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ツチヤの口車 第1294回 土屋賢二「代わりにやってもらえないもの」
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週刊文春デジタル 6日前
われわれは多くを他人に頼っている。毎日食べる野菜、肉、魚を作っているのは他人だし、歩いている道路を作ったのも他人だ。 住んでいる家を作ったのは膨大な数の人々だ。設計、建築資材(たとえば木材)の伐採、運搬、加工、運搬するトラックの製造、石油の採掘やガソリンの精製、ガソリンスタンドの建設など、無数...
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ツチヤの口車 第1293回 土屋賢二「ちょっとGPT」
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週刊文春デジタル 2週間前
チャットGPTが出現して以来、同種の対話型生成AIが続々誕生している。中にはいい加減なものも出てくるだろう。以下のような「ちょっとGPT」が出現する恐れもある。――ダイエットを始めて二十年になりますが、過食がやめられません。やめる方法を教えてください。「いくつか考えられます。(1)貧乏になる。食べるにも困...
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ツチヤの口車 第1292回 土屋賢二「ある連休」
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週刊文春デジタル 3週間前
連休に入ったところで、友人にメールを書いた。【第一信】お元気ですか。わたしは元気なのか、自覚できないほど悪化した重病にかかっているかです。 先日アドバイスしていただいたワイヤレスイヤホン、ついに買いました。セールで安くなっていたのです。音質は最高です。本当に最高の音質なのか、そう思い込んでいる...
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ツチヤの口車 第1291回 土屋賢二「老人の連休」
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週刊文春デジタル 4週間前
世の中は連休だ、リベンジ消費だと浮かれているが、老人ホームに浮かれた様子は微塵もない。ふだんと変わりない落ち着いた時間が淡々と流れている。歳を取ると落ち着きが出てくるのだ。以下は連休中の三日間の日記である。【一日目】休みと言えば旅行だ。観光地はどうか。コロナ前、京都に行くと、街中が外国からの観...
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ツチヤの口車 第1290回 土屋賢二「自立の難しさ」
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週刊文春デジタル 1ヶ月前
わたしの欠点の一つは大人になりきっていないことだ。高齢者にもなって大人でないのはまずい。大人とは自立した人間だと思って、自立促進連絡協議会の会長慈率即心氏に聞いた。「自分のことは自分で決める。これが自立であり、自由である。人類は命を賭けて自由を獲得してきた。自分の運命が独裁者の気まぐれで決めら...
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ツチヤの口車 第1289回 土屋賢二「一心不乱になるとき」
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週刊文春デジタル 1ヶ月前
大谷翔平選手の活躍が世界を驚かせているが、彼の生活ぶりも驚きだ。 野球で活躍するには何をしなくてはならないかを逆算し、それに外れた物は一切口にせず(血液検査をして自分に必要な食べ物を摂取している)、トンカツを出されても衣をはがして中身だけ食べるらしい。 筋トレも睡眠も計算ずくだ。健康オタクだか...
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ツチヤの口車 第1288回 土屋賢二「人のやさしさに触れて」
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週刊文春デジタル 1ヶ月前
久しぶりに感激した。喫茶店でアメリカンを受け取るとき、女店員から「もし濃すぎるようなら、遠慮なくおっしゃってくださいね」といたわるようにやさしく言われたのだ。薄くするには湯を足すだけでいいのだが、胸に大きく響いた。「それぐらいのことで大げさだ」と思うかもしれないが、それほどやさしさに飢えている...
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ツチヤの口車 第1287回 土屋賢二「なぜ怖いのか」
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週刊文春デジタル 2ヶ月前
わたしの妻を知っている人は、わたしを怖い物知らずだと思うかもしれないが、わたしは正真正銘の怖がりだ。地震も病気もジェットコースターも怖い。 だが、なぜ怖がるのか。危害を及ぼす物が怖いのは分かる。だが無害なのに怖い物もある。心底怖いのはこちらの方だ。 たとえば幽霊は怖いが、これは危害を加えるから...
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ツチヤの口車 第1286回 土屋賢二「若いうちしかできないから」
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週刊文春デジタル 2ヶ月前
歳を取ると、分別が出てくるのか(実感はまったくないが)、暴走族に入ったり、楽器を始めるなど、無分別なことはしなくなる。その上、記憶力や判断力は衰え、目はかすみ、耳は遠くなり、筋力も根気も熱意も失われるから、できないことが多くなる。自分の仕事は、静かに隠居することだと納得するようになってくる。 ...
