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「地政学」は"使える"学問である。|THE STANDARD JOURNAL
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「地政学」は"使える"学問である。|THE STANDARD JOURNAL

2014-03-11 11:36


    おくやまです。

    ふたたびウクライナ情勢についてです。
    
    今回はとくに地政学、とりわけ地理的な観点から、
    ロシアにとってのウクライナの重要性
    というものを考えてみたいと思います。
    
    世界で初めて「地政学的な観点」から
    グローバルな世界戦略というものを提唱したのは、
    アメリカの海軍史家のアルフレッド・セイヤー・マハン
    だと言われております。
    
    このマハンが、米海軍を退役したあと、
    1900年前後に歴史家・ジャーナリストとして
    自分の意見を論文などに投稿しておりました。
    
    そしてこの時に示されていた彼の「世界観」が、
    かなり参考になるものなのです。
    
    -:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-
    
    マハンはどんなことを言っていたのか?
    それはユーラシア大陸において
    
    <南下するロシアvs北上するイギリスという対立構造が存在する>
    
    というものでした。
    かなり大雑把といえばそうですが、
    これはその当時に「グレート・ゲーム」
    として知られていた、
    イギリスとロシアが世界規模で展開していた
    「チェス・ゲーム」そのものです。
    
    このロシアの動きですが、
    総じて「南下政策」と言われておりました。
    
    「南下政策」といえば、ロシアが歴史的にとってきた
    「不凍港」の獲得を狙った領土拡大政策でして、
    これが19世紀のヨーロッパ史の中心となっていた
    と言っても、決して過言ではありません。
    
    地政学の研究上では、
    このロシアの「南下政策」に見られる傾向として、
    
    <ロシアの拡大には大まかに5つの拡大のルートがある>
    
    とされております。
    
    参考までに、この拡大ルートと、
    その結果として引き起こされた、
    主な紛争について列記しておきましょう。
    
    1,シベリア・太平洋方面(日露戦争)
    2,諸スタン・インド方面(アフガニスタン侵攻)
    3,黒海・カスピ海方面(クリミア戦争、グルジア戦争)
    4,北欧方面(ロシア・スウェーデン戦争)
    5,中欧方面(ロシア・ポーランド戦争、フルダ渓谷)
    
    「ロシアっていろんなところと戦争してるんだなぁ」
    
    というのが一般的な感想かもしれませんが、
    「アメ通」読者の皆さんならば、
    これを冷静に「地理」という観点で視て、
    更に色々なことを想定されておられると思います。
    
    例えば、それは、
    
    「ロシアって、4方(というか5方向)を
     侵略ルートで囲まれているんじゃない???」
    
    ということです。
    
    なんだか逆説的かもしれませんが、これは
    「地政学」の分野ではお馴染みのニコラス・スパイクマンが
    戦中にアメリカの今後の大戦略を提案した時のものと、
    その構造が全く同じです。
    
    これはつまり、
    
    「囲まれるのが怖かったら、逆に囲い込んでしまえ!」
    
    というもの。
    
    このスパイクマンの提案が、
    後の冷戦のアメリカの大戦略である
    ソ連の「封じ込め」につながったことは
    有名な話です。
    
    ロシアが今回行っている
    「侵略的」とも呼べる行動ですが、
    実はその根っこには、似たような動機があります。
    
    それは「恐怖」から発生する「攻撃性」です。
    
    -:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-
    
    さて、読者の皆さんも、すでに各種メディアの報道などで
    様々な識者たちの分析に触れていることだと思います。
    
    私が一連の報道を見ていて
    「完全に欠けているなぁ」と感じるのが、
    このロシア(もしくはプーチン)が感じている
    「恐怖」という要素についての指摘です。
    
    そしてここでも重要なのは「地理」という要素。
    
    ジェームス・ビリントンという学者は、
    『聖象画と手斧』(http://goo.gl/56X3TY)
    というロシア文化について分析した有名な本の中で、
    
