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映画監督 菅原浩志のメルマガ №1 「汗をかかない女優」/「スコット監督の話」/「監督のスタイル」
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映画監督 菅原浩志のメルマガ №1 「汗をかかない女優」/「スコット監督の話」/「監督のスタイル」

2012-09-12 17:00

    前回発行した創刊号を読んでいただき、
    ありがとうございます。

    私のメルマガが、どこかに届き、
    何かが変わるきっかけになればと思い、
    発信し続けますので、これからも宜しくお願いします。

    「汗をかかない女優」

    さて、今年の夏は異常に暑かった。
    日本のみならず、アメリカも暑かった。
    脳みそが蛋白質で出来ているのが、
    実感できるほど、暑かった。

    暑いと言ったら、これまでで一番暑い経験が、ラスベガス。
    ラスベガスに初めて行くので、どのくらい暑いか分からないから、
    昼間、車で移動。
    もう、これが間違っていた。
    道は高速道路のフリーウェイーだが、
    だだ、延々と砂漠の中の一直線を走るだけ。
    砂漠のど真ん中に、突如、聳え立つラスベガスの街。
    街に着いて、車から出た瞬間、
    鼻から吸い込んだ空気が熱く、鼻の穴が焼けどした、と思ったほど。
    車は、触れることすら出来ないほど、ガンガンに熱くなっている。
    車のボンネットに卵を落とすと、目玉焼きが出来るほどと言われている。
    ラスベガスがあるネバダ州では、
    昼間飛んでいる鳥が熱で落ちてくることがあると言う。
    つまり「焼き鳥」。
    冗談はさて置き、ギラギラと突き刺さるような暑さで、
    あれ程、暑い夏の日は初めてであった。

    それでは、日本で一番暑い夏を経験したのは、愛知県豊橋。
    映画「早咲きの花」の撮影である。
    昭和29年、豊川海軍工廠が空襲に遭い、
    学徒動員の多くの子ども達が亡くなった実話を映画化した作品。

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    空襲があったのが、8月7日なので、
    私は、太陽の光や、草木の緑が同じような強さで輝いている、
    8月に撮影すると決め、豊橋を訪れたのである。

    ジリジリと照りつける太陽。
    吹き出す汗。
    水分補給する冷水は、直ぐに汗となり、ほとばしる。
    現場で何度着替えても、追いつかなかった。

    そして、豊橋の暑さは、それまで経験した暑さと違い、
    ボディブローのようにゆっくりと、確かに効いてくる暑さ。
    熱中症で病院に運ばれた出演者の子ども達が何人いたことか。

    私も、撮影中、眩しくて、サングラスを手放すことが出来なくなった。
    室内での撮影にも拘らず、
    頭がボーっとして、演出するのが非常に辛い時があった。
    これは、後で分かったのだが、熱中症で自律神経がやられ、
    瞳孔が閉じなくなっていたのである。

    スタッフ全員がサウナに入っているのかと思うほど、
    汗だくになりながら、
    そして、熱中症を患うほどの暑さの中で、
    汗ひとつかかないで芝居をしていた女優がいた。
    浅丘ルリ子さん。

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    彼女は、芦田淳さんのスーツを身にまとい、
    我々と同じ炎天下での状況で、
    照明のライトやレフ板からの反射日光を浴び、
    我々以上に暑い筈なのに、
    額から汗を滲ませることもなく、
    汗を一滴も流さず、芝居をしていた。

    女優は、通常8月は仕事を断ると言われている。
    暑さで吹き出る汗。
    その汗で、メイクが崩れたり、顔がてかったりする。
    その度に、撮影を中断してメイクを直さなくてはならない。
    これでは、仕事にならない。
    そして、これは女優のせいではなく、自然の摂理である。

    だが、どんな過酷な暑さの中でも、
    汗を一滴もかかない女優がいた。

    彼女は言った。
    「暑いからと言って、汗をかいていたら、
    仕事にならないでしょ」

    「心頭滅却すれば火もまた涼し」
    汗をも止めてしまう集中力。
    正にプロの技。プロの仕事。

    浅丘ルリ子さんと一緒に仕事をして、
    大女優とはどういうものかということを教わり、
    益々尊敬する方になった。

    暑い夏になるといつも想い出すエピソードである。

    【THE ROAD TO 映画監督】

    「スコット監督の話」

    またしても、映画監督が亡くなった。
    最近公開された「プロメテウス」のプロデューサーで、
    最後の監督作品が「アンストッパブル」のトニー・スコット。

    イギリス人だが、彼が作り出す映画には、
    物語を引っ張っていくエンジンの強さがあり、
    時には強引にも感じるが、かつてのアメリカ映画的エネルギーを感じる。
    そんな力強さが好きで、彼の監督作品を多く観ていた。
    惜しい監督が、また一人、この世を去った。

