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第5話:異変
2018-08-23 13:00104「あつーい…」
扇風機の真ん前を陣取りながら、彼女が言う。
「ほんとに暑いよなぁ。あ、あれ食べようよ、スイカバー」
毎日のように部屋に来ては一緒にスイカバーを食べるのが日課だったので、自然と冷蔵庫のストックも増えていた。が…。
「…ごめん、いらない…」
申し訳なさそうに、体育座りをしながら彼女が言う。
「えっ、珍しい! 最近食欲ないよな、大丈夫か?」
この前夕ご飯を食べに行ったときも、明らかに食べる量が少なかった。夏バテなのだろうか。今年の夏の暑さは異常だから、それも仕方ないのかもしれない。
「大丈夫大丈夫! ごめんね、心配かけて!」
取ってつけたような笑顔。
あの海の一件から、なんとなく気づいていた。彼女の様子がおかしい、と。
何かを隠している。でも、それについて彼女は頑なに口を閉ざし、何も語ろうとはしなかった。僕が詮索しても、乾いた強がりを見せるだけだ。
急に不安になる -
第4話:海デート
2018-08-13 13:0060「わぁぁああああ! ねぇねぇ、すごいよ! 起きて起きて!」
「んー…」
彼女が興奮した様子でバシバシとたたき起こしてくる。
勘弁してくれよ…。こっちは怠惰に怠惰を重ねた夏休みに朝五時起きというミッションを課されて寝不足なんだ…と思いながらも、眠たい目をこすり窓を覗き込む。
「うぉぉぉおおお! すげー! めっちゃ綺麗じゃん!」
「でしょでしょ!? 渋ってたけど、来た甲斐あったでしょ? ほら、わーい!」
わけもなく僕らはハイタッチをした。
僕等は今日、遠出して海へ遊びに来ていた。電車から見える窓の外には、日光を反射してキラキラと輝く海が一面に広がっている。青々とした空には大きな入道雲が浮かんでいる。最高の眺めだ。
「海海海ーっ!」
彼女は嬉しそうに歌を歌いながら、一体何が入っているんだと突っ込みたくなる巨大な大きさのバックから様々なものを取り出す。浮き輪に、ビーチバレーに、何故かア -
第3話:夏祭り
2018-08-02 13:0037「いやー、緊張するなぁ…」
慣れない甚平を何度も着ては脱いではソワソワしている僕。
夏休みが始まる前は空白ばかりだったカレンダーに、大きく赤丸がつけてある。それが、夏祭りの今日だった。地元ではそこそこの規模で賑わう祭りとして有名なのだ。
そして今日、僕の一世一代の大勝負がかかっている…。
「やるしかねえええええええ!」
意味もなくガッツポーズをしながら気合いを入れてみる。緊張と不安で部屋の中にいても汗だくだ。こんな僕をどうぞ愛してくれ、彼女!
そんなときだった。ピンポーン。チャイムが人の訪れを知らせる。彼女だ。
「お待たせ」
浴衣姿に目を奪われる。思わず、言葉が出なかった。華奢な体格に上品な柄の浴衣がよく似合っている。思わず見惚れてしまう。
「ど、どうかなあ…?」
彼女が自信なさ気に、上目遣いで見てくる。
「滅茶苦茶、似合ってるよ。綺麗」
僕の返事に、思わず赤面する彼女。
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