    「ロシア人の考え方を支配してきたのは、歴史ではなく、地理だ」
    
    と分析しております。
    
    たしかにロシアの気候は厳しいですし、
    遊牧民が外からどんどん侵略してくるわけですから、
    そこに住む人間は「恐怖」にさらされます。
    
    そしてロシアの人間はその「恐怖」があるからこそ、
    強権政治でも甘んじて受け入れる、
    という分析をする人もいるほど。
    
    これを純粋に地理的な観点から見ると、
    この「恐怖感」は「土地が平坦であること」
    に起因しているともいえます。
    
    ウクライナに対する強い姿勢にも、
    このロシア、そしてその国を率いるプーチン大統領に、
    実は「ランドパワー」国家に特有の「恐怖」
    という強烈な動機があったという点について、
    われわれはもっと注目すべきです。
    
    ロシアにとってウクライナやクリミアというのは、
    地理的に影響を受けた「恐怖」をベースにした考えから、
    決して諦めることのできない場所なのです。
    
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    最後に、カーター政権で国家安全保障アドバイザーをつとめ、
    非常に「地政学的な分析」をすることで定評のある
    ズビグニェフ・ブレジンスキーの「予測」に触れておきたいと思います。
    
    アメリカ政府、とくに民主党政権に強い影響を持つとされる
    ブレジンスキーの本は、日本でも発売するとすぐに翻訳されます。
    
    ところが残念なことに、2012年の初頭に出版された
    最新刊(「Strategic Vision」)だけは
    まだ翻訳されていない様子です。
    
    この中で、ブレジンスキーは、
    今後、政情不安になる可能性の高い、
    いわゆる「地政学的に最も危険にさらされている国家」として、
    ウクライナを挙げております。
    
    繰り返しますが、これは今から2年以上前に書かれたものです。
    しかしこれがなかなか含蓄に富んだものなので、
    彼のウクライナに関する分析(p.95)を簡単に紹介しておきます。
    
    まず彼はウクライナよりも先に
    ベラルーシのほうがロシアに吸収される可能性が高い
    と言っています。(←間違い)
    
    しかし最終的に、アメリカが対外的に力を落としたタイミングで、
    EUがベラルーシ吸収に対して腰の引けた対応をすると、
    ロシアは武力も含んだ形で、
    ウクライナも併合するというのです。
    
    しかも、このために、ウクライナに対してロシアが
    経済的な危機を起こす(=演出する)こともある、
    とまで言っております。
    
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    読者の皆さんの中でも、
    「最近、この人の名前を耳にすることが多いな」
    と感じているかもしれない人物に
    国際政治アナリストのイアン・ブレマーという人がいます。
    
    この彼が率いる、
    リスク分析で名高い「ユーラシア・グループ」が、
    今年の「10大世界リスク」というものを発表しております。
    (※PDFダウンロード:http://goo.gl/Mt3NwR )
    
    しかし、この中では、ウクライナのことには
    ほとんど触れられておりません。
    つまり、それほど、
    国際政治というのは予測が極めて難しいわけです。
    
    そして、先程、ご紹介したブレジンスキーさんは、
    「地理」という、"動かしようのない"要素に注目することで、
    将来展開される可能性のある<危機のシナリオ>を
    大胆に予測して、ある意味で、的中させている。
    とも考えられるわけです。
    
    そして、今回、冒頭で、
    アルフレッド・セイヤー・マハンや
    ニコラス・スパイクマンのことを少しお話しました。
    
    読者の皆さんは既にお気付きかと思いますが、
    ブレジンスキーも注目する「地理」から戦略を考えると、
    それが「地政学」になるわけです。
    
    そしてますます複雑化した国際政治の、
    「ワケわからん」という状況を読み解くヒントや知見が、
    この「地政学」という学問にはたくさん詰まっています。
    
    私達の目の前で、今まさにリアルタイムで展開されている
    このウクライナ情勢の中で飛び交う玉石混交の情報を触れていると、
    これは「地政学」の重要性をもっと拡めてゆかないと・・・
    と、決意を新たにしております。
    
    ( おくやま )
    

    
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