    トニー・スコットの兄が、ご存知の方も多いと思うがリドリー・スコット監督。

    「デュエリスト」で監督デビューしてから、
    「エイリアン」「ブレードランナー」「ブラック・レイン」と
    独特の質感と映像で成功を収めていたリドリー・スコット監督だが、
    「男は描けても、女が描けない」と、ハリウッドの業界で言われ、
    そこで彼が、「女を描く」作品として取り上げたのが、
    「テルマ&ルイーズ」。

    そして、リドリー・スコット監督が「テルマ&ルイーズ」のロケハンをしていた時、
    私も、全く同じユタ州でロケハンをしていて、
    よく同じレストランで出会った。

    スタッフとテーブルで食事をする彼。
    多分、その日のロケハンの話をしながらの食事だが、
    スコット監督は物静かで、彼の声が聞こえてこない。
    大柄な態度や人を威圧するような態度が全くない。

    しかし、彼の作品には、
    命を賭して闘う男達が描かれ、
    これでもかと言うくらい、バック・ライティング(※)に拘り、
    映画から独特の質感と臨場感が溢れ出る作品が多い。

    ※バック・ライティングとは、
    登場人物などの被写体が、逆光のライトによってシルエット状、若しくは輪郭が強調されて浮かび上がる照明方法。

    リドリー・スコット監督は、映像の確固たるスタイルを持った監督であり、
    彼独自の世界感を作り出している。

    「監督のスタイル」

    映画監督のスタイルって何?

    一緒に仕事をする助監督に聞いたことがある。
    日本の助監督は10人いたら10人が監督を目指している。
    (アメリカ映画界の助監督はそうではなく、生涯助監督に徹する)
    「監督志望だよね?」
    「はい」
    「将来、監督になったら何をしたいの?」
    「……監督です」

    将来、映画監督になりたい人で、
    その為に、映画の現場で助監督を務め、
    監督の勉強を積んでいる人でも、
    夢は「監督になること」で、
    「監督になってから何をしたい」かが、見えていない。

    映画監督は、オーケストラの指揮者の様に、
    現場のスタッフやキャストを動かす事が好きで、
    映画監督になるのではない。

    岡本喜八監督が言ったこと。
    「映画監督になる条件は三つ。
    ひとっつ。声が大きいこと。
    ふたっつ。人前で困った顔をしないこと。
    みっつ。誰もやってないことをやること」

    一つ目は、映画の現場では、スタッフ、キャスト、エキストラの人が
    数十人から数百人。時には千人以上。
    その人々に、説明や演技指導をしなくてはならないから、
    声が大きくなければ仕事にならない。

    二つ目は、監督は常に、選択に迫られている。
    雨雲が近づいて来ている。
    曇り空で撮影するか、雨が過ぎ去るのを待つか?
    役者の演技が、いまいちだが、次のカットに進まなければ、
    そのロケーションでの撮影が終わらない。
    この芝居でOKを出すのか、もう一度撮影するか?
    そんな時、監督が迷った顔をすると、スタッフは不安になる。
    だから、監督は、どんな状況でも、絶対不安な顔は見せてはならない。

    そして、三つ目が重要。
    「誰もやってないことをやる」
    つまり、既に誰かがやったことをやっても、監督としては駄目だということ。
    常に、新しいビジョンを持ち、
    創造的でなければならないということ。
    己のスタイルを見つけること。
    それが、監督のスタイル。

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    最後に、お知らせです。
    日本映画名作祭2012が11月9日(金)と10日(土)
    北海道札幌市のちえりあホールで、
    「ぼくらの七日間戦争」が上映されます。
    映画祭側のこだわりで、35ミリプリントでの上映です。
    映画上映後、監督トークが予定されていますので、
    もし、お近くにお住まいの方がいらっしゃいましたら、是非どうぞ。
    お問合せ先は、札幌映画サークル TEL:011-747-7314
           札幌市生涯学習総合センター TEL:011-671-3425

    【Q&Aコーナー】では、質問をお待ちしています。
    質問はこちらまで御寄せください。

     
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