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ツチヤの口車 第1285回 土屋賢二「貸した本」
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週刊文春デジタル 2ヶ月前
教え子に電話をかけた。「本を返してくれないか」「何の本ですか?」「分からない。最近物忘れがひどくてね。手元にないんだ。三日間探しても見つからないから、君に貸したとしか考えられない」「待ってください。何の本か分からないのなら、どうして見つからないと判断できるんですか?」
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ツチヤの口車 第1284回 土屋賢二「自分を責める習慣」
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週刊文春デジタル 2ヶ月前
これまで毎日のように自分を責めてきた。「弟から二十円ダマし取ったことが親にバレた。ダマし方に工夫が足りなかった」「うっかり『うん』と言ったために妻にバレてしまった。何と軽率なんだ」「妻に『独善的だ』と言うべきところを『独壇場』と言ってしまった。何と愚かなんだ」「ついテレビを見てしまった。しかも...
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ツチヤの口車 第1283回 土屋賢二「強欲な老人」
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週刊文春デジタル 3ヶ月前
老人は強欲だというイメージをもっているのは、わたしだけだろうか。子どものころ「欲張りじいさん」の昔話で植えつけられたのかもしれないが、たとえば「守銭奴」というと、老人のイメージがある。ハツラツとした若者が守銭奴だということは想像しにくい。 わたしが抱く守銭奴のイメージは、深夜、薄暗い部屋で一人...
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ツチヤの口車 第1282回 土屋賢二「ChatGPTを使ってみた」
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週刊文春デジタル 3ヶ月前
ChatGPTという対話型人工知能が話題になっている。ChatGPTは、アメリカの医師資格試験、ロースクールの試験、MBA(経営学修士)最終試験で合格点を取ったという。ある大学教授が優秀なレポートに疑問を抱き、ChatGPTに「このレポートを書いたのはお前か?」とたずねると、「その可能性があります」と答えたらしい。 ...
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ツチヤの口車 第1281回 土屋賢二「誤解してくれない」
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週刊文春デジタル 3ヶ月前
誤解されやすい人もいるが、わたしのように誤解されないのも考えものだ。 これまでわたしは恥をしのんで、自分は怠け者で片付けもできない小人物だと書いてきた。いかにもダメ人間のように思うだろうが、威張らない、計画的な悪事を働かない(計画性がないのだ)など長所は数え切れない。数え切れないならもっと挙げ...
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ツチヤの口車 第1280回 土屋賢二「説得によるダイエット」
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週刊文春デジタル 3ヶ月前
ダイエットはどうなった? 心ない知り合いがこう問う。わたしが「心ない」と思う理由は、(1)「ダイエットに失敗した」という答えを期待している(2)わたしの知り合いには心ない者しかいないからだ。 わたしは広くダイエットを宣言すればダイエットできるという「宣言ダイエット」を実践しているため、この質問は...
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ツチヤの口車 第1279回 土屋賢二「禁止することを禁止する」
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週刊文春デジタル 3ヶ月前
なぜ禁止するのだろうか。ほうっておくと困ったことをやりかねないからだ。なぜそう思うのか。人間が困ったことをしてきたからだ。わたしもその一人だ。 禁止といっても、飲酒運転の禁止から二度づけ禁止までさまざまだが、問題は「ギャンブルはやめろ」「食べすぎるな」など、「お前のためだと思って」なされる禁止...
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ツチヤの口車 第1278回 土屋賢二「道具にこだわる男」
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週刊文春デジタル 4ヶ月前
男が軽蔑される点は多々あるが、中でも大きいのは道具へのこだわりだ。男は料理でもカメラでもオーディオでもゴルフでも分不相応なプロ級の道具をそろえたがる。それが無駄な投資に終わるのはほぼ確実だ。 男だって「弘法筆を選ばず」という格言は知っているが、(1)いい道具でないと、自分が悪いのか道具が悪いのか...
