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ベストセラー「中国4.0」には書けなかったルトワックの戦略論のポイント|THE STANDARD JOURNAL 2
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ベストセラー「中国4.0」には書けなかったルトワックの戦略論のポイント|THE STANDARD JOURNAL 2

2016-11-28 12:42
  • 1


おくやま
です。

久しぶりのメルマガ更新となります。
実はここ最近に翻訳本の出版前の準備や
出張・学術会議などに追われておりまして、
個人の情報発信ができない状態となっておりました。

その中で個人的に
どうしても発信しておかなければならないと感じているのが、
戦略家であるルトワックについてのことです。

すでにご存知かもしれませんが、
私は今年上半期のベストセラーとなった「中国4.0」の
次回作となる「中国5.0」(仮題)を準備しております。

具体的に何をするかというと、
原著者となるルトワックが10月に来日していたときに
合間を見つけて実行していたインタビューの音源の
原稿起こしと編集を行っているわけです。

ところが同時に「クラウゼヴィッツの”正しい読み方” 」
という本の出版も間近となっているわけですから、
こちらの原稿も見直してチェックしなければならないために、
頭の中が戦略論であふれかえっているような状態です。

そのような中で、ルトワックが
戦略をどのように考えればいいのか
を非常に簡潔に説明している音源が、
前回の「中国4.0」の中で使われなかった
音源の中にありましたので、
参考までに本メルマガの読者の方々に
特別に公開しておきます。

ルトワックは簡潔に
「戦略には2つのポイントがある」
として以下のような議論を展開しております。

---(以下、ルトワック談)---

例えば、あなたが10ドルの収入のうち
5ドルをためてそれを投資するというのは、
一般常識の世界ではよくあることだ。
これはこれで、極めて正しい選択となる。

ところが戦略の世界、ようするに
大規模な戦争のような戦いの世界になると、
いくら戦術レベルで大成功を収めたり、
戦いで目覚ましい勝利をおさめたり、
作戦レベルで成功して
戦域レベルでの相手国土の占領などを行っても、
トップの大戦略のレベルで
最終的な結果が決まることになる。

みなさんがご存知かわからないが、
1945年の初頭になってもイギリス軍が
たった100人のドイツ軍を打倒するのに
300人の部隊を必要としたのだ。

戦いに入って数年後で、
しかも半分がロシアの捕虜で半分が病人であるような、
たった100人の部隊を倒すのでさえ、
英軍はその3倍となる300人も必要としたのだ。

ところがこれらは何の意味もなかった。なぜだろうか?

ヒトラーが参戦した時に、
彼はロシアとアメリカに対抗した形で戦争をはじめたからだ。

しかも自分たちの同盟国は弱小国のイタリアとブルガリアである。

欧州で当時、断トツの精強を誇っていたドイツ軍に、
同盟国であるイタリア軍とブルガリア軍も加われば、
戦闘には100回勝てるかもしれない。

しかし、最終的に「戦争」の勝利を得るためには、
戦場での勝利だけではなく、「外交」や「大戦略」レベルでの
成功こそが致命的な要素となってくる。

これこそが戦略の第1のポイントだ。

それは、たとえ個別の「戦闘」による<成果>を積み重ねても、
最終的な「戦争」の勝利を得ることはできない、ということだ。

よって戦争に直面して戦略を考えなければならなくなった時に
最初にやるべきことは、常識を窓から投げ捨てる、
ということだ。

もちろん一般常識の通じる平時のビジネスや
人生などの世界では、
成果の積み重ねというものが可能になる。

戦略の第2のポイントは、第1のものよりもはるかにヒドい。

それは、戦略の世界では矛盾や逆説(パラドックス)だけが
効果を発揮する、ということだ。

わかりやすい「線的な論理」(リニア・ロジック)は
常に失敗するのだ。

あなたが東京から横浜まで行きたいとすれば、
おそらく直線で最短距離を行くだろう。

ところが戦略の世界では、敵という存在がある。
この敵が、あなたを待ち構えているのだ。
そうなると、最悪の選択が
「直線で最短距離を行く」ということになる。
つまり迂回路だったり、
曲がりくねった道の方が良いということだ。

もちろん一般常識の感覚では、
晴れている昼間に最短距離を行くのが最も良い
ということなる。

ところが戦略の世界では、敵が待ち構えているのだ。
そうなると、夜中の嵐の中に行くべきだということになる。
この世界では、矛盾的なものが正しく、
線的なものが間違っていることになるのだ。

これこそが戦略の世界の土台を構成する2つの要素だ。

成果の積み重ねができないということであり、
非線形であるということだ。

だからこそ人類の歴史というのは、
大きく見れば犯罪や過ちや狂気に満ちており、
教訓が生かされない歴史なのとなっている。

そしてこの理由は、多くの人々の頭が悪くて、
誰かの頭がいいからではない。
それはわれわれ全員が人間の家族の中で育っており、
そこでは戦略を使うように教育されていないからだ。

そもそもわれわれは、家の中で
「両親や妻に対して戦略を使え」とは教わらない。
妻に黙って奇襲をかけて驚かせたり狼狽させることは、
普通はしないものだ。

ところが戦略では、まさにこのようなことが奨励される。
戦略は常に奇襲を狙っているのであり、
奇襲を受けた側は寝首をかかれ、
全く準備ができていない状態であることになるからだ。

こうなると、奇襲を仕掛けた側としては仕事がやりやすくなる。
なぜならそこには、組織管理的な問題しか
残っていないことになるからだ。あとは戦略的な状態ではなく、
平時の一般常識の論理を働かせるように、
ただやるべきことを実行して倒すという作業が残るだけだ。

---(ルトワック談、ここまで)---

いかがでしょうか。本メルマガでは何度も
「戦略の相互作用」というものを強調しておりますが、
ルトワックだけでなく、戦略思想の古典である
『戦争論』を書いたクラウゼヴィッツも、
戦略について同じようなことを書いております。

われわれ日本人は、とりわけ相手に対して
「黙って奇襲をかけて驚かせたり狼狽させること」
を学んではおりません。

ところが国際政治の世界では、
このような戦略的な考えがないと事態の急変に対処できません。
日本が含む世界が直面したのは、
まさにトランプによる「狼狽」的な事態だったわけですから。

もちろん私はルトワックやクラウゼヴィッツや孫子を読めば、
戦略のすべてがわかるとはいいません。
ただしこのような「戦略の基礎となる考え方」を知っておくだけで、
われわれは今後の世界に堂々と
渡り合っていくことができるのではないでしょうか。

ルトワックと孫子の本を準備する中で、
まさにこのようなことを実感しつつあります。

( おくやま )



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久しぶりに文章を読んで鳥肌が立ちましたw

ありがとうございます。

No.1 90ヶ月前
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