THE STANDARD JOURNAL
おくやまです。
ウクライナ問題からスコットランド独立投票、
さらに、シリア内に侵入している「イスラム国」への空爆開始など、
国際的に大きなニュースが立て続けに起こっています。
ですが、今回は、先日の私の番組でも取り上げた、
ドイツが直面している移民問題について少し触れてみたいと思います。
この話は、地味ながらも私達の身近な生活に纏わる話でありつつ、
実は、政治哲学的な問題までも含みます。
まず最初に、これはどういう話かと言いますと、
イスラエルが最近ガザに対する空爆を行ったこともあり、
そのとばっちりを受けて、ヨーロッパでは反イスラエル運動が、
反ユダヤ運動にまで発展してきております。
そのため、ドイツのメルケル首相は、
最近、ある集会で以下の様な発言をしております。
===
反ユダヤ主義を非難=ベルリンで抗議集会-メルケル独首相
【ベルリン時事】(http://goo.gl/nx8VXH)
ドイツのベルリン中心部にあるブランデンブルク門前で14日、
反ユダヤ主義に抗議する集会が開かれ、
メルケル首相は参加した5000人を前に、
「ドイツで差別と排除をはびこらせてはならない」と訴えた。
ナチスによるホロコースト(ユダヤ人大虐殺)の過去を抱えるドイツでは、
ユダヤ人批判はタブー視されているが、イスラエルによる
パレスチナ自治区ガザ地区への軍事作戦を背景に反ユダヤ感情が高まり、
シナゴーグ(ユダヤ教礼拝所)に火炎瓶が投げ込まれる事件も起きた。
===
うーむ・・・火炎瓶までが投げ込まれる事態とは・・・
これは穏やかではないですが、この問題のポイントは
上記のニュース記事にあるような
単純な「反イスラエル運動」というわけではなく、
その背景を見てみるとけっこう深刻な事実です。
それはどういうことかというと
この件について、「ディー・ツァイト」という
ドイツの週刊全国紙に政治担当編集者である
ヨッヘン・ビットナー氏が、ニューヨークタイムス紙に
的確な分析記事を書いておりましたので、
まずはそれを一部ご紹介します。
※
この記事の日本語要約をブログに載せました
▼ドイツの新しい反ユダヤ主義|地政学を英国で学んだ
※
===
▼NYT:What’s Behind Germany’s New Anti-Semitism
(http://goo.gl/D9JS7S)
「ドイツには第二次大戦の時に
反ユダヤ主義が高まってホロコーストにつながったが、
今回盛り上がっている反ユダヤ主義は、過去のものとはちょっと違う」
「欧州の多くの人が直視したくない今回の反ユダヤ主義の現実は、
その運動がイスラム系を背景に持つ
ヨーロッパの人々によって行なわれているということだ」
「とくにここ最近の数ヶ月で、トルコ系やアラブ系のイスラム教徒たちが
熱心に反ユダヤ主義運動を行って逮捕されるケースがドイツ内で急増している」
===
このような衝撃の事実を報じております。
もちろんドイツ国内にはいまだに
ネオ・ナチのような極右の人々もいるわけですし、
ドイツ国内の左派や中道の人々の中にも
「パレスチナをいじめるな!」という義憤から
結果として反ユダヤ的な感情が出ていることも事実です。
しかも、このイスラム系の人々による
イスラエルに対するデモでのヘイトスピーチが相当強烈なようで、
七月にベルリンで行われたデモの時には、
「ユダヤ人たちをガス室に送れ!」
というとんでもないことを叫ぶ人々もいたとか。
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さて、この件はドイツの移民問題にからんでおります。
どういうことかというと、
安い労働力を必要としていた戦後のドイツは、
トルコをはじめとするイスラム系の国から多くの移民を入れてきました。
ところがその移民たちも二世や三世の時代になると、
うまく社会全体に溶け込めずに、
イスラムコミュニティーの価値観に染まってしまい、
親の世代の祖国の反ユダヤ主義をそのまま継承している
というパターンも多いわけです。
しかも、彼らの反ユダヤ主義は
これまでの(戦前の白人たちによる)ものとは
違う文脈なので、ある意味では、
臆することなく堂々と?!
反ユダヤ的な運動を展開できてしまうわけです。
これは、いうなれば、自らのルーツである中東地域の
純粋な?!反ユダヤ主義を、あろうことか、
移民先のドイツに持ち込んでしまった、
という、ドイツにとっては強烈なジレンマです。
なぜなら、先の大戦が終り、せっかく
「ユダヤ人差別は絶対にしない!」
というリベラル的な政策を採用したというのに、
もう一つのリベラル的な政策、つまり
「移民の受け容れ」の政策を取った結果として、
なんと、その移民たちが非リベラルな
反ユダヤ主義を持ち込んできてしまったのです・・・
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ここでいつものように、視点を広げて考えてみます
いわゆるリベラル派、
と呼ばれている人達の思想の中心にあるのは、
一体どのような考え方でしょうか?
論者ごとに色々と意見があるとは思いますが、
私はその一つの要素が「寛容」ではないかと思います。
これを今回のドイツのイスラム移民の例から考えると、
ドイツはリベラル的な政策のアイディアとして、
1,ユダヤ人を差別しない
2,イスラム系の移民を受け入れる
という二つの「寛容さ」を発揮したわけです。
ところがここで誤算だったのが、受け入れた移民たちの一部が、
ユダヤ人を差別する「非寛容」な人々であったという点です。
つまり、ドイツは「寛容」であったがゆえに、
逆に「非寛容」な人々の扱いで
難しい問題を抱えてしまったことになります。
この「寛容さ」に纏わることで、
私自身にも、強い印象が残っているひとつの経験があります。
私が通っていたイギリスの大学院で、
超リベラルな女性の先生が公開セミナーを開いたときのことのです。
この時に彼女が述べていたのは、
「すべての思想(例:イスラム教など)に寛容になるべきです!」
ということ。
そこで、すかさず手を挙げた私のコースメート(米国人)が、
「僕は(非寛容な)ファシズムが好きなんですけど、
この考えも受け入れてくれるんでしょうか?」
と質問したらしいのです。
この強烈なツッコミに対して、
彼女は絶句して、しばし沈黙してしまった・・・とか。
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「寛容」をとれば「非寛容」な人間の扱いに頭を悩ますことになる・・・
これは社会政策だけでなく、人間の生活全般にも言えることですね。
日本においては、今のところ、今回ご紹介したドイツの件ほど、
深刻な事態には陥っていないわけですが、
現在の安倍政権は積極的な「移民政策」を検討しているので、
将来的にはこのようなジレンマに直面するという可能性があります。
「移民」政策の推進に伴って生じる良い点・悪い点は、
政府レベルの人は、当然、認識した上で
政策立案をしているはず(だと信じたいところ)です
そして、このドイツでの問題はもちろん、現在、世界各地で
「移民」に纏わる厄介な問題が火を吹いてる状況を踏まえて
私があえてここでひとつ強調しておきたいことは、
「移民」についての政策を進める上で、そのポジティブな要素だけでなく、
ある種のネガティブな側面こそしっかりと考えておく必要がある。
ということです。
読者の皆さんは「リアリスト」ですので、
なぜ私がそのような“悲観的な“ことを言うのか?
というのは、もはや説明する必要はありませんよね。
( おくやま )
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