少し古い記事の要約について、一言コメントしておきたいと思います。
中国ですが、十年ほど前から、600年ほど前に実在した人物である
鄭和(Zhèng Hé)という人物を、突然持ち上げて、
新たな「国民的英雄」に祭り上げ始めました。
もちろんその理由は、直近の漢民族の中華帝国である
明(みん、1368年 - 1644年)王朝の時代に、ごく短期間ですが、
この鄭和という人物を中心にシーパワー的な活動を行っていたからです。
「ん?中国は海洋国家だったっけ?」
とお考えになる方もいると思いますが、この鄭和という人物を通じて、
中国は実際に大規模な船団を組んで、
アラブだけでなくアフリカまで足を伸ばして交易活動を行っていたようです。
実際にどこまで遠征したのかはかなり怪しいのですが、
西側諸国には『1421』(http://goo.gl/v9RZTw)
というフランスの著者の本(原著が出たのは2003年)を通じて、
その「史実」が知られるようになりました。
もちろんこのような史実の「再発見」を北京政府が見逃すわけがなく、
あらゆる機会を通じて政治宣伝、つまり、
プロパガンダを行っていることは
ブログの記事の要約でもおわかりの通りだと思います。
これについて私が指摘したいポイントは2つあります。
1つは、どの国家もミアシャイマーが言うような
「ナショナリスト的な神話」(nationalist myths)
を持っていますが、とりわけ中国の場合は
その活用が積極的であるということ。
これは中国共産党の短い歴史を考えれば、
その正統性を補強するために欠かせない作業です。
そしてもう1つは、中国のその宣伝戦があからさまなことです。
たとえば記事の中では、温家宝前首相が欧州訪問の時に
「中国の水夫がコロンブスよりも前に海外に遠征しておりました」
と演説したことや、
胡錦濤前主席が2003年の豪州連邦議会での演説で
「1420年代に鄭和が豪州の沿岸部に立ち寄って
現地を調和的な友好をはかり、中国の文化を伝えました」
と説明しているわけですが、
このような上から目線はかえって逆効果。
もちろんこの原因は、北京政府に充満する
強烈な「世界観」から来ているわけですが、それがかえって強烈であるために、
逆に「ソフトパワー」とはいえないほど周辺国に
警戒感を抱かせるものではないかと私は思うわけです。
強い「世界観」を持っていたとしても、
その宣伝の仕方にはもっと他の方法があるのでは?
今回の記事を要約して、中国は逆に宣伝戦が洗練されていない
という印象を逆に持ってしまいました。