最近の株価が高い水準にきていることは、前回ご説明しました。
もしかすると、ここ四半世紀の負けパターンを脱して、「欧米並みに段々上がっていくのが普通である」正常な株式市場に戻ってくる兆しかもしれません。
高値更新時にこういうことを言うと、大抵崩れ始めるのが相場の常なんですけどね(笑)。
ピケティの「21世紀の資本」に学ぶ
最近流行りのフランスの経済学者トマ・ピケティ氏の理論に、「r>g」というものがあります。これは、資本の収益率(r)は、経済成長率(g)を上回るという話です。
ピケティ氏はここから、だから資本を持つ者は経済成長以上に富み栄え、格差が拡大して制御不能になる、と警告しています。
「資本の収益率」は、色々なものを含む広い概念で、例えば「株式の配当金」「利子」「不動産収益」など、財産自体が再生産して生み出す富のトータルで見た成長率のようです。
一方で「経済成長率」は、だいたい世間一般の給与所得者の年収増加分と似たような水準となりそうです。
「資本の成長率」ということでは、株価も同じようなものです。なんとなれば、株式というのは会社の所有権を表すものであって、その価値を表示するものが株価だからです。
ピケティ氏の理屈でいうと、株価の成長は一般的にGDPの成長率を上回ることになりそうです。その理由として、すごくざっと考えると、こんな風になります。
会社の価値の全体増加分=自己資本の増加分+借入金(借入金+支払い金利)の増加分
会社の価値の増加分=当期の営業利益(売上−費用です)+その他の利益
ここで、
費用=原燃料費+人件費(賃金*人数)+家賃や機械の購入やリースの費用など
売上=売上単価*販売数量
会社が、借金を返すだけの利益をギリギリであげている状態だと利益は出ません。
そうすると、ちょっとした不況などで簡単に潰れてしまいます。潰れないで残っている会社は、長期的に平均してみれば利益が出ているということでしょう。
会社の借金の利払いは決まっていますから、ある程度の売上マージンが取れている会社は、自己資本分にそのマージンが乗ってきそうです。
要素ごとの伸び率
一方で、売上の方はどうかというと、販売数量は経済成長と同じくらい伸びそうに思います。単価は、インフレにならなければ上がりません。そうすると、売上は経済成長と同じくらい伸びていきそうです。
費用の方をみると、原燃料費は販売数量に比例して決まってきそうです。したがって、ここも経済成長並みに増加。
人件費はどうでしょう。長期的に販売数量が増えて生産量も増えると、人手もその分必要になって、雇用人数が増えます。このとき、賃金がぐんぐん伸びるかというと、同じ働きに対しては同じ賃金が支払われるでしょうから、ここはあまり伸びないと思われます。
家賃や機械類はどうでしょう。たくさん土地をもっていて、使ってない分を追加的に会社に貸しつけられる巨大な地主は、土地の稼働率が上がって儲かりそうです。機械のリース主なども同じこと。
こうやって要素ごとに伸び方をみていると、賃金などは生産性の向上などに伴って徐々に伸びてくる性質のものです。もしそれがなければ、経済成長に見合った「雇用数」の増加になり、個々人の給料という意味では成長しないでしょう。
しかし、自己資本(株式)、地代などピケティ氏のいう「資本」に属するようなものは、それ以上に伸びそうな気がしてきます。
これを総合して考えると、労働者としての個々人はあまり経済成長の恩恵は受けられず、国家全体としてみれば、雇用数の増加の分だけ労働への支払い分が増える。
これは大体、「経済成長率」に近い値になりそう。
お金持ちでなくても「資本」の側になれる
一方で、「資本」を持っている個人は、その稼働率が上がったり、会社の利益と借入金の利子支払いの差分だけ持っている株の価値が上がったりして、経済成長以上の資産の成長を享受できそうです。
なるほど、株式市場は一般に「経済成長率」以上に成長してもよさそうな気がしますね。
しかし、ここで格差拡大を問題視して「株式市場なんて死んでしまえ」という必要はありません。だって上場市場で流通している株式は、いまや結構少額から投資できるのです。そんなにお金持ちでなくても「資本」の側になることができるんです。
しかし、上の方で私が書いたコメントは「〜しそう」「みたいな気がしますね」を連発しています。怪しいですね〜(笑)
経済分析にも株式投資にも、様々なリスク(不確実性)があるからです。
もっとも本質的には、その負担リスクに応じた期待収益が各生産要素には要求されるであろう、ということです。
ここからしばらく、こうした株式投資について考えなければいけない要素を、ポツポツとお話ししていこうと思います。