この週末に起こった北朝鮮と韓国の、
国境付近での砲撃を含んだ瀬戸際外交については、
日本のメディアでも「もしかしたら第二次朝鮮戦争勃発?!」
ということで注目されましたが、直前になって板門店で
軍の高官たちによる会議を開催することでひとまず収束しました。
この件に関してはさまざまな意見があると思いますが、
私が面白いと思ったのは韓国の大学で
南北問題を研究している西洋人の教授の以下のような意見です。
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●金正恩は危機を盛り上げてから一気に手を引くような、
いわゆる「瀬戸際外交」をまだやり慣れていない。さらに加えて、
彼がどこまで目まぐるしく入れ替わっている北朝鮮の軍や党の
内部を掌握できているのかについても疑問がある。
●また、ソウル側の危機の扱い方にも懸念があり、
韓国は、2010年の延坪島砲撃事件の後から、
不釣合いな反応による抑止理論を採用している。
これはつまり、北が一発撃ってきたら
その3倍から5倍の量を撃ち返すというもの。
●この原則は、海の国境だけでなく、
非武装地帯にも当てはまっているように見える。
だからこそ北から4発の砲撃に対して
韓国は30発以上も撃ち返したのだ。
●では今後の動きはどうなるのだろうか?
両国の首脳とも安全保障会議を開いたのは当然であり、
朴槿恵大統領は疲れた顔をして前線を視察した。
おそらく金正恩も視察するだろう。
●北は8月始めの地雷事件への韓国からの謝罪要求を拒否しており、
韓国も北の高官級協議を拒否した。
北は48時間以内の南の宣伝スピーカーの遮断を要求しており、
これが守られなければ、砲撃を再開するものと見られている。
●韓国はスピーカーを止めるつもりはないし、
不釣合いな反応も止める気はない。
そうなるとどこに落とし所があるのかが不明確になる。
●現在のところは、通常兵力の面で圧倒的に劣っている北朝鮮は、
韓国とアメリカに対して全面戦争を仕掛け、
国をほろぼすようなリスクをかけてくるようには見えない。
●ところが、ここで重要なのは、
金正恩が自軍をどこまで掌握できているのかという点だ。
北の軍の高官たちは南からの挑発(と彼らが感じている)に対して
トップが生ぬるい反応しかしていないことに不満を感じており、
勝手に積極的な行動を起こすこともありえるからだ。
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たしかに一番重要なのは上の分で最後に指摘されている、
金正恩がどこまで軍をコントロールできているのかということ。
われわれが往々にして忘れがちなのが、
自分以外の相手はすべからく「一枚岩」でなく、
内部に対立や分裂があるという事実です。
とりわけ政権を受け継いで日も浅い金正恩は、
クラウゼヴィッツのいう「摩擦」を北朝鮮内部に抱えているなかで、
どのような行動を起こしてくるのかが未知数。
もちろん今後がどのようなものになるのかは誰にも、
さらには当の金正恩自身にもわからないと思いますが、
国際政治におけるドロドロの「摩擦劇」がこれから半島の緊張の中で
展開されつづけていくことだけは間違いありません。