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クラウゼヴィッツの教え:「上から目線」で危機に立ち向かえ!|THE STANDARD JOURNAL 2
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クラウゼヴィッツの教え:「上から目線」で危機に立ち向かえ!|THE STANDARD JOURNAL 2

2016-09-23 18:30

    北朝鮮が核実験を行い、中国は南シナ海で
    相変わらず人工島の埋め立てを続行していることは、
    みなさんもすでにご存知かと思います。

    このような現状とは言え、
    現在のこの瞬間だけを考えれば、
    日本周辺の安全保障環境は
    とりあえず小康状態にあるといえます。
    しかし、ここで、
    戦略や日本の国防を真剣に考える人間であれば、
    あえて以下のような嫌な予測を立てておくべきでしょう。

    もし2010年9月の尖閣沖での漁船衝突事件や、
    北朝鮮のミサイルが日本本土に着弾(!)
    などの事案が発生すれば、それが良い悪いは抜きにして、
    日本の政界やメディアが大騒ぎになり、
    様々な 感情論 が湧き上がってくるであろう。

    ということです。

    そして、実際にそのような状況になったとして、
    この「アメ通」読者の皆さんに、
    ぜひ覚えておいて欲しいことが、三つあります。

    まずその一つ目。

    このような感情論に流されず、
    頭を冷静に保ちながら「上から目線」
    でものを考えていただきたい、ということです。

    本メルマガでは、ものごとを戦略的に考えることを
    提唱しているわけですが、「戦略的に考える」ということは、
    すなわり「上から目線」で考えるということに他なりません。

    昨今の日本では、このような「上から目線」というものが
    メディアなどで非常に嫌われている雰囲気があります。

    しかし、自分が当事者になって
    何かものごとを動かすような立場から
    事態に対処することを考えるのであれば、
    好むと好まざるにかかわらず、
    どうしても「権力者の目線」、
    つまり「上から目線」で考えることが必須となってきます。

    戦略とは純粋な学問ではなく、
    あくまでも実践(そして実戦)重視のもの。
    そうなると、自分が指揮官の立場になって、
    「自分だったらこうする」と考えなければならないのです。

    人々の上に立って物事を決める際には
    多かれ少なかれ「そんな冷酷な!」
    と感じられるような視点が求められるもので、
    そのような思考訓練を普段から行っておくのは必須なのです。

    そして、二つ目です。

    それは、あくまでもものごとを理性的に考える、
    ということです。

    このヒントは戦略論の大家であるクラウゼヴィッツが、
    200年ほど前に書いた『戦争論』の中で、
    すでにいくつか書いております。

    クラウゼヴィッツは、この有名な『戦争論』の中で、
    自分が唯一完成していると認めていた
    第一篇の第一章の最後の部分で、
    これまた有名な「戦争の三位一体」というアイディアを示してます。

    「三位一体」といえばなんだかキリスト教的ではありますが、
    クラウゼヴィッツは純粋に

    「あらゆる戦争には、常に三つの要素が入り混じっている」

    としておりまして、一般的にはそれを
    (1)国民 (2)政府 (3)軍隊
    にそれぞれ当てはめていると言われておりまして、
    そのように解釈して論じている軍人や学者は非常に多いです。

    ところが実際に『戦争論』に書かれている
    三位一体の部分を注意深く読んでみると、その実態は

    <1>(国民などの集団的な)情熱
    <2>(政府などが司る)理性
    <3>(軍が戦う一発勝負という意味での)チャンス

    となるわけです。

    この三要素であれば、
    テロとの戦争においてもローマ時代の戦争であっても、
    そしてもちろん、現代におけるリアルタイムの戦争でも、
    クラウゼヴィッツの理論は当てはまるということになります。

    さて、私が強調したいのは、
    ここで(1)と(2)で「情熱」と「理性」
    という要素が指摘されていることです。

    たしかに戦争というものを客観的に分析すれば、
    そこには「情熱」と「理性」という、
    互いに矛盾したものがあることがわかります。

    そしてクラウゼヴィッツのこの理論からわかるのは、
    戦争を戦略的に遂行するには、
    (2)の政府のような存在が、
    (3)の国民のような集合的な情熱を活用する必要がある、
    ということです。

    ここで重要なのは、

    あくまでも戦争を行う主体が「政府」であり、
    講和などの交渉を行う当事者としての存在として、
    「理性」的に振る舞うことが期待されている。

    というイメージです。

    これを早とちりして考える人は

    「なんだよ、政府は国民を煽って戦争しろってことか?!」

    と怒ることになるわけですが、
    私が言いたいのはそういうことではなくて、
    戦争のような、国家の生存をかけるような大きなプロジェクト
    になると、どうしてもそのような関係性が
    構造的に見て取れるよね、ということです。

    戦時下において、「政府」が理性的な判断をできず、
    ひたすら情熱的になってしまっている状況
    というのは非常に危険なのです。

    さて、このように考えてくると、
    戦略を考える側の心得として、
    ひとつの重要なことに気づきます。

    それは、冒頭で言ったような事案が発生した時に、
    その「情熱」の嵐に流されてはいけない、ということです。

    戦略家というものは、自分を政府の存在のように
    「上から目線」で冷静に状況を眺めると共に、
    周囲が情熱的に動いている時も、
    それを理性的に見てコントロールする役割が
    求められてくるからです。

    これらのことを踏まえて、最後に覚えておいて頂きたい、
    3つめのことです。

    それは、その集団的な情熱を活用しなければならない、
    ということです。

    「いよいよ奥山はヤバいこと言いはじめたぞ…」
    と言われてしまいそうですが・・・(苦笑)、
    本当に状況を理性的に判断できている戦略家であれば、
    もちろん頭を冷静に保つことを前提として、それと同時に、
    自分自身もその情熱の渦の中に入っていかなければならない、
    ということです。

    戦争を「祭り」と考えてみれば、このことがわかります。

    もし、クラウゼヴィッツが正しければ、
    戦略家は計画を立てると共に実践する人間
    でもあるため、感情渦巻くような状況であっても
    事態を冷静に見て、コントロールして、
    それすら利用しなければならないのです。

    さらに噛み砕いて言えば、
    戦略家を、"祭りの実行委員"の一員と見立ててみます。

    すると、警察との交通整理の話やら、
    商店街からの協賛のお願いやら、
    そういう瑣末な交渉事を、冷静に理性的に行いながらも、
    同時に情熱的に神輿をかつぐ人の群れに
    自らも飛び込み、積極的に参加している人間である。

    ということです。

    自分が指揮官の立場になって
    「自分だったらこうする」と考えるとともに、
    国民の側にたって一緒に情熱を盛り上げつつ、状況を計算する、
    ということです。

    3つポイントをお話してきましたが、如何でしたでしょうか。
    すこし長くなってしまったので、
    最初に私が警鐘を鳴らしたことを最後にもう一度言います。

    これからとんでもない、思いがけない事案が突然、
    そして必ず発生します。

    その時に「アメ通」読者のみなさんには、
    ぜひとも、この「上から目線」で冷静に計算し、
    その状況をどう活用するか?
    ということを、冷静に柔軟に、そして、冷酷に、
    ご自身の頭をフル活用して考え出して頂きたいのです。

    われわれは状況に流されます。それは仕方ない。

    ただしその状況に流されつつも、
    冷静に物事を見て、むしろその状況を利用してやろう!
    と心がけるのは、戦略家たる読者のみなさん、
    一人ひとりに、今、最も求められている
    ということを、忘れないで頂きたいのです。

    ( おくやま )


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