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ツチヤの口車 第1277回 土屋賢二「豪胆な勇者かもしれない」
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週刊文春デジタル 4ヶ月前
自分の本性を知っている人は少ない。だが思いがけず、自分の本性に気づかされることがある。 先日テレビで、餅を喉に詰まらせて死ぬ高齢者のニュースを見たとき、わたしは餅が高齢者には危険だと知りながら、雑煮の餅をロクに噛みもせず食べていた。このときだ。もしかしたらわたしは大胆不敵な勇者ではないかという...
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ツチヤの口車 第1276回 土屋賢二「すばらしいリセットシステム」
コメ0
週刊文春デジタル 4ヶ月前
新年という仕組みをだれが考えたのだろうか。一年間たまりにたまった恥や失敗が、年が明けると全部チャラになり、気持ちも新たにゼロから再出発できるという、すばらしい仕組みだ。 ちょうど、借金まみれになって倒産を覚悟していたら、徳政令で借金をチャラにしてもらったような、刑務所に服役中、生きているうちに...
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ツチヤの口車 第1275回 土屋賢二「ストレス軽減法 女を見習え」
コメ0
週刊文春デジタル 4ヶ月前
男より女の方が長生きする。一つには、女の方がストレスが少ないからだ。なぜストレスが少ないのか。 以下はわたしの仮説である。なお、わたしの女性観は、きわめて少数の女性をもとに誇張と偏見と歪曲を加えたものだ。 人間だれでも一度は自分を高めようとするが、それに挫折したときのダメージは大きい。だが女は...
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ツチヤの口車 第1274回 土屋賢二「わたしの買い物」
コメ0
週刊文春デジタル 5ヶ月前
インターネットの通販が安売りセールをするとつい買ってしまう。「安売り」「投げ売り」「期間限定」という語句に弱いのだ。 何を買うかによって人となりが分かる。ブランド物を買う人は女性に気に入られようとしている男か、浮気がバレた男だ。初セリでマグロを買う人は、すしざんまいの経営者だ。ツチヤ本を買う人...
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ツチヤの口車 第1272回 土屋賢二「わたしのW杯」
コメ0
週刊文春デジタル 5ヶ月前
最近、時間がたつのがどうも速すぎると思っていたら、案の定、速くなっていた。今年のある日、地球の自転周期が一・五九ミリ秒も縮まっていたという。 恐れていた通りだ。わたしに残された時間はペースを速めながら減っている。それだけ貴重な時間なのに、不運にも、何の役にも立たず、有害でさえある誘惑が多すぎる...
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ツチヤの口車 第1271回 土屋賢二「どう言えばよかったのか」
コメ0
週刊文春デジタル 6ヶ月前
人生は後悔の連続だ。大学教師のころ、もっと尊敬されてもおかしくなかった。大学教員は尊敬されやすい立場だ。それなのに、気取らない性格だとはいえ、軽んじられたのはなぜなのか。 ああ言えばよかったと思うことが多すぎる。あるとき哲学の研究発表大会を開くことになり、学生が立看板を作っていた。看板がないと...
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ツチヤの口車 第1270回 土屋賢二「夫の人生相談」
コメ0
週刊文春デジタル 6ヶ月前
【問】小遣いを三十年間ずっと上げてもらえません。【答】理由は三つあります。第一に、あなたの稼ぎが少ないからです。大富豪なら、稼ぎの一パーセントの小遣いでも、使いきれないほどになるはずです。 第二に、支出がかさんでいるのです。知らないでしょうが、奥さんは高価な服やバッグなどを買い、高価なランチを奥...
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ツチヤの口車 第1269回 土屋賢二「解決できない問題はどこへ行くか」
コメ0
週刊文春デジタル 6ヶ月前
問題というものは毎日のように発生し、増える一方だ。増え続ける問題はどうなっているのだろうか。 昨日も、食器洗い用スポンジが行方不明になった。おろしたてでよく目立つオレンジ色だ(なくなりやすいから目立つ色にしてあるのか?)。それなのにどこを探しても出てこない。神隠しにあったようだ。何のために神が...
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ツチヤの口車 第1268回 土屋賢二「ボールペン一本分のスペース」
コメ0
週刊文春デジタル 6ヶ月前
通販の会社から試供品と贈呈用ボールペンが送られてきた。安物のボールペンだ。どうせすぐに書けなくなる粗悪品に決まっている。そう思って試し書きすると、意外にもスラスラ書ける。完動品は捨てられない。 それが問題の発端だった。食事や作業の場所にしているのは食卓だ。そこにペン立てを置いてあり、すでに筆記...
