるフェイクニュース」
コメ0
週刊文春デジタル
6ヶ月前
次のようなフェイクニュースが流された。【このニュース自体もフェイクと判定された】 国語抜本改革協議会 平和の実現のためと称して戦争が起こり、正義の名の下に他の権利を踏みにじり、あなたのためなのよと言いながら粗食を強いる事例が多数発生している。 言語の欠陥によって不幸が生じている事態にかんがみ、...
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ツチヤの口車 第1390回 土屋賢二「誹謗中傷の師弟」
コメ0
週刊文春デジタル
6ヶ月前
教え子がこう言った。「最近、SNSで誹謗中傷がひどいらしいですね」「そうだね。ちょっと万引きしただけで『あの万引き男がソフトクリームを食べ歩きしていたら、犬に吠えられてソフトクリームを道に落っことしてやんの。いい気味だ』などとネットに書かれる世の中だ」「でも万引きは事実犯した犯罪です。誹謗中傷と言...
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ツチヤの口車 第1389回 土屋賢二「誕生日会」
コメ0
週刊文春デジタル
7ヶ月前
40年ほど前、デパートの書籍売り場で働いている教え子を訪ねた。「喜べ! 手放しで喜んでいい。待ちに待った日が来た。泣いて喜んでもいい。やっと訪れたんだ、この日が! そうだろ?」「何があったんですか?」「泣くなよ。君の恩師が誕生日を迎えたんだ」「へ~、おめでとうございます。でもどうしてわたしが喜ぶ...
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ツチヤの口車 第1388回 土屋賢二「ことばに責任をもつ候補者」
コメ0
週刊文春デジタル
7ヶ月前
家庭を平和に保つことがいかに大変なことか、皆様お分かりのことと思います。市会議員に立候補したこの木田君もその一人です。 彼が身を粉にして働き、夜遅く家に帰ると、彼の妻は家が狭い、ほしい宝石が買えないなどと愚痴をこぼし、そのたびに彼は謝りました。奥さんは友人との高級ランチなど、贅沢を尽くした挙句...
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ツチヤの口車 第1387回 土屋賢二「パソコンショップの人々」
コメ0
週刊文春デジタル
7ヶ月前
パソコンを買いに出かけた。スランプを乗り切るために定期的にパソコンを買い換えている。 二畳ほどの狭いショップの中に店員の若者が1人ぼんやり座っていた。質問すると、不安が的中した。説明があいまいで矛盾している。分からなければ「分かりません」と言えばいいのに、推測で答える男だ。 明確な答えを求めると...
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ツチヤの口車 第1386回 土屋賢二「能力と人格」
コメ0
週刊文春デジタル
8ヶ月前
このところ、能力至上主義がはびこっている。このところと言っても、3000年ほど前の古代ギリシアのころ以降だ。そのころにはすでに能力至上主義がはびこり、哲学者も、与えられた能力を発揮する事が幸福だと述べたほどだ。 わたしにはこれといって人が騒ぐほどの能力はない。あえて言えば、他人が見ても分からないが...
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ツチヤの口車 第1385回 土屋賢二「不必要な具材」
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週刊文春デジタル
8ヶ月前
「隠し味」というものが理解できない。本当に隠れているなら、だれにも気づかれないはずだし、気づかれないなら料理に入れても入れなくても同じではないかと思えるのだ。 先日、ナスの肉味噌炒めを作ろうと思いたった。豚バラ肉の解凍に3時間ほどかけた。ふだんは半解凍のまま無理やりフライパンで熱していたが、今回は...
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ツチヤの口車 第1384回 土屋賢二「言ってはいけない」
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週刊文春デジタル
8ヶ月前
コンプライアンスの強化で自由にしゃべれなくなったと嘆く人がいるが、昔から忌み言葉とか禁句というものがあって、自由にしゃべれたわけではない。 たとえばタクシーに乗った客が運転手にこう言ったらどうか。「明日は雪になるらしい。交通も乱れるだろうね。受験生は大変だ」「そうなんですよ。うちの息子が明日受...