タイトルの「失って初めて気づく」は手垢にまみれた名言であり、あるものが存在することが当然であったために慣れてしまい、それを失ったことによって初めて気づかされる……といった経験を感動的に演出したいものだろう。私たちは塩やマヨネーズを失って初めて気づくのである。
だが、全ての大切なものに対して、「失った状態」を常に想定し続けその大事さをかみ締め続けるのは容易ではない。紙、ペン、右手、健康な胃、靴、電車、電気……人間にとって必要なものは多岐に渡り、その全てに対して「失った場合のつらさ」を考慮しながら生きようとすると、そのために費やした莫大な時間を「失って初めて気づく」結果になりかねない。
とはいっても、恋人との関係だとか、貯金の残額、職、日本の安全といった
「失う確率が多分にあり、または失うことが現実的に想定でき、失った場合の生活の変化が重大なもの」
については、失ったときどう感じ、どう対処できるかをある程度想定した上で、そうならないように計画しておくことが合理的であろう。
あれだけドラマや歌で詠われているにもかかわらず、いまどき恋人の大切さを「失って初めて気づいて」いるとすれば、ただただ無念としかいいようがない。彼(彼女)はおそらく、今後も失い続け、失って初めて気づき続けるだろう。
覚えようぜ……。