週刊文春デジタル
大作家の中にはことばを一つ考えるのに一日かける人もいるが、わたしも同じタイプだ。わたしの文章を子どもが書くような文章だと思う人がいるかもしれないが、子どもはことばを見つけるのに一日かけたりしない。太っ腹なのだ。
わたしが遅筆なのは、表現を思いつけない上に、思いついた表現のうち、どれが一番適切な表現か判断するのに大作家を上回る時間をかけているからだ。最近、歳をとって進化したのか、ことばを思い出すのにさらに多大な時間を要するようになった。加えて、どんなことばを思い出そうとしているのかを思い出せなかったり、ことばを思い出そうとしていたのかコーヒーを淹れようとしていたのか分からなくなり、遅筆の大作家を完全に凌駕する時間をかけるようになった。
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