読売新聞の渡邉恒雄主筆が亡くなる前日、私は少し緊張して法律事務所にいた。あることを想定して、心が身構えていたのだ。それには理由がある。
 この三年間、私は「文藝春秋」誌上で毎月、「記者は天国に行けない」という連載を続けてきた。
 一体、私たちは何のために、誰に向かって書いているのだろう――。そんな根源的な疑問を持ちながら、記者体験をもとに、息も絶え絶えのメディアの空気や記者の条件について書いていると、どうしても渡邉主筆が君臨した読売編集局の記事封殺や忖度幹部について触れざるを得なかった。 
週刊文春デジタル