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ツチヤの口車 第1267回 土屋賢二「新刊『長生きは老化のもと』の解説」
コメ0
週刊文春デジタル 6ヶ月前
本の売れ行きを決めるのは第一に著者名である。わたしの筆名も「W・シェイクスピア」(ウォレス・シェイクスピア)とか「夏耳漱石」にしてもよかったが、そんな姑息なことはプライドが許さない。それで売れるならともかく、売れるわけがないのだ。 著者名に次いで重要なのは書名だ。世界で最も売れた本は聖書だが、も...
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ツチヤの口車 第1266回 土屋賢二「ンドンゴッン語の概要」
コメ0
週刊文春デジタル 7ヶ月前
最近、北欧のミステリをよく読むが、人名や地名が長くて覚えるのが大変だ。一見、脳トレになりそうだが、実際には、残り少ない記憶力をしぼり取られているような気がする。 人名が長いと色々と困るが、とくにスポーツ実況は困難になる。長い人名の選手同士がボクシングで闘う場合、両者の名前が似通っていて省略でき...
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ツチヤの口車 第1265回 土屋賢二「ブラックで飲むコーヒー」
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週刊文春デジタル 7ヶ月前
コーヒーが好きだ。通と言ってもいいとさえ思う。もしコーヒー愛好家協会という団体があり、そこの理事長になってほしいという要請があれば、月給五万円以上もらえる閑職なら喜んで引き受ける用意がある(閑職なら運転手でも掃除係でもいい。運転免許はないが、仕事がないなら免許は不要だろう)。 実際、その資格は...
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ツチヤの口車 第1264回 土屋賢二「太っ腹な人物」
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週刊文春デジタル 7ヶ月前
昔から太っ腹な人物にあこがれてきたが、胴回りは太くなったものの、細かいことにこだわらない度量の広い人間にはまだ道半ばだ。 太っ腹かどうかは人間の評価に直結する。たとえば何人かで会食し、会計を引き受けて全員から金を徴収し、レジで自分のポイントカードにスタンプを押してもらったりしたら、一発で軽蔑さ...
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ツチヤの口車 第1263回 土屋賢二「予知能力を与えられたら」
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週刊文春デジタル 7ヶ月前
神が側近の聖ツチヤに言った(すべて敬称略)。聖ツチヤは新参だが、持ち前の社交性で神に取り入り、側近格にまでなっている。「困ったもんだ。人間は予知するために科学を発達させ、次の日食がいつ来るかも、青酸カリを飲めば死ぬことも知っている。それなのにもっと予知したいと思っている。なぜだ?」
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ツチヤの口車 第1262回 土屋賢二「ネタバレ・倍速視聴の時代」
コメ0
週刊文春デジタル 8ヶ月前
最近、若者の間で、映画やドラマを倍速で視聴したり、映画や小説のあらすじを紹介するネタバレサイトが定着しつつあるという。 長時間かけて気をもんだ挙げ句、結局つまらない筋だったり、受け入れられない結末だったり、話が理解できなかったりしたら、費やした時間が無駄になる。だからネタバレサイトであらすじを...
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ツチヤの口車 第1261回 土屋賢二「女性専用車両に乗ったら」
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週刊文春デジタル 8ヶ月前
いたたまれない状況を一度でいいから経験したいという人におすすめなのは女性専用車両だ。 駅によるが、関西でホームに上がる階段を駆け上がって飛び乗ると、たいてい女性専用車両だ。関東と違って、関西では女性専用車両の位置は中央部にある。無反省に乗ると、乗客の冷たい視線が突き刺さる。遅滞なく飛び降りれば...
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ツチヤの口車 第1260回 土屋賢二「寝ても覚めても」
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週刊文春デジタル 8ヶ月前
この歳になって、「寝ても覚めても」状態がこんなに続くとは思わなかった。もう五日になる。 五日前、所用で出かけた帰りだった。くたくたに疲れている上に、いまにも雨が降りそうな空模様だ。両手に荷物、肩にカバンをかけ、駅から早足で帰ったら、途中、転ぶに違いない。高齢者に転倒は致命的だ。 タクシーに乗る...