六月二十日、夕方六時半頃。男性は買い物に行こうと、アパート二階の部屋を出た。鉄製の階段を中腹まで降りた時のことだ。
「おぎゃあ」
 か細く、弱々しい声だった。聞こえたのは、階段下の脇に置かれたゴミ箱の方向。猫でも紛れ込んだのかと、男性は蓋を開けて中を覗き込んだ。捨てられていた白いビニール袋の内側に、小さな腕が透けて見えた。力を振り絞るようにもう一度、「おぎゃあ」と声がした。 
週刊文